このページの要点
- 傷害・暴行・窃盗は親告罪ではなく、告訴期間(6か月)はありません。公訴時効は傷害10年、窃盗7年、暴行3年です。
- 器物損壊(刑法261条)と過失傷害(209条)は親告罪です。犯人を知った日から6か月以内に告訴が必要で、公訴時効はどちらも3年です。
- 騒音による慢性頭痛症、PTSD、薬物による意識障害も傷害に当たるとした最高裁の判断があります。診断書の公的な記載基準は確認できていません。
- 親族による窃盗は、配偶者・直系血族・同居の親族なら刑の免除、それ以外の親族なら親告罪です(刑法244条)。1項の親族関係は所有者との間にも必要とした最高裁決定があります。
結論:傷害と窃盗に告訴期間はなく、器物損壊と過失傷害は犯人を知ってから6か月です
結論
- 傷害(刑法204条)・暴行(208条)・窃盗(235条)は親告罪ではありません。告訴がなくても起訴でき、告訴期間(6か月)の制限もありません。期限になるのは公訴時効で、傷害10年、窃盗7年、暴行3年です。
- 器物損壊(261条)と過失傷害(209条)は親告罪です。告訴は犯人を知った日から6か月以内にする必要があり(刑事訴訟法235条)、公訴時効はどちらも3年です。
- 窃盗は、犯人が親族のときだけ扱いが変わります。配偶者・直系血族・同居の親族なら刑が免除され、それ以外の親族なら親告罪になります(刑法244条)。
- 外傷がなくても「傷害」に当たるとした最高裁の判断があります(騒音による慢性頭痛症、PTSD、薬物による意識障害)。
このページでいう告訴は、被害を受けた人などが警察(司法警察員)または検察官に対し、犯罪にあった事実を伝えて犯人を罰してほしいと申し出ることです。申し出を書面にしたものを告訴状、申し出る人を告訴人、罰を求められる側を被告訴人(捜査の段階では被疑者)といいます。親告罪は告訴がなければ検察官が起訴できない罪、非親告罪はそれ以外の罪です。
期限は二つあります。親告罪だけにある告訴期間(犯人を知った日から6か月。刑事訴訟法(以下「刑訴法」)235条)と、どの罪にもある公訴時効(一定の期間が過ぎると起訴できなくなる制度)です。
傷害・暴行・過失傷害の違い:けがの有無と故意で罪名が分かれる
体への被害の罪は、けがをしたかどうか、わざとかどうかで分かれます。殴る・蹴るなどの暴行を受けてけがをすれば傷害罪、けがに至らなければ暴行罪です。暴行罪(208条)の「人を傷害するに至らなかったとき」という文言が、この分かれ目を示しています。
わざとではなく不注意でけがをさせられた場合は、過失傷害罪(209条)です。こちらは法定刑が罰金・科料だけで、親告罪とされています。業務上必要な注意を怠った場合や重大な過失による場合は、業務上過失致傷・重過失致傷(211条)になり、親告罪ではありません。
過失により人を傷害した者は、三十万円以下の罰金又は科料に処する。
2 前項の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。
要旨不注意で人にけがをさせた罪は罰金・科料だけで、2項により告訴がなければ起訴できません。傷害罪(204条)と暴行罪(208条)には、このような定めがありません。
傷害・暴行・過失傷害の比較(刑法と刑訴法250条の条文から)
| 罪名(条) | 何があったとき | 法定刑 | 親告罪か・告訴期間 | 公訴時効 |
|---|---|---|---|---|
| 傷害(刑法204条) | わざと人の身体を傷害した | 15年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金 | 親告罪ではない。告訴期間なし | 10年(刑訴法250条2項3号) |
| 暴行(刑法208条) | 暴行を加えたが、けがに至らなかった | 2年以下の拘禁刑若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料 | 親告罪ではない。告訴期間なし | 3年(同項6号) |
| 過失傷害(刑法209条) | 不注意で人にけがをさせた | 30万円以下の罰金又は科料 | 親告罪(209条2項)。犯人を知った日から6か月 | 3年(同項6号) |
| 業務上過失致傷・重過失致傷(刑法211条) | 業務上の注意を怠り、又は重大な過失でけがをさせた | 5年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金 | 親告罪ではない。告訴期間なし | 5年(同項5号) |
公訴時効は、法定刑の長期を刑訴法250条2項に当てはめた年数です。複数の罪が重なる場合や共犯、改正前の行為は、この表では扱っていません。年数の決め方と時効が止まる場合は、公訴時効の早見表のページで説明しています。
傷害罪の公訴時効は、法定刑の長期が15年なので、刑訴法250条2項3号(長期15年以上の拘禁刑に当たる罪)により10年です。暴行罪と過失傷害罪は3年です。なお、配偶者など身近な人からの暴力について、傷害罪・暴行罪には親族の間の特例の定めがありません。安全の確保や相談先は、脅迫・恐喝・ストーカーの告訴のページで案内しています。
「傷害」に当たる範囲:外傷がなくても傷害とされた判例
刑法204条は「人の身体を傷害した」とだけ定め、何が傷害かを条文で定義していません。その範囲を示した最高裁の判断には、殴る・蹴る以外の手段や、目に見える傷が残らない症状を傷害と認めたものがあります。
最高裁第二小法廷 平成17年3月29日決定
平成16年(あ)第2145号・刑集59巻2号54頁裁判所サイトの判示事項・裁判要旨で確認
- 事案
- 自宅から隣家の住人に向けて、連日連夜、ラジオの音声や目覚まし時計のアラーム音を大音量で鳴らし続け、精神的ストレスを与えて慢性頭痛症などを生じさせた事件です。
- 判断の要点
- 精神的ストレスによる障害が生じるかもしれないと認識しながら大音量を出し続けたこうした行為は、傷害罪の実行行為に当たると判断しました。
確認した場所:裁判所 裁判例検索
この事件の第一審(奈良地裁 平成16年4月9日判決、平成15年(わ)第570号)は、慢性頭痛症・睡眠障害・耳鳴り症を負わせた行為を傷害に当たるとし、当時の刑名で懲役1年としました。判決文には、被告人方の方向から出た騒音を測った数値が認定事実として書かれています(裁判所サイトの詳細ページと判決文PDF(読み取り文字)で確認。認定事実の細部・量刑の理由は未確認)。ただし、生活音の範囲の騒音一般が傷害罪になるとした判断ではありません。
最高裁第二小法廷 平成24年7月24日決定
平成22年(あ)第2011号・刑集66巻8号709頁裁判所サイトの判示事項・裁判要旨で確認
- 事案
- 被害者を不法に監禁し、その結果、被害者が外傷後ストレス障害(PTSD)を発症したとされた事件です。
- 判断の要点
- 医学的な診断基準で求められる特徴的な精神症状が続いて現れていることなどからPTSDの発症が認められる場合、その障害を生じさせたことは刑法上の傷害に当たり、監禁致傷罪が成立するとしました。
確認した場所:裁判所 裁判例検索
最高裁第三小法廷 平成24年1月30日決定
平成22年(あ)第340号・刑集66巻1号36頁裁判所サイトの判示事項・裁判要旨で確認
- 事案
- 病院で勤務・研究をしていた人に睡眠薬などを摂取させ、約6時間または約2時間、意識障害と筋弛緩作用を伴う急性薬物中毒の症状を生じさせた事件です。
- 判断の要点
- こうした症状を生じさせた行為は傷害罪に当たるとしました。体に傷が残らない場合でも傷害に当たりうることを示す例です。
確認した場所:裁判所 裁判例検索
三つの判断はいずれも、慢性頭痛症、PTSD、急性薬物中毒という具体的な症状を認定したうえでのものです(PTSDの決定は医学的な診断基準に触れています)。どのような症状が、いつから、どのくらい続いているかという記録が、傷害に当たるかを考える出発点になります。
診断書と記録:傷害の結果を示す資料について資料で確かめられたこと
告訴の受理を定める犯罪捜査規範63条1項は、司法警察員たる警察官に、管轄区域内の事件かどうかを問わず受理するよう求めています。同条にも、被害届の受理を定める61条にも、診断書を受理の条件とする定めはありません。傷害罪の条文(刑法204条)にも、治療期間(「全治○日」)の下限は書かれていません。
一方で、傷害罪では「けがをした」という結果が罪の成立に関わるため、症状や治療の経過を示す資料は、その結果を裏づけるものになります。騒音の第一審判決では、測定した騒音の数値も認定事実に入っています。
費用の面では、警察庁の犯罪被害者等施策のページが、警察における制度として、身体犯の被害者の刑事手続での負担を軽くするため犯罪被害に係る診断書料等を公費で負担していると案内しています。問い合わせ先は、事件を担当する警察本部・警察署とされています。
- けがや症状:医療機関の診断書、受診した日と診療の記録
- けがの様子:日付の分かる写真(時間がたつと見た目が変わるため、その日のうちのものがあれば)
- 出来事の経過:いつ・どこで・誰に・何をされたかのメモ、目撃した人
- 騒音など継続する行為:日時の記録、測定した数値(騒音の判例で認定事実に使われた種類の資料)
確認できていないこと
診断書に何をどう書けば足りるかといった公的な記載基準、全治日数と立件の関係を示す警察・検察の文書は、調べた範囲では確認できませんでした。診断書料等の公費負担の対象・上限・手続の細目も確認できていないため、担当の警察署で確かめる必要があります。
器物損壊:親告罪なので、犯人を知ってから6か月以内に告訴する
他人の物を壊したり、使えなくしたりした場合は器物損壊罪(刑法261条)です。条文は「損壊し、又は傷害した」と書いており、物だけでなく動物を傷つけた場合も含みます。器物損壊罪は刑法264条で親告罪とされているため、告訴がなければ起訴できず、告訴は犯人を知った日から6か月以内にしなければなりません(刑訴法235条)。公訴時効は3年です。告訴期間は犯人を知った日から、公訴時効は犯罪行為が終わった時から数えるため、どちらか早く来たほうが実際の期限になります。
前三条に規定するもののほか、他人の物を損壊し、又は傷害した者は、三年以下の拘禁刑又は三十万円以下の罰金若しくは科料に処する。
要旨私用文書・建造物などほかの条に当たらない「他人の物」の損壊・傷害を広く対象にしています。264条により、この罪は告訴がなければ起訴できません。
「壊された・隠された」被害の罪名と扱い(刑法259条〜264条)
| 罪名(条) | 対象 | 親告罪か | 公訴時効 |
|---|---|---|---|
| 私用文書等毀棄(259条) | 権利・義務に関する他人の文書・電磁的記録 | 親告罪(264条)。告訴期間6か月 | 5年 |
| 建造物等損壊(260条) | 他人の建造物・艦船 | 親告罪ではない | 5年 |
| 器物損壊等(261条) | 上記以外の他人の物(動物の傷害を含む) | 親告罪(264条)。告訴期間6か月 | 3年 |
| 信書隠匿(263条) | 他人の信書 | 親告罪(264条)。告訴期間6か月 | 3年 |
法定刑は259条・260条が5年以下の拘禁刑、261条が3年以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金若しくは科料、263条が6月以下の拘禁刑又は10万円以下の罰金若しくは科料です(e-Gov)。時効は法定刑の長期を刑訴法250条2項に当てはめた年数です。
親告罪であっても、警察が告訴の前に何もできないわけではありません。犯罪捜査規範70条は、親告罪の犯罪があると知った場合に、すぐ捜査しないと証拠の収集などが著しく困難になるおそれがあれば、告訴がなくても捜査しなければならないと定めています。ただし、起訴の条件が告訴であることは変わりません。
器物損壊は、ほかの嫌がらせと一緒に行われることがあります。次の判決は器物損壊の告訴そのものを判断したものではなく、嫌がらせが複数の罪名で処罰された事案です。
福岡地裁 平成13年12月19日判決
平成13年(わ)第184号裁判所サイトの詳細ページと判決文PDF(読み取り文字)で主文・罪となるべき事実を確認。量刑の理由は未確認
- 事案
- マンションの玄関ドアの鍵穴に接着剤を注入する、駐車中の乗用車のタイヤ4本をパンクさせる(損害額約4万7700円)、名誉を傷つける紙片を約60枚まく、会社の代表電話に繰り返し電話をかけるなどの嫌がらせが行われた事件です。
- 判断の要点
- 住居侵入・器物損壊・名誉毀損・偽計業務妨害・脅迫の各罪が認定され、当時の刑名で懲役2年とされました。一つの嫌がらせの中に、親告罪(器物損壊・名誉毀損)と親告罪でない罪が混じりうることを示す例です。
確認した場所:裁判所 裁判例検索
確認できていないこと
器物損壊罪の告訴そのもの(告訴期間の数え方や告訴の方法)を直接判断した公開の判例や、器物損壊の告訴に絞った官公庁の資料は、調べた範囲では確認できませんでした。告訴期間の起算点(犯人を知った日)の判例は、告訴期間6か月と親告罪の一覧のページで扱っています。
ペットが殺されたり傷つけられたりしたとき:器物損壊と動物愛護管理法
他人の飼い犬や猫などを殺したり傷つけたりした行為は、条文上、二つの罪が問題になりえます。一つは刑法261条の器物損壊罪(「傷害した」を含む)、もう一つは動物の愛護及び管理に関する法律(以下「動物愛護管理法」)44条1項の愛護動物の殺傷です。
愛護動物をみだりに殺し、又は傷つけた者は、五年以下の拘禁刑又は五百万円以下の罰金に処する。
要旨愛護動物をみだりに殺したり傷つけたりすると、5年以下の拘禁刑又は500万円以下の罰金です。同じ条の3項は遺棄を1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金としています。
二つの罪は、親告罪かどうかと期限が違います。器物損壊罪は親告罪で告訴期間6か月、公訴時効3年です。動物愛護管理法には、全文を見ても告訴を起訴の条件とする定めがなく(e-Gov法令APIで確認)、公訴時効は1項が5年、3項の遺棄が3年です(刑訴法250条2項5号・6号)。告訴状で処罰を求める罪名を挙げるときは、両方の条文を当てはめて検討することになります。
確認できていないこと
ペットの殺傷について器物損壊罪と動物愛護管理法違反の関係を判断した判例は、調べた範囲では確認できませんでした。
窃盗:誰の支配のもとにあった物か(占有)で罪名が分かれる
他人の財物を盗んだ場合は窃盗罪(刑法235条)で、10年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金です。親告罪ではないため告訴期間はなく、公訴時効は7年です。
窃盗罪では、盗まれた物がその時に誰の支配(占有)のもとにあったかが問題になります。置き忘れた物を持ち去られた場合でも、持ち主の支配が及んでいたと評価されれば窃盗罪、及んでいなければ遺失物等横領罪(254条。公訴時効3年)というように、罪名と期限が変わります。
自己の財物であっても、他人が占有し、又は公務所の命令により他人が看守するものであるときは、この章の罪については、他人の財物とみなす。
要旨自分の物であっても、他人が占有しているときは、窃盗などの罪では「他人の財物」として扱われます。
最高裁第三小法廷 平成16年8月25日決定
平成16年(あ)第882号・刑集58巻6号515頁裁判所サイトの判示事項・裁判要旨で確認
- 事案
- 公園のベンチに置き忘れられたポシェットを、持ち主がベンチから約27m離れた場所まで歩いて行った時点で持ち去った事件です。
- 判断の要点
- その事実関係の下では、持ち去った行為は窃盗罪に当たるとしました。置き忘れた物でも、持ち主の支配がなお及んでいると評価される場合があることを示しています。
確認した場所:裁判所 裁判例検索
盗まれた物を見つけたとき、自分で相手のところから取り返してよいかという問題もあります。次の判決は民事事件のもので、刑事責任を判断したものではありませんが、実力で物を撤去することが許される限界を超えるとされた例です。
最高裁第三小法廷 昭和40年12月7日判決【民事】
昭和38年(オ)第1236号・民集19巻9号2101頁裁判所サイトの判示事項・裁判要旨で確認。民事の判決
- 事案
- 使用貸借が終わった敷地の上の仮店舗の周りに、敷地の所有者が承諾なく板囲いを設けたため、仮店舗の所有者がその板囲いを実力で撤去した事件です(占有回収等請求)。
- 判断の要点
- 仮店舗の所有者がすでに旧店舗で営業を再開していたなどの事実関係の下では、実力で撤去することは私力の行使として許される限界を超えるとしました。
確認した場所:裁判所 裁判例検索
242条の定めもあり、自分の物であっても、相手が占有している物を実力で取り戻す方法には問題が生じえます。盗まれた物を被害者が取り返した行為の刑事責任を直接判断した判例は、調べた範囲では確認できませんでした。
家族・親族に盗まれたとき:刑法244条の特例(親族相盗例)
窃盗罪はもともと親告罪ではありません。ただ、盗んだ人と盗まれた人が親族どうしのときは、刑法244条の特例(親族相盗例)が働きます。相手との関係しだいで告訴が起訴の条件になる罪を、相対的親告罪といいます。244条が直接対象にするのは窃盗・不動産侵奪とその未遂罪で、詐欺・恐喝・背任などは251条、横領は255条がこの特例を準用しています。横領の場面は横領・背任の告訴のページで扱っています。
配偶者、直系血族又は同居の親族との間で第二百三十五条の罪、第二百三十五条の二の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯した者は、その刑を免除する。
2 前項に規定する親族以外の親族との間で犯した同項に規定する罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。
3 前二項の規定は、親族でない共犯については、適用しない。
要旨1項の親族なら刑が免除、それ以外の親族なら親告罪、親族でない共犯には特例なし、という三段の仕組みです。「親族」の範囲は民法725条(6親等内の血族・配偶者・3親等内の姻族)が基礎になります。
家族・親族が関わる窃盗:244条を当てはめる順番
犯人は、被害者の親族(民法725条の範囲)ですか。
はい次の問いへ進みます。
いいえ244条の特例は関係しません。通常の窃盗罪(非親告罪・公訴時効7年)として考えます。
犯人は、配偶者か、直系血族(親や子、祖父母や孫など)か、同居している親族ですか。
はい条文上、刑が免除されます(1項)。
いいえそれ以外の親族(たとえば別居の兄弟姉妹)なら親告罪です(2項)。起訴には告訴が要り、その期限は犯人を知った日から6か月です(刑訴法235条)。
盗まれた物の所有者と、その物を手元で管理していた人は別の人ですか。
はい1項の親族関係は、管理していた人との間だけでなく、所有者との間にも必要とされています(次の判例。1項についての判断です)。
いいえ所有者との関係で判断します。
親族ではない人が一緒に関わっていますか。
はい親族でない共犯者には特例が適用されません(3項)。
いいえ親族である犯人について、上の問いの結果で考えます。
条文と判例をどの順で当てはめるかの目安です。実際の結論は、同居の有無などの事実によって変わります。
最高裁第二小法廷 平成6年7月19日決定
平成6年(あ)第234号 窃盗・刑集48巻5号190頁裁判所サイトの判示事項・裁判要旨で確認
- 事案
- 盗まれた財物の所有者と、それを手元で管理していた人が別人だった窃盗事件です。244条1項の特例が使えるかが争われました。
- 判断の要点
- 244条1項の親族関係は、犯人と管理していた人の間だけでなく、犯人と所有者の間にも必要だとしました。家族が預かっていた他人の物が盗まれた場合などに関わる判断です。
確認した場所:裁判所 裁判例検索
2項に当たる場合、告訴状には、被告訴人が被害者とどういう親族関係にあり、同居しているかどうかを書くことになります。親族の範囲と同居の有無が、刑の免除か親告罪かを分けるためです。親告罪の全体の一覧や相対的親告罪の考え方は、告訴期間6か月と親告罪の一覧のページにまとめています。
被害届と告訴の使い分け:罪名ごとにみる告訴の意味
被害届は、犯罪の被害にあった事実を警察に申告する書面で、処罰を求める意思の表示までは含みません。告訴との違いや効果の全体は、別ページ「告訴・告発・被害届の違いと告訴できる人」で説明しています。ここでは罪名ごとの違いだけを整理します。
- 器物損壊・過失傷害・別居の親族などによる窃盗(244条2項):親告罪なので、起訴の条件は告訴です。犯人を知った日から6か月の告訴期間に注意が必要です。
- 傷害・暴行・窃盗(親族の特例に当たらない場合):非親告罪なので、告訴がなくても起訴できます。告訴をした場合、司法警察員は書類と証拠物を速やかに検察官に送付し(刑訴法242条)、検察官は起訴・不起訴の処分を告訴人に通知します(260条)。
- 一つの出来事に複数の罪名が関わる場合(たとえば暴行と器物損壊):罪名ごとに親告罪かどうかと期限が違うため、親告罪の部分の6か月を基準に動く必要があります。
告訴状の告訴事実には、その罪の条文の要素を具体的に書きます。傷害なら、いつ・どこで・誰が・どのような行為をして・どのような傷害(症状や診断名)を負わせたか。器物損壊なら、誰の物を・どのように壊したか(損害の内容)。窃盗なら、誰の管理のもとにあった何を・どのように持ち去ったか、親族の場合はその関係です。書き方の全体は、別ページ「告訴状の書き方と相手不明の場合の告訴」にまとめています。
統計:警察経由の告訴の人員は、毀棄・隠匿が2025年に最多
統計毀棄・隠匿、傷害、暴行、過失傷害、窃盗の警察経由の告訴の人員(2016〜2025年)
| 年 | 毀棄・隠匿 | 傷害 | 暴行 | 過失傷害 | 窃盗 | 全罪名の総数 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 2016年 | 981 | 257 | 62 | 189 | 131 | 5,500 |
| 2017年 | 910 | 255 | 53 | 192 | 132 | 5,087 |
| 2018年 | 790 | 268 | 57 | 205 | 134 | 4,611 |
| 2019年 | 757 | 180 | 54 | 193 | 133 | 4,338 |
| 2020年 | 840 | 213 | 50 | 206 | 117 | 4,660 |
| 2021年 | 823 | 180 | 50 | 255 | 183 | 5,397 |
| 2022年 | 701 | 183 | 55 | 220 | 206 | 5,277 |
| 2023年 | 809 | 156 | 43 | 265 | 158 | 5,178 |
| 2024年 | 926 | 215 | 54 | 304 | 156 | 5,857 |
| 2025年 | 1,113 | 336 | 78 | 346 | 200 | 6,891 |
出典:検察統計調査(e-Stat)年次 表37「罪名別 既済となった被疑事件の捜査の端緒別人員」の「司法警察員に告訴」列、2016〜2025年(2025年の表)
「毀棄・隠匿」は器物損壊・建造物損壊などを含む区分です。「傷害」は小分類の値で、傷害罪(傷害致死・現場助勢を含む)だけを数え、暴行を含みません。「過失傷害」は表37の区分で、過失致死・業務上過失致死傷・重過失致死傷を含みます(自動車による過失致死傷等は表37の対象外)。2025年の毀棄・隠匿の割合:1,113÷6,891=約16.2%。人員は検察で処理が済んだ被疑者の数で、警察が告訴を受理した件数ではありません。警察が受理しなかった告訴、送致前の告訴、氏名不詳のままの告訴は含まれません。
2025年の警察経由の告訴の人員は、毀棄・隠匿が1,113人で、表37の罪名別の行(刑法犯・特別法犯の合計行を除く)の中で最も多く、名誉毀損(侮辱などを含む)の969人、詐欺の821人を上回りました。警察経由と検察官への告訴を合わせた告訴計(8,318人)でみても、毀棄・隠匿は1,152人(13.8%)で、名誉毀損の1,110人(13.3%)を上回っています(計算:1,152÷8,318、1,110÷8,318)。
罪名ごとに、事件のうち告訴から始まったものの割合(告訴計÷既済の総数)を2025年でみると、毀棄・隠匿15.3%、過失傷害4.4%、傷害2.2%、暴行0.6%、窃盗0.3%でした(刑法犯全体は3.1%)。警察の統計では、器物損壊等の2025年の検挙率は14.9%(検挙7,916件÷認知53,130件)でした。こちらは警察の「件数」で、検察統計の「人員」とは単位が違います。
告訴事件全体の起訴率や処理期間、ほかの罪名との比較は、検察統計でみる告訴事件の起訴率と期間のページにまとめています。
まとめ
- けががあれば傷害罪(公訴時効10年)、けがに至らなければ暴行罪(3年)。どちらも親告罪ではなく、告訴期間はありません。不注意によるけがの過失傷害罪は親告罪で、告訴期間6か月・公訴時効3年です。
- 騒音による慢性頭痛症、PTSD、薬物による意識障害も傷害に当たるとした最高裁の判断があります。症状を医学的に確かめた記録が出発点になります。診断書の公的な記載基準は確認できていません。
- 器物損壊は親告罪です。犯人を知った日から6か月以内の告訴が必要で、公訴時効(3年)も過ぎていてはいけません。ペットの殺傷は動物愛護管理法44条1項(非親告罪・公訴時効5年)も問題になりえます。
- 窃盗は非親告罪(公訴時効7年)ですが、配偶者・直系血族・同居の親族なら刑が免除、それ以外の親族なら親告罪です(刑法244条)。1項の親族関係は物の所有者との間にも必要とした最高裁決定があります。
- 2025年の警察経由の告訴の人員は、毀棄・隠匿が1,113人で最多でした。
このページの出典
- 法令刑法 第204条・第205条・第208条〜第211条・第235条・第242条・第244条・第251条・第254条・第255条・第259条〜第261条・第263条・第264条(e-Gov法令検索)確認日 2026-10-24
- 法令刑事訴訟法 第235条・第242条・第250条・第253条・第260条(e-Gov法令検索)確認日 2026-10-24
- 法令犯罪捜査規範 第61条・第63条・第70条(e-Gov法令検索)確認日 2026-10-24
- 法令動物の愛護及び管理に関する法律 第44条(e-Gov法令検索)確認日 2026-10-24
- 法令民法 第725条(e-Gov法令検索)確認日 2026-10-24
- 判例最高裁第二小法廷 平成17年3月29日決定(平成16年(あ)第2145号 傷害被告事件、刑集59巻2号54頁)判示事項・裁判要旨確認日 2026-10-24
- 判例奈良地裁 平成16年4月9日判決(平成15年(わ)第570号 傷害被告事件)詳細ページ・判決文確認日 2026-10-24
- 判例最高裁第二小法廷 平成24年7月24日決定(平成22年(あ)第2011号 監禁致傷、傷害被告事件、刑集66巻8号709頁)判示事項・裁判要旨確認日 2026-10-24
- 判例最高裁第三小法廷 平成24年1月30日決定(平成22年(あ)第340号 傷害被告事件、刑集66巻1号36頁)判示事項・裁判要旨確認日 2026-10-24
- 判例福岡地裁 平成13年12月19日判決(平成13年(わ)第184号 脅迫、業務妨害、住居侵入、器物損壊、名誉毀損被告事件)詳細ページ・判決文確認日 2026-10-24
- 判例最高裁第三小法廷 平成16年8月25日決定(平成16年(あ)第882号 窃盗被告事件、刑集58巻6号515頁)判示事項・裁判要旨確認日 2026-10-24
- 判例最高裁第三小法廷 昭和40年12月7日判決(昭和38年(オ)第1236号 占有回収等請求、民集19巻9号2101頁)判示事項・裁判要旨【民事】確認日 2026-10-24
- 判例最高裁第二小法廷 平成6年7月19日決定(平成6年(あ)第234号 窃盗、刑集48巻5号190頁)判示事項・裁判要旨確認日 2026-10-24
- 統計e-Stat 検察統計調査(法務省)年次 表37 罪名別 既済となった被疑事件の捜査の端緒別人員(2016〜2025年)確認日 2026-10-24
- 統計警察庁 令和7年の刑法犯に関する統計資料 r07_1.xlsx(図表1-2-7)確認日 2026-10-24
- 官公庁警察庁 犯罪被害者等施策 支援一覧「警察における診断書料等の公費負担制度」の項確認日 2026-10-24
よくあるご質問
殴られましたが、けがはありません。告訴できますか。
できます。けがに至らない暴行は暴行罪(刑法208条)に当たりえ、親告罪ではないので告訴期間の制限はありません。公訴時効は3年です(刑訴法250条2項6号)。けがをしていれば傷害罪で、時効は10年です。
診断書がないと告訴できませんか。
条文上、診断書は受理の条件ではありません。犯罪捜査規範63条は告訴の受理を求めており、診断書を条件とする定めはありません。ただ、傷害罪ではけがの結果を示す資料になります。警察庁は診断書料等の公費負担制度があると案内しており、細目は担当の警察署で確かめる必要があります。
物を壊されたとき、告訴はいつまでにすればよいですか。
犯人を知った日から6か月以内です。器物損壊罪は刑法264条で親告罪とされ、刑訴法235条の告訴期間が適用されます。あわせて公訴時効の3年も過ぎていないことが必要で、早く来るほうが期限です。6か月の数え方は告訴期間6か月と親告罪の一覧のページで説明しています。
別居している兄が実家の物を持ち出しました。告訴できますか。
告訴の対象になりえます。刑法244条は、配偶者・直系血族・同居の親族の間の窃盗は刑を免除し、それ以外の親族の間の窃盗は親告罪としています。別居の兄弟姉妹なら2項に当たり、告訴が必要で、告訴期間は6か月です。なお、1項の特例について、物の所有者との親族関係も必要とした最高裁決定(平成6年7月19日)があります。
飼い犬を隣人に傷つけられました。何罪になりますか。
器物損壊罪(刑法261条)と動物愛護管理法44条1項の両方が問題になりえます。器物損壊罪は親告罪(告訴期間6か月・公訴時効3年)、動物愛護管理法44条1項は条文に告訴の定めがなく、法定刑は5年以下の拘禁刑又は500万円以下の罰金、公訴時効は5年です(刑訴法250条2項5号)。
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本ページは一般的な情報提供です。告訴・告発が受理されるか、どの罪が成立するか、起訴されるかは、事実関係と証拠をもとに警察・検察が判断することで、このページの説明で結論が決まるものではありません。条文は e-Gov法令検索(法令API)で2026年10月24日時点のものを、統計は政府統計の総合窓口(e-Stat)ほか各府省の公表資料を確認しています。参考: e-Gov法令検索 / e-Stat / 警察庁 / 検察庁 / 裁判所 / 法務省