告訴・告発・被害届の違いと告訴できる人

何を出せば相手の処罰を求められるのか、家族や会社の被害は誰の名前で出せるのかを、刑事訴訟法・犯罪捜査規範・警察庁の通達・判例から整理します。

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このページの要点

  • 被害届は被害の事実の届出、告訴は被害者などが犯罪事実を申告して処罰を求める意思表示、告訴権者以外の人による同じ申告が告発です。
  • 警察の受理の根拠は、被害届が犯罪捜査規範61条、告訴・告発が63条です。告訴・告発は刑訴法242条で速やかに検察官に送付されます。
  • 名誉毀損・器物損壊などの親告罪は、告訴がなければ起訴できません。告訴は犯人を知った日から6か月以内にする必要があります。
  • 告訴できるのは被害者本人、法定代理人(親権者など)、231〜233条の親族などです。代理人による告訴もでき、警察には委任状を出します。

結論:処罰を求めるなら告訴、被害を知らせるなら被害届、被害者以外が処罰を求めるなら告発です

結論

  • 被害届は「被害に遭った」という事実を警察に届け出るもの、告訴は被害者などが犯罪の事実を申告して犯人の処罰を求めるもの、告発は被害者などの告訴権者以外の人が同じように処罰を求めるものです。
  • 警察の受け方の根拠も別で、被害届は犯罪捜査規範61条、告訴・告発は同規範63条が受理を定めています。告訴・告発を受けた警察は、関係書類と証拠物を速やかに検察官に送付しなければなりません(刑事訴訟法242条)。
  • 名誉毀損・器物損壊などの親告罪(告訴がなければ検察官が起訴できない罪)では、被害届だけでは起訴の条件を満たしません。告訴は、犯人を知った日から6か月以内にする必要があります。
  • 告訴できるのは被害者本人のほか、法定代理人(未成年者の親権者など)や一定の親族です。代理人に頼むこともでき、その場合は委任状を出します。

このページでは、告訴(こくそ)・告発(こくはつ)・被害届の違いと、告訴を誰の名前で出せるかを、条文と警察庁の通達から整理します。告訴とは、犯罪の被害を受けた人などが、捜査機関に犯罪の事実を申告し、犯人の処罰を求める意思を示すことです。この意思を書面にしたものを告訴状、告訴をする人を告訴人、処罰を求められる相手を被告訴人と呼びます。被告訴人は、捜査の段階では被疑者とも呼ばれます。

告訴を受ける捜査機関は、検察官と司法警察員です。検察官は、犯罪を捜査し、裁判所に起訴するかどうかを決める立場の公務員です。司法警察員は、警察官のうち刑事訴訟法上の権限として告訴を受けることができる者で、警察に告訴をするときは、この司法警察員が受けることになります。

受理とは、捜査機関が告訴や被害届を正式に受け付けることをいい、受け付けないことを不受理といいます。以下、刑事訴訟法は「刑訴法」と略します。

告訴・告発・被害届の3つの違い

被害届とは、犯罪による被害を受けたことを警察に届け出る書面です。法務省(検察庁)の被害者向けの案内は、被害者は捜査機関に被害届を提出して被害を申告でき、通常これにより捜査が始まると説明しています。同じ案内は、それとは別に、被害者は犯罪事実を申告して犯人の処罰を求めて告訴でき、被害者以外の人は同じように告発できる、と説明しています。

違いの中心は「処罰を求める意思」を示すかどうかです。最高裁の決定(昭和34年5月14日)は、告訴の中身を、犯罪事実の申告と犯人の処罰を求める意思表示の二つで捉えています(後の章で紹介します)。被害届は被害の事実の申告で、処罰を求める意思表示は要素になっていません。

警察が受ける根拠となる規定も別々です。犯罪捜査規範(国家公安委員会規則。警察官が捜査をするときに守るべき心構えや方法を定めたもの)は、61条で被害届の受理を、63条で告訴・告発・自首の受理を定めています。

犯罪捜査規範 第61条(被害届の受理)

警察官は、犯罪による被害の届出をする者があつたときは、その届出に係る事件が管轄区域の事件であるかどうかを問わず、これを受理しなければならない。

2 前項の届出が口頭によるものであるときは、被害届(別記様式第6号)に記入を求め又は警察官が代書するものとする。(略)

要旨被害の届出は、事件が警察署の管轄の内か外かに関係なく受理しなければならない、という定めです。口頭で届け出たときは、決まった様式の被害届に記入を求めるか、警察官が代わりに書きます。

犯罪捜査規範 第63条(告訴、告発および自首の受理)

司法警察員たる警察官は、告訴、告発または自首をする者があつたときは、管轄区域内の事件であるかどうかを問わず、この節に定めるところにより、これを受理しなければならない。

2 司法巡査たる警察官は、告訴、告発または自首をする者があつたときは、直ちに、これを司法警察員たる警察官に移さなければならない。

要旨告訴・告発を受理するのは司法警察員である警察官で、司法巡査である警察官が受けたときは、すぐに司法警察員に引き継ぎます。被害届の61条とは別の条文です。

被害届・告訴・告発の比較(条文・通達から)

項目被害届告訴告発
何をするものか犯罪による被害の事実を届け出る犯罪事実を申告し、犯人の処罰を求める犯罪事実を申告し、犯人の処罰を求める
誰ができるか被害の届出をする者(様式上、届出人と被害者が違うこともある)被害者、法定代理人、一定の親族など(刑訴法230〜234条)何人でも(刑訴法239条1項)。公務員は職務上の告発義務あり(同条2項)
警察の受理の根拠犯罪捜査規範61条犯罪捜査規範63条犯罪捜査規範63条
警察庁の通達明白な虚偽・著しく合理性を欠く場合を除き即時受理(令和6年3月22日 丙刑企発第35号)要件を確認し、可能な限り迅速に受理・不受理を判断(令和6年3月26日 丙刑企発第39号ほか)告訴と同じ通達
方式被害届の様式(別記様式第6号)。口頭なら記入を求めるか代書書面または口頭(刑訴法241条)。書式は法定されていない書面または口頭(刑訴法241条)
検察官への引継ぎ警察が捜査したうえで送致(刑訴法246条)速やかに書類・証拠物を送付(刑訴法242条)速やかに書類・証拠物を送付(刑訴法242条)
処分の結果の通知(刑訴法260条)条文上の対象ではない告訴人に通知される告発人に通知される
親告罪の起訴の条件ならないなる(犯人を知った日から6か月以内)—(下の注)

親告罪で告発が告訴の代わりになるかを判断した判例の原文は、調べた範囲では確認できていません。被害届を出しただけの被害者にも、捜査の経過などを知らせる仕組み(犯罪捜査規範10条の3、検察庁の被害者等通知制度)はあります。

被害届には、被害の日時・場所・模様、被害金品、犯人の特徴などを書く欄のある様式が定められています。これに対し告訴状には、法令で決まった書式はありません。

告訴の法的な意味と効果

告訴は、刑訴法241条の方式に従って、検察官または司法警察員にします。書面でも口頭でもよく、口頭のときは受けた側が調書を作ります。警察では、口頭の告訴を受けたときに作る書面を告訴調書と呼んでいます(犯罪捜査規範64条)。

どのような書面なら告訴になるかについては、次の最高裁決定が手がかりになります。題名が「告訴調書」でなくても、中身が犯罪事実の申告と処罰を求める意思表示であれば、告訴として有効とされました。

刑事訴訟法 第二百四十一条

告訴又は告発は、書面又は口頭で検察官又は司法警察員にこれをしなければならない。

2 検察官又は司法警察員は、口頭による告訴又は告発を受けたときは調書を作らなければならない。

要旨告訴・告発の出し方を定めた条文です。出す相手は検察官か司法警察員で、書面でも口頭でもよいとされています。記載事項や書式は、現在の条文には定められていません。

最高裁第一小法廷 昭和34年5月14日決定

昭和33年(あ)第2576号・刑集13巻5号706頁裁判所サイトの判示事項・裁判要旨で確認

事案
被害者らが検察官・司法警察員に述べた内容を記録した「供述調書」が、刑訴法241条2項の告訴調書に当たるかが問題になった事件です。
判断の要点
供述調書という形式でも、被害者らが犯罪事実を申告し、犯人の処罰を求める意思表示をしたことを記録したものであれば、告訴調書として有効だとしました。告訴かどうかは、書面の題名ではなく、犯罪事実の申告と処罰を求める意思の有無で決まることを示しています。

確認した場所:裁判所 裁判例検索

告訴が受理されると、条文の上で被害届と違う扱いが始まります。司法警察員は、告訴・告発を受けたときは、速やかに関係書類と証拠物を検察官に送付しなければなりません(刑訴法242条)。被害届の事件は、警察が捜査をしたうえで、原則として刑訴法246条により検察官に送致されます。

検察官が起訴・不起訴を決めたときは、告訴人にその旨が通知されます(刑訴法260条)。送付から処分、通知までの流れは受理後の流れと取下げ・示談・虚偽告訴の注意のページで説明しています。なお、不起訴の当否を検察審査会に審査してもらう申立ては、告訴をしていない被害者もできます(検察審査会法2条2項)。

告訴は処罰を求める強い意思表示ですが、起訴するかどうかを決めるのは検察官です。

統計警察を経由した告訴・告発の人員(2016〜2025年)

年司法警察員に告訴司法警察員に告発
2016年5,5001,209
2017年5,0871,018
2018年4,6111,028
2019年4,3381,148
2020年4,6601,157
2021年5,3971,140
2022年5,2771,288
2023年5,1781,436
2024年5,8571,491
2025年6,8911,669

出典:検察統計調査(e-Stat)年次 表37「罪名別 既済となった被疑事件の捜査の端緒別人員」の「司法警察員に告訴」列(総数)、表38「既済事由別 既済となった被疑事件の捜査の端緒別人員」の「司法警察員に告発」列(公務員から・その他の合計)、2016〜2025年(2025年の表37)

告発の人員は、表38の「公務員から」と「その他」の2列を足した値です。どちらも検察で処理が済んだ被疑者の人数で、警察が受理した件数や告訴状の通数ではありません。警察が受理しなかったもの、送致・送付前のものは入りません。

検察統計では、事件が捜査の対象になったきっかけ(端緒)を区分して数えており、「司法警察員に告訴」「司法警察員に告発」「検察官に告訴」などが独立した区分になっています。表37・表38の端緒の区分に「被害届」という名前の区分はありません。被害届から始まった事件がどの区分に数えられるかは、表の注には書かれていません。

被害届で足りる場合と告訴が必要な場合

告訴が欠かせないのは、親告罪の被害を受けたときです。親告罪とは、法律に「告訴がなければ公訴を提起することができない」と書かれている罪で、告訴がない限り検察官は起訴できません。これに対し、告訴がなくても起訴できる罪を非親告罪といいます。

刑法の親告罪には、名誉毀損・侮辱(232条)、器物損壊など(264条)、過失傷害(209条2項)などがあります。配偶者・直系血族・同居の親族以外の親族との間の窃盗も、244条2項(詐欺・恐喝は251条、横領は255条で準用)により告訴がなければ起訴できません。

親告罪の告訴は、犯人を知った日から6か月を過ぎるとできなくなります(刑訴法235条)。この6か月を告訴期間といいます。罪の一覧、期間の数え方と判例は告訴期間6か月と親告罪の一覧のページで扱っています。犯罪から一定の期間がたつと起訴できなくなる公訴時効は、これとは別の期限です。

詐欺・傷害・窃盗(親族間の場合を除く)などの非親告罪では、告訴がなくても検察官は起訴できます。法務省の案内のとおり、被害届も通常は捜査の始まりになります。被害届の受理については、警察庁の通達(令和6年3月22日 警察庁丙刑企発第35号)が、内容が明白な虚偽か著しく合理性を欠くものである場合を除き、即時に受理するよう求めています。

それでも非親告罪で告訴を選ぶ意味は、処罰を求める意思を正式に示せること、警察から検察官への速やかな送付(242条)が条文で決まっていること、処分の結果が告訴人に通知されること(260条)にあります。どちらを選ぶかの考え方を、次の流れで整理します。

被害届か告訴かを考える順序

  1. 被害を受けた罪は、親告罪ですか(名誉毀損・侮辱、器物損壊、過失傷害、親族間の窃盗の一部など)

    はい告訴が必要です。犯人を知った日から6か月以内に告訴します(告訴期間6か月と親告罪の一覧)。

    いいえ次の問いへ進みます。

  2. 処罰を求める意思をはっきり示し、処分の結果の通知(刑訴法260条)を受けたいですか

    はい告訴を考えます。告訴できる人かどうかは、この後の章で確かめます。

    いいえ被害届でも捜査のきっかけになります。後から告訴を考えることもできます。

  3. あなたは被害者本人、法定代理人、または刑訴法231〜233条の親族ですか

    はい自分の名前で告訴できます。

    いいえ被害者本人などから委任を受けて代理人として告訴するか(240条)、告訴権者でない第三者として告発する(239条)ことになります。

判断の順序を示したもので、個々の事件で何罪に当たるか、親告罪かどうかは、事実関係によって変わります。

告訴できる人(1)被害者本人と法定代理人:未成年者・成年後見の場合

告訴できる人を告訴権者といいます。告訴権者の基本は、犯罪により害を受けた被害者本人です(刑訴法230条)。被害者本人の次に、法定代理人が独立して告訴できると定められています(231条1項)。

条文は「独立して」と書いています。被害者本人が告訴するかどうかとは別に、法定代理人が自分の立場で告訴できる形です。被害者が未成年者のときは、親権者がこの法定代理人に当たります。

刑事訴訟法 第二百三十条

犯罪により害を被つた者は、告訴をすることができる。

要旨告訴権の原則です。被害者本人が告訴できます。

刑事訴訟法 第二百三十一条

被害者の法定代理人は、独立して告訴をすることができる。

2 被害者が死亡したときは、その配偶者、直系の親族又は兄弟姉妹は、告訴をすることができる。但し、被害者の明示した意思に反することはできない。

要旨1項は法定代理人の告訴、2項は被害者が亡くなったときの親族の告訴です。2項の親族は、被害者が生前にはっきり示していた意思に反して告訴することはできません。

確認できていないこと

被害者が未成年者のとき、その未成年者本人が自分で告訴できるか(何歳から、どの程度の理解があればよいか)は、条文からは決まりません。これを直接判断した判例・公式の解説の原文は、調べた範囲では確認できていません。親権者は231条1項により独立して告訴できます。

成年後見人が被後見人のために告訴状を警察署に持参した例として、次の裁判例があります。この判決は、告訴状を受理しなかった警察の行為を行政訴訟で取り消せるかを判断したもので、成年後見人に告訴権があるかどうかは判断していません。警察が受理しなかった理由とされたのは、公訴時効の経過でした。

さいたま地裁 平成23年5月18日判決

平成23年(行ウ)第8号裁判所サイトの詳細ページで事件番号・日付・事件名を、判決PDF(画像をOCRで読み取り)で主文と判断部分を確認。第一審判決で、控訴の有無・結果は確認できていません

事案
成年後見人が、被後見人を被害者とする準詐欺罪(刑法248条)の告訴状を警察署に持参したところ、公訴時効期間の経過を理由に受理されず、被後見人がその「不受理処分」の取消しを求めました。
判断の要点
告訴により捜査が始まり犯人が訴追されることがあっても、それは公益のためで告訴人の個人的な利益のためではなく、告訴状を受理しない行為は取消訴訟の対象となる行政処分に当たらないとして、訴えを却下しました。時効を理由とする不受理が適法かどうかには踏み込んでいません。

確認した場所:裁判所 裁判例検索

確認できていないこと

成年後見人が刑訴法231条1項の「法定代理人」に当たるかを直接判断した判例・公式の解説の原文は、調べた範囲では確認できていません。ここでは、成年後見人が告訴状を持参した裁判例があることだけを紹介しています。

告訴できる人(2)親族が告訴できる場合と告訴できる人がいない場合

被害者本人と法定代理人のほかに、条文は親族が告訴できる場面を三つ定めています。一つ目は、法定代理人の側に問題がある場合です。法定代理人そのものが被疑者であるときや、法定代理人が被疑者の配偶者、四親等内の血族、三親等内の姻族であるときは、被害者の親族が独立して告訴できます(刑訴法232条)。

たとえば親権者が加害者である場合や、加害者が親権者の配偶者・親族である場合に、法定代理人が告訴をしないことが考えられます。232条は、そのような場合に別の親族が告訴できる道を開いています。民法725条は、親族を六親等内の血族、配偶者、三親等内の姻族と定めています。

刑事訴訟法 第二百三十二条

被害者の法定代理人が被疑者であるとき、被疑者の配偶者であるとき、又は被疑者の四親等内の血族若しくは三親等内の姻族であるときは、被害者の親族は、独立して告訴をすることができる。

要旨法定代理人が加害者本人や加害者の近い身内であるとき、被害者の親族が自分の立場で告訴できるという定めです。

二つ目は、被害者が亡くなった場合です。配偶者、直系の親族(親・子・祖父母・孫など)、兄弟姉妹が告訴できますが、被害者がはっきり示していた意思に反することはできません(231条2項)。

三つ目は名誉毀損の場合です。死者の名誉を毀損した罪では、死者の親族または子孫が告訴できます(233条1項)。生きている間に名誉を毀損された被害者が告訴しないまま亡くなったときも同じですが、被害者の明示した意思に反することはできません(同条2項)。なお、死者の名誉毀損が罰せられるのは、虚偽の事実を示した場合に限られます(刑法230条2項)。

刑事訴訟法 第二百三十三条

死者の名誉を毀損した罪については、死者の親族又は子孫は、告訴をすることができる。

2 名誉を毀損した罪について被害者が告訴をしないで死亡したときも、前項と同様である。但し、被害者の明示した意思に反することはできない。

要旨亡くなった人の名誉を傷つけられたときと、名誉毀損の被害者が告訴しないまま亡くなったときに、親族・子孫が告訴できるという定めです。

このほか、親告罪について告訴できる人が一人もいない場合には、検察官が、利害関係人の申立てにより告訴できる者を指定できます(刑訴法234条)。

告訴できる人の一覧(刑訴法230〜234条・240条)

誰が根拠条件・注意警察に出す書面(犯罪捜査規範66条)
被害者本人230条——
法定代理人(未成年者の親権者など)231条1項被害者本人とは別に、独立して告訴できる資格を証する書面
配偶者・直系の親族・兄弟姉妹231条2項被害者が死亡したとき。被害者の明示した意思に反することはできない資格を証する書面
被害者の親族232条法定代理人が被疑者、またはその配偶者・四親等内の血族・三親等内の姻族であるとき資格を証する書面
死者の親族・子孫233条1項死者の名誉毀損の罪資格を証する書面
被害者の親族・子孫233条2項名誉毀損の被害者が告訴しないで死亡したとき。明示した意思に反することはできない資格を証する書面
検察官が指定した者234条親告罪で告訴できる者がいないとき。利害関係人の申立てによる資格を証する書面
上の人から委任を受けた代理人240条告訴の取消しも代理人でできる委任状(被害者以外の告訴権者の代理人は、委任状と資格を証する書面の両方)

「資格を証する書面」として具体的に何を出すかは、条文には書かれていません。

代理人が告訴するとき:刑訴法240条と委任状

告訴は、告訴権者が自分でするだけでなく、代理人によってすることもできます(刑訴法240条)。告訴を取り消すときも同じです。代理人が告訴をしても、処罰を求めているのは告訴権者であり、告訴権者の名前で告訴することになります。

警察の側では、代理人や被害者以外の告訴権者から告訴を受けるときに出させる書面が、犯罪捜査規範66条で決められています。

刑事訴訟法 第二百四十条

告訴は、代理人によりこれをすることができる。告訴の取消についても、同様である。

要旨告訴も、その取消しも、代理人を通じてできるという定めです。

犯罪捜査規範 第66条(被害者以外の者の告訴)

被害者の委任による代理人から告訴を受ける場合には、委任状を差し出させなければならない。

2 被害者以外の告訴権者から告訴を受ける場合には、その資格を証する書面を差し出させなければならない。

3 被害者以外の告訴権者の委任による代理人から告訴を受ける場合には、前2項の書面をあわせ差し出させなければならない。

4 前3項の規定は、告訴の取消を受ける場合について準用する。

要旨代理人には委任状、法定代理人や親族には資格を証する書面、その代理人には両方を求めるという、警察側の定めです。取消しのときも同じです。

委任状に何を書くか、決まった書式があるかは、条文には定められていません。家族に提出を頼む場合も、その家族が法定代理人や231〜233条の親族に当たらなければ、自分の告訴権ではなく、代理人としての委任になります。

告訴状を作ることと、代理人として告訴をすることは別の行為です。告訴状の作成や、代理人として警察とやり取りをすることを誰に頼めるかは、弁護士法などとの関係があり、行政書士に頼めること・頼めないこと・費用のページで扱っています。

確認できていないこと

委任状の公的な書式や、警察が委任状と一緒に本人確認の書類などを求めるかどうかは、犯罪捜査規範66条には書かれておらず、警察庁の公表資料でも確認できていません。運用は警察署ごとに確かめる必要があります。

会社・法人が被害を受けたとき

会社のお金を従業員に使い込まれた、店の設備を壊された、といった場合、被害を受けたのは会社(法人)です。刑訴法230条は告訴できる人を「犯罪により害を被つた者」とだけ書いており、人(自然人)に限るとは書いていません。条文の文言の上では、法人が被害者として告訴人になることは排除されていない、と読めます。

ただし、法人が被害者のとき告訴人になれることを正面から示した判例や公式の解説は、調べた範囲では確認できていません。ここでの説明は条文の文言からの読みにとどまります。

手がかりになるのが、令和7年法律第39号による刑訴法241条の改正です。改正後の241条2項は、告訴・告発は犯罪事実、処罰を求める旨、告訴・告発をする者の氏名・住居(またはこれに代わる連絡先)を明らかにしてしなければならないとし、告訴・告発をする者が法人のときは「その名称又は商号、代表者の氏名及び主たる事務所又は本店の所在地」を明らかにするとしています。法人が告訴や告発をする場面を想定した書きぶりです。

この改正の施行日は「令和九年三月三十一日までの間において政令で定める日」とされており、施行日を定める政令は確認できていません。現在の241条には、記載事項の定めはありません。

確認できていないこと

会社が告訴するとき、警察が代表者の資格を示す書面として何を求めるか(犯罪捜査規範66条2項の運用)、また親告罪の告訴期間(6か月)を会社についてどの時点から数えるか(代表者が知った日か、担当の従業員が知った日か)を示した判例・公式の説明は、調べた範囲では確認できていません。

会社が被害者になる場面で多いのは、従業員による横領・業務上横領や背任です。どの罪に当たるかの考え方、親族の従業員の場合の特例、告訴人を誰にするかは、横領・背任の告訴:会社・親族・共有財産のページで扱っています。会社の財産である設備や商品を壊された器物損壊は親告罪(刑法264条)なので、告訴期間に注意が必要です。

告発できる人:誰でもでき、公務員には告発義務があります

告発は、告訴権者や犯人以外の人が、捜査機関に犯罪事実を申告して犯人の処罰を求めることです。刑訴法239条1項は「何人でも」告発できると定めており、被害者との関係は問われません。告発をする人を告発人といいます。

同条2項は、官吏・公吏(国や地方の公務員)が職務を行う中で犯罪があると考えたときは、告発しなければならないと定めています。告発の方式(241条)、警察から検察官への送付(242条)、処分の結果の通知(260条)は、告訴と同じ条文で定められています。

刑事訴訟法 第二百三十九条

何人でも、犯罪があると思料するときは、告発をすることができる。

2 官吏又は公吏は、その職務を行うことにより犯罪があると思料するときは、告発をしなければならない。

要旨1項は誰でも告発できるという原則、2項は公務員が職務上犯罪を知ったときの告発義務です。

このサイトでは、告発を使う具体的な場面として、労働基準法違反を扱っています。告発状の書き方と、労働基準監督署への申告との違い、一定の機関だけが告発できる罪(専属告発)は、賃金未払い・労基法違反の告訴と告発状の書き方のページで説明しています。

被害者が告訴ではなく告発をすることの扱いを示した判例・公式の解説は、調べた範囲では確認できていません。法務省の被害者向けの案内は、被害者は告訴、被害者以外の人は告発という形で説明しています。

警察で「被害届なら受け付けます」と言われたとき

告訴状を持って警察署に行き、「告訴ではなく被害届にしませんか」と言われたときは、二つのことを正確に押さえておく必要があります。一つは、警察には告訴の受理義務があることです。犯罪捜査規範63条1項は、司法警察員である警察官は、告訴をする者があったときは管轄区域内の事件かどうかを問わず受理しなければならないと定めています。

もう一つは、要件を満たさない告訴は受理されないことです。警察庁の通達(令和6年3月26日 警察庁丙刑企発第39号ほか)は、告訴があったときは直ちに内容を聴き取り、告訴権の有無、告訴期間、犯罪構成要件の充足の有無、処罰意思等の要件を確認したうえで、可能な限り迅速に受理・不受理を判断し、要件の整っている告訴は速やかに受理するよう求めています。

政府の答弁書(内閣参質201第28号、2020年2月14日)も、告訴状は告訴の要件を満たさないものでない限り、警察官が受理すべきものと認識していると答えています。1987年3月31日の答弁書(内閣衆質108第21号)は、犯罪事実の特定が不十分なものなど要件を満たさない告訴状については、補正や再検討を求めることがあると説明しています。

警察で告訴を申し出たときの流れ(条文・通達から)

  1. 警察署の窓口

    告訴を申し出る。書面(告訴状)でも口頭でもよい。司法巡査が受けたときは、直ちに司法警察員に移される

    刑訴法241条、犯罪捜査規範63条2項

  2. 司法警察員

    内容を聴き取り、告訴権の有無・告訴期間・犯罪構成要件の充足・処罰意思などの要件を確認する

    令和6年3月26日 警察庁丙刑企発第39号ほか 第1

  3. 司法警察員

    可能な限り迅速に受理・不受理を判断する。口頭の告訴なら告訴調書を作る

    同通達 第1、犯罪捜査規範64条

  4. 検察官

    受理した告訴の書類・証拠物が速やかに送付される

    刑訴法242条

通達には、判断の期限(日数)や、不受理のときに告げる方法は定められていません。

被害届を勧められたときは、まず、その罪が親告罪かどうかを確かめます。親告罪であれば、被害届だけでは起訴の条件を満たしません。そのうえで、受理されないのが告訴の要件のどれに関わるのか(告訴できる人か、告訴期間を過ぎていないか、犯罪事実が特定できているか、処罰を求める意思が示されているか)を聞いておくと、次に何を直せばよいかが分かります。

被害届として受理されたときは、警察から連絡先などを書いた書面を受け取れることがあります。令和6年3月22日の通達は、被害届を受理したときに、連絡先等を記載した書面を交付できることを説明し、希望すれば交付するよう定めています。被害届として受け付けたのか、告訴として受理したのかは、その場で確かめておくのが確実です。

口頭でも告訴はできます。2025年5月20日の参議院内閣委員会で、警察庁の生活安全局長は、告訴などは必ずしも書面の提出を求めるものではなく、口頭でも要件を判断したうえで受理することとされている、と答弁しています。受理されない理由と対処、「預かり」や「相談扱い」と言われたときの考え方は、告訴状が受理されない理由と対処のページで詳しく説明しています。告訴状の書き方と告訴調書との違いは、告訴状の書き方と相手不明の場合の告訴のページで扱っています。

まとめ

  • 被害届は被害の事実の届出、告訴は被害者などが処罰を求める意思表示、告訴権者以外の人が処罰を求めるのが告発です。告訴の中身は、犯罪事実の申告と処罰を求める意思表示です(最高裁昭和34年5月14日決定)。
  • 警察の受理の根拠は、被害届が犯罪捜査規範61条、告訴・告発が63条です。告訴・告発は刑訴法242条で速やかに検察官に送付され、処分の結果は告訴人・告発人に通知されます(260条)。
  • 親告罪では告訴がなければ起訴できず、告訴は犯人を知った日から6か月以内にします。非親告罪でも、処罰を求める意思を正式に示す手段として告訴を選べます。
  • 告訴できるのは、被害者本人、法定代理人、231〜233条の親族などです。代理人による告訴もでき、警察には委任状や資格を証する書面を出します(犯罪捜査規範66条)。
  • 会社の告訴は230条の文言上排除されていないと読めます(判例・公式解説は未確認)。告発は誰でもでき、公務員には告発義務があります。
  • 警察には告訴の受理義務がある一方、告訴権・告訴期間・構成要件・処罰意思などの要件を満たさない告訴は受理されません。被害届を勧められたら、親告罪かどうかと、どの要件が問題かを確かめます。

このページの出典

  1. 法令刑事訴訟法 第230条〜第234条・第235条・第239条〜第242条・第246条・第260条(e-Gov法令検索)確認日 2026-10-24
  2. 法令刑事訴訟法(令和7年法律第39号による改正後・未施行版)第241条(e-Gov法令API)確認日 2026-10-24
  3. 法令刑事訴訟法 附則(令和7年5月23日法律第39号)第1条(e-Gov法令検索)確認日 2026-10-24
  4. 法令犯罪捜査規範 第10条の3・第61条・第63条・第64条・第66条(e-Gov法令検索)確認日 2026-10-24
  5. 法令刑法 第135条・第209条・第229条・第230条・第232条・第244条・第251条・第255条・第264条(e-Gov法令検索)確認日 2026-10-24
  6. 法令民法 第725条(e-Gov法令検索)確認日 2026-10-24
  7. 法令検察審査会法 第2条(e-Gov法令検索)確認日 2026-10-24
  8. 官公庁犯罪捜査規範 別記様式第6号「被害届」(e-Gov法令データ)確認日 2026-10-24
  9. 官公庁警察庁通達「告訴・告発への適切な対応及び指導・管理の徹底について」(令和6年3月26日 警察庁丙刑企発第39号ほか)第1・第2確認日 2026-10-24
  10. 官公庁警察庁通達「迅速・確実な被害の届出の受理等について」(令和6年3月22日 警察庁丙刑企発第35号)確認日 2026-10-24
  11. 官公庁法務省(検察庁)「犯罪被害者の方々へ 4 捜査段階での被害者支援」1 被害届の提出、告訴、告発確認日 2026-10-24
  12. 官公庁内閣参質201第28号 答弁書(2020年2月14日)一及び二について確認日 2026-10-24
  13. 官公庁内閣衆質108第21号 答弁書(昭和62年3月31日)五について確認日 2026-10-24
  14. 官公庁国会会議録 第217回国会 参議院内閣委員会(2025年5月20日)警察庁生活安全局長の答弁(発言54)確認日 2026-10-24
  15. 判例最高裁第一小法廷 昭和34年5月14日決定(昭和33年(あ)第2576号、刑集13巻5号706頁)判示事項・裁判要旨確認日 2026-10-24
  16. 判例さいたま地裁 平成23年5月18日判決(平成23年(行ウ)第8号)詳細ページ確認日 2026-10-24
  17. 判例さいたま地裁 平成23年5月18日判決 判決文PDF(主文、第5 当裁判所の判断)確認日 2026-10-24
  18. 統計検察統計調査(e-Stat)年次 表37「罪名別 既済となった被疑事件の捜査の端緒別人員」司法警察員に告訴(2016〜2025年)確認日 2026-10-24
  19. 統計検察統計調査(e-Stat)年次 表38「既済事由別 既済となった被疑事件の捜査の端緒別人員」司法警察員に告発(2016〜2025年)確認日 2026-10-24

よくあるご質問

被害届を出した後から、告訴をすることはできますか。

告訴は被害届とは別の手続で、書面または口頭で司法警察員か検察官にします(刑訴法241条)。法務省の被害者向けの案内も、被害届の提出と告訴を別々の手段として説明しています。親告罪では、犯人を知った日から6か月を過ぎると告訴できなくなるため(235条)、被害届を出してから時間がたっているときは期間を確かめてください。数え方は「告訴期間6か月と親告罪の一覧」のページで扱っています。

本人の代わりに家族が告訴状を警察に出せますか。

出せます。家族が法定代理人や刑訴法231〜233条の親族に当たるときは、自分の告訴権で告訴でき、警察には資格を証する書面を出します(犯罪捜査規範66条2項)。当たらないときは、被害者本人から委任を受けた代理人として告訴し(刑訴法240条)、委任状を出します(同規範66条1項)。

子どもが被害に遭いました。親が告訴できますか。

できます。被害者の法定代理人は独立して告訴できると定められており(刑訴法231条1項)、未成年者の親権者はこの法定代理人に当たります。親権者自身や、その配偶者・近い親族が加害者であるときは、被害者の別の親族が独立して告訴できます(232条)。子ども本人が自分で告訴できるかを直接判断した判例・公式の解説の原文は、調べた範囲では確認できていません。

会社のお金を横領されました。会社として告訴できますか。

刑訴法230条は告訴権者を「犯罪により害を被つた者」とだけ書いており、条文の文言上、法人が告訴人になることは排除されていないと読めます。施行前の改正後241条2項も、告訴をする者が法人のときの記載事項(名称、代表者の氏名、本店の所在地など)を定めています。ただし、法人の告訴を正面から示した判例・公式の解説は確認できていません。横領の場面の整理は「横領・背任の告訴:会社・親族・共有財産」のページで説明しています。

告訴状を持っていったら「被害届にしましょう」と言われました。従うしかありませんか。

警察には告訴の受理義務があり(犯罪捜査規範63条1項)、政府の答弁書(内閣参質201第28号)も、要件を満たさないものでない限り受理すべきとしています。一方で、警察庁の通達は告訴権・告訴期間・構成要件・処罰意思などの要件を確認してから受理・不受理を判断するとしており、要件を欠く告訴は受理されません。親告罪なら被害届では起訴の条件を満たさないので、どの要件が問題とされたのかを確かめてください。詳しくは「告訴状が受理されない理由と対処」のページで扱っています。

あわせて読みたいページ

本ページは一般的な情報提供です。告訴・告発が受理されるか、どの罪が成立するか、起訴されるかは、事実関係と証拠をもとに警察・検察が判断することで、このページの説明で結論が決まるものではありません。条文は e-Gov法令検索(法令API)で2026年10月24日時点のものを、統計は政府統計の総合窓口(e-Stat)ほか各府省の公表資料を確認しています。参考: e-Gov法令検索 / e-Stat / 警察庁 / 検察庁 / 裁判所 / 法務省

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