賃金未払い・労基法違反の告訴と告発状の書き方

労基署への申告と刑事告訴・告発の違い、賃金不払いの罰則と時効、労基法違反の告訴の統計、被害者でない人が出す告発状に書くこと、専属告発と公益通報者保護法との関係を、条文と官公庁の資料から整理します。

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このページの要点

  • 労基署への申告(労基法104条)は是正を求める行政の手続で、処罰を求める告訴・告発とは別です。労働基準監督官は労基法違反の罪で司法警察官の職務を行います(102条)。
  • 賃金不払い(24条)は30万円以下の罰金、残業代・解雇予告手当の不払い(37条・20条)は6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金です。公訴時効はいずれも3年です。
  • 労基法違反で司法警察員への告訴が端緒の既済人員は2025年に310人で、告訴が端緒の割合は46.8%です。賃金不払事案は令和6年に22,354件で、96.2%が指導で解決したとされます。
  • 被害者でない人は告発でき、告発人にも処分が通知されます。独占禁止法の談合などは公正取引委員会の告発が必要な専属告発で、公益通報は告発とは別の制度です。

結論:労基署への申告は是正を求める手続、告訴・告発は処罰を求める刑事手続です

結論

  • 労働基準監督署(以下「労基署」)への申告(労働基準法(以下「労基法」)104条)は、違反を行政に知らせて是正を求める手続です。犯人の処罰を求める告訴・告発(刑事訴訟法(以下「刑訴法」)230条・239条)とは別の手続です。
  • 労働基準監督官は、労基法違反の罪について司法警察官の職務を行います(労基法102条)。労基署は行政機関であると同時に、労基法違反の捜査をして検察庁に送検する機関でもあります。
  • 定期の賃金の不払い(24条違反)は30万円以下の罰金(120条1号)、割増賃金(残業代)と解雇予告手当の不払い(37条・20条違反)は6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金(119条1号)です。公訴時効はいずれも3年です。
  • 被害者でない人が処罰を求めるのが告発で、誰でもできます(刑訴法239条1項)。ただし、独占禁止法のカルテル・談合の罪のように、公正取引委員会の告発がなければ起訴できない罪(専属告発)もあります。

労基署に相談しても進まないと感じたとき、刑事罰を求める道として告訴・告発があります。告訴とは、犯罪の被害を受けた人などが、捜査機関に犯罪の事実を申し出て、犯人の処罰を求める意思を示すことです。告発とは、被害者などの告訴できる人以外の人が、同じように犯罪事実を申し出て処罰を求めることです。

このページでは、労基署への申告と告訴・告発の違い、賃金不払いの罰則、統計、告発状に書くこと、専属告発の窓口、公益通報者保護法との関係を、条文と官公庁の資料から整理します。告訴・告発・被害届の違いの基本は告訴・告発・被害届の違いと告訴できる人のページで扱っています。

労基署への申告と刑事告訴・告発の違い

労基法104条1項は、事業場に労基法違反の事実があるとき、労働者はその事実を行政官庁または労働基準監督官に申告できると定めています。申告は、違反の事実を知らせて、行政の権限による是正を求めるものです。申告をしても、それだけで犯人の処罰を求めたことにはなりません。

同じ労基署には、捜査機関としての顔もあります。労基法102条は、労働基準監督官が労基法違反の罪について刑訴法の司法警察官の職務を行うと定めています。厚生労働省の労働基準情報FAQは、事業主等が重大・悪質な法律違反を犯した場合には、労働基準監督官が「特別司法警察職員」として犯罪捜査を行い、検察庁に送検していると説明しています。

労働基準法 第百二条

労働基準監督官は、この法律違反の罪について、刑事訴訟法に規定する司法警察官の職務を行う。

要旨労働基準監督官は、労基法違反の罪について捜査機関として動きます。

労働基準法 第百四条(監督機関に対する申告)

事業場に、この法律又はこの法律に基いて発する命令に違反する事実がある場合においては、労働者は、その事実を行政官庁又は労働基準監督官に申告することができる。

2 使用者は、前項の申告をしたことを理由として、労働者に対して解雇その他不利益な取扱をしてはならない。

要旨1項が申告、2項が申告を理由とする不利益取扱いの禁止です。2項の違反は119条1号の罰則の対象です。

労基署への申告と告訴・告発の比較

項目労基署への申告告訴・告発
根拠労基法104条1項刑訴法230条(告訴)・239条(告発)
求めるもの違反の事実を知らせ、行政による是正を求める犯罪事実を申し出て、犯人の処罰を求める
出す人条文上は労働者告訴は被害を受けた人など、告発は誰でも
出す先行政官庁または労働基準監督官検察官または司法警察員(刑訴法241条1項)
その後監督指導・是正勧告など(重大・悪質なら捜査・送検)捜査機関から検察官へ。処分の結果は告訴人・告発人に通知(刑訴法260条)
報復からの保護申告を理由とする解雇等の禁止(104条2項)104条2項は申告についての規定。告訴・告発の場面の保護は公益通報者保護法の要件による(後の章)

「その後」欄の監督指導と送検は、厚生労働省 労働基準情報FAQ「労働基準監督制度の概要」による。

労基署で起きること:監督指導で解決する事案と送検される事案

厚生労働省の公表では、賃金不払いの事案は、労基署の監督指導によって使用者が支払って解決したものが大部分です。令和6年に全国の労基署が取り扱った賃金不払事案は22,354件で、そのうち21,495件(96.2%)が指導によって解決したとされています。

この数字は行政の監督指導の結果で、送検や告訴の件数ではありません。「解決」には一部だけが支払われたものも含まれます。

統計賃金不払事案の監督指導結果(令和6年・全国の労働基準監督署)

区分件数対象労働者数金額
取り扱った賃金不払事案22,354件(前年比1,005件増)185,197人(同3,294人増)172億1,113万円(同70億1,760万円増)
うち指導により支払われ解決したもの21,495件(96.2%)181,177人(97.8%)162億732万円(94.2%)

出典:厚生労働省「賃金不払が疑われる事業場に対する監督指導結果(令和6年)」報道発表(令和7年8月7日)【監督指導結果のポイント】1・2

令和6年中に解決せず翌年に繰り越したもの、倒産・事業主の行方不明で支払われなかったものを含む。不払賃金の一部のみを支払ったものも「解決」に含まれる(同資料の※1〜3)。

労基署での流れ(条文と厚生労働省の説明から)

  1. 労働者

    事業場の違反の事実を労基署(行政官庁・労働基準監督官)に申告する

    労基法104条1項

  2. 労基署(行政としての権限)

    監督指導を行い、使用者に是正や支払いを求める

    厚生労働省 監督指導結果(令和6年)

  3. 労働基準監督官(司法警察官の職務)

    重大・悪質な違反について犯罪捜査を行う

    労基法102条、厚生労働省 労働基準情報FAQ

  4. 検察庁

    送検された事件について起訴・不起訴を判断する

    厚生労働省 労働基準情報FAQ

倒産で支払いが難しい事案については、同じ報道発表が「賃金の支払の確保等に関する法律」に基づく未払賃金立替払制度の運用に触れています。

告訴をしても、刑事手続の中で未払いの賃金が支払われる仕組みはありません。刑事手続は処罰を求める手続です。賃金そのものを受け取るには、労基署の指導、民事上の請求、未払賃金立替払制度といった別の手段があり、告訴とは目的が違うことを押さえておく必要があります。

賃金不払いの罰則:労基法24条・37条・20条と119条・120条

賃金の払い方は労基法24条に定めがあります。賃金は通貨で、直接労働者に、全額を、毎月1回以上、一定の期日を定めて支払わなければなりません。これに違反すると、120条1号により30万円以下の罰金です。

残業代(時間外・休日・深夜の割増賃金)は37条、解雇予告手当は20条に定めがあり、これらの違反は119条1号により6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金です。

労働基準法 第二十四条(賃金の支払)

賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。(略)

2 賃金は、毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。(略)

要旨通貨払い・直接払い・全額払い(1項)と、毎月1回以上・一定期日払い(2項)の原則です。ただし書の例外は省いています。

労働基準法 第百十九条(抜粋)

次の各号のいずれかに該当する者は、六月以下の拘禁刑又は三十万円以下の罰金に処する。

一(略)第二十条(略)第三十七条(略)又は第百四条第二項の規定に違反した者

要旨1号のうち、解雇予告(20条)、割増賃金(37条)、申告を理由とする不利益取扱い(104条2項)だけを残しています。

労働基準法 第百二十条(抜粋)

次の各号のいずれかに該当する者は、三十万円以下の罰金に処する。

一(略)第二十三条から第二十七条まで(略)の規定に違反した者

要旨1号の23条〜27条に、賃金の支払(24条)と休業手当(26条)が含まれます。

賃金に関わる主な違反と罰則・公訴時効

違反の内容義務の条罰則公訴時効
定期の賃金の不払い24条30万円以下の罰金(120条1号)3年
休業手当の不払い26条30万円以下の罰金(120条1号)3年
割増賃金(残業代)の不払い37条6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金(119条1号)3年
解雇予告・解雇予告手当の不払い20条6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金(119条1号)3年
申告を理由とする解雇などの不利益取扱い104条2項6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金(119条1号)3年

公訴時効は、法定刑の長期が5年未満の拘禁刑または罰金の罪として刑訴法250条2項6号による。年数の一覧は公訴時効の早見表のページを参照。最低賃金を下回る賃金(最低賃金法4条1項違反)は、同法40条により50万円以下の罰金とされています(地域別最低賃金などに係るものに限る)。

混同しやすいのが二つの「時効」です。未払いの賃金を請求する権利は、労基法115条と143条3項により、当分の間3年(退職手当は5年)で消滅します。これは民事上の権利の時効です。一方、犯罪として起訴できる期間である公訴時効も3年ですが、こちらは刑訴法250条によるもので、起算の考え方も別です。不払いが毎月続く場合に支払期日ごとに数えるのかについて、判例の原文は調べた範囲では確認できていません。

もう一つ、告訴状・告発状で誰を被告訴人(処罰を求める相手。捜査の段階では被疑者)とするかに関わるのが121条の両罰規定です。違反した人が事業主のために行為した代理人・使用人などであるときは、事業主にも罰金刑が科されます(事業主が違反の防止に必要な措置をした場合を除く。同条1項)。事業主が違反の計画を知りながら防止の措置を講じなかったときなどは、事業主も行為者として罰せられます(同条2項)。

統計でみる労基法違反の告訴・告発

検察統計(法務省の検察統計調査。e-Statで公表)には、労基法違反のうち、警察などの司法警察員に告訴したことが捜査の始まり(端緒)になった被疑者の人員が載っています。2025年は310人で、2016年の220人と比べると約1.41倍です。この人員は、検察で処理が済んだ被疑者の数で、告訴状を出した件数や警察・労基署が受理した件数ではありません。

罪名ごとに、検察で処理が済んだ人員のうち告訴(司法警察員への告訴と検察官への告訴の合計)が端緒だったものの割合をみると、労基法違反は2025年に46.8%でした。刑法犯全体では3.1%です。告訴が端緒になる割合が、刑法犯全体と比べて高い罪だといえます。

統計労働基準法違反:捜査の端緒が告訴・告発だった既済人員(2016〜2025年)

年司法警察員に告訴検察官に告訴司法警察員に告発検察官に告発
201622013338
20171898189
20182342530
20191423105
20201833270
20212177405
2022209134
20231956221
202424910290
202531013335

出典:検察統計(e-Stat)表37「罪名別 既済となった被疑事件の捜査の端緒別人員」労働基準法の行、2016〜2025年

告発の列は「公務員から」と「その他」の2列を足した人員。増加の倍率は 310÷220=約1.41。告訴の割合 46.8% は(司法警察員に告訴+検察官に告訴)÷表37の既済総数(他庁送致を除く。2025年は690人)×100 で計算した値(2025年)。刑法犯全体の3.1%も同じ計算。

労働局の単位では、大阪労働局の「令和7年における送検状況について」(令和8年1月29日)で、管内の送検95件の捜査の端緒は、認知事件が70件、告訴・告発が25件とされています(同資料1(4))。1労働局だけの数字で、全国の傾向を示すものではありません。全国の送検件数は、このページでは扱っていません。

検察統計で労基法違反の告訴が増えている理由を直接説明した公的資料は、調べた範囲では見つかっていません。告訴の人員の読み方や、他の罪との比較は検察統計でみる告訴事件の起訴率と期間のページで扱っています。

告訴状は労基署と警察のどちらに出すか:条文から言えること

刑訴法241条1項は、告訴・告発は書面または口頭で、検察官または司法警察員にしなければならないと定めています。労基法102条により、労働基準監督官は労基法違反の罪について司法警察官の職務を行うので、条文を組み合わせると、労基法違反の告訴・告発の受け手には労働基準監督官も含まれうると読めます。

警察署の司法警察員や検察官も、241条の受け手です。労基法違反の告訴を労基署と警察のどちらに出すのがよいかを比べた公式の資料は、調べた範囲では確認できていません。検察統計の「司法警察員に告訴」には、警察への告訴と労基署(労働基準監督官)への告訴の両方が含まれうるため、この統計から提出先の内訳は分かりません。

確認できていないこと

労基署が告訴状・告発状を受け付けることや、その受理の基準・提出の方法を案内した厚生労働省・労働局の公式ページは、調べた範囲では確認できていません。労基署に告訴状を出すことを考えるときは、労基法102条と刑訴法241条の組合せという条文の読みが根拠になります。

どちらに出す場合でも、書く中身は、誰が、いつ、どの賃金を、いくら払わなかったのかという事実と、処罰を求める意思です。告訴状の構成と犯罪事実の特定の考え方は告訴状の書き方と相手不明の場合の告訴のページで詳しく説明しています。

告発とは:被害者でない人が処罰を求めるとき

刑訴法239条1項は、何人でも、犯罪があると思料するときは告発できると定めています。告発をする人を告発人といいます。たとえば、自分は被害を受けていない同僚の賃金不払いを知った人や、退職した後に職場の違反を知った人は、告訴ではなく告発の形で処罰を求めることになります。告訴できる人の範囲と、公務員の告発義務(同条2項)は告訴・告発・被害届の違いと告訴できる人のページで扱っています。

告発状を書くうえで押さえたい違いは三つです。一つ目は期間です。犯人を知った日から6か月という告訴期間(刑訴法235条)は、親告罪(告訴がなければ起訴できない罪)の告訴についての規定で、労基法の罰則には告訴を起訴の条件とする規定はありません。期限として意識するのは公訴時効(3年)です。

二つ目は、手続の扱いが告訴と共通する点です。告発の方式(241条)は告訴と同じで、検察官は処分をしたとき告発人にも通知し(260条)、不起訴の場合は告発人の請求により理由を告げます(261条)。三つ目は、告発しても起訴の義務が生じるわけではない点で、起訴・不起訴は検察官が判断します。

事実を確かめないまま告発すると、虚偽告訴罪(刑法172条)の問題になりえます。当時の誣告罪(現在の虚偽告訴罪)について、虚偽であることの確定的な認識がなくても、未必的な認識があり、告発が極めて軽々になされた場合には成立を妨げないとした最高裁昭和28年1月23日判決があります。虚偽告訴の注意は受理後の流れと取下げ・示談・虚偽告訴の注意のページで扱っています。

告発状に書くこと:告訴状との違い

告発状にも、法律で決まった書式はありません。中身として求められるのは、告訴状と同じく、犯罪事実と処罰を求める意思です。違いは、告発人が被害者ではないことから生じます。告発人はなぜその事実を知ったのか、事実を裏づける資料をどう手に入れたのかを、読み手が確かめられるように書く必要があります。

下の表は告訴状と比べて考え方が変わる項目の整理で、文例ではありません。

告訴状と比べた告発状の項目

項目告訴状告発状で変わる点
標題・趣旨告訴状。被告訴人の処罰を求める告発状。被告発人の処罰を求める。告発する理由は被害ではなく「犯罪があると思料する」こと(239条1項)
出す人の欄告訴人。告訴できる人であることを示す告発人。資格の制限はないが、事実との関わり(元従業員、同僚など)を示す
相手の欄被告訴人被告発人。労基法違反では、行為者(代理人・使用人など)と事業主(121条の両罰規定)を分けて考える
犯罪事実日時・場所・方法・結果を罪名の要件に沿って同じ。賃金なら、誰の、どの期間の、どの賃金が、支払期日に払われなかったか。違反した条(24条・37条など)と罰則の条を示す
事実を知った経緯被害を受けた経緯告発人が事実を知ったきっかけと時期。伝え聞きか、自分で見聞きしたかを区別する
証拠被害を示す資料資料をどこから、どのように手に入れたかを示す
期間親告罪なら告訴期間6か月(235条)告訴期間の規定は及ばない。公訴時効(労基法違反は3年)に注意

告訴状の項目ごとの役割は告訴状の書き方と相手不明の場合の告訴のページの表で説明しています。

労基法違反の告発で特に気をつけたいのは、事実の特定です。違反の条を挙げるだけでは、捜査機関はどの行為を調べればよいか分かりません。対象となる労働者、支払期日、払われた額と払われるべき額、その差額の根拠(賃金台帳、給与明細、勤怠の記録など)を対応させて示すと、事実が特定しやすくなります。告発状・告訴状の作成を誰に頼めるかは行政書士に頼めること・頼めないこと・費用のページで扱っています。

専属告発と行政機関による告発:公正取引委員会・証券取引等監視委員会など

罪によっては、特定の行政機関の告発がなければ起訴できないものがあります。その例が独占禁止法です。同法96条1項は、89条から91条までの罪(私的独占・カルテル・入札談合など)は公正取引委員会の告発を待って論ずると定めています。これを専属告発といいます。一般の人が警察に告発状を出しても、公正取引委員会の告発がなければ起訴できない構造です。

一般の人が違反を知ったときに使えるのは、独占禁止法45条1項の申告(公正取引委員会に事実を報告し、適当な措置を求めること)です。公正取引委員会のページは、悪質かつ重大な事案について積極的に刑事処分を求めて告発を行う方針を示し、犯則調査で犯則の心証を得たときは検事総長に告発すると説明しています。

私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律 第九十六条(第1項のみ)

第八十九条から第九十一条までの罪は、公正取引委員会の告発を待つて、これを論ずる。

要旨89条〜91条の罪は、公正取引委員会の告発がなければ起訴できません。

行政機関の告発・措置の仕組みがある分野

分野機関条文・公式の説明一般の人の申出
独占禁止法(カルテル・入札談合など)公正取引委員会89条〜91条の罪は公取委の告発を待って論ずる(96条1項)。犯則の心証を得たときは検事総長に告発(同委員会「犯則調査権限」)公取委への申告(45条1項)
金融商品取引法証券取引等監視委員会犯則事件の調査により犯則の心証を得たときは告発する(226条1項)資料では確認できていない
国税(脱税)国税の当該職員犯則があると思料するときは検察官に告発しなければならない(国税通則法155条)資料では確認できていない
個人情報保護法個人情報保護委員会報告徴収・立入検査、指導・助言、勧告・命令などの措置と、違反への刑事罰(同委員会FAQ Q11-1)。委員会の告発の定めではない資料では確認できていない

専属告発(96条1項)は独占禁止法の89条〜91条の罪。金融商品取引法・国税通則法の条文は機関が告発することを定めたもので、一般の人の告発との関係は資料で確認できていない。

確認できていないこと

個人情報保護法には、e-Govの現行条文を調べた範囲で、独占禁止法96条1項のような「委員会の告発を待って論ずる」との定めは確認できませんでした。金融商品取引法・国税の犯則事件について、一般の人が警察に告発状を出したときの扱いも確認できていません。

公益通報者保護法との関係:通報は告発とは別の制度です

公益通報者保護法2条の「公益通報」は、労働者などが、不正の目的でなく、勤め先などについて通報対象事実(別表に掲げる法律に規定する罪の犯罪行為の事実など)が生じ、またはまさに生じようとしていることを、勤め先、権限のある行政機関、その他一定の外部の者に通報することです。刑事手続の告発とは別の、通報した人を守るための制度です。

同法3条は、公益通報をしたことを理由とする解雇を無効としています。保護の要件は、勤め先への通報、行政機関への通報、その他の外部への通報の3類型で異なり、外部への通報ほど要件が加わります。労基法違反を告発した人が同法の保護を受けられるかは、通報先と要件に当てはまるかによります。

公益通報者保護法 第三条(解雇の無効)(柱書と第1号)

労働者である公益通報者が次の各号に掲げる場合においてそれぞれ当該各号に定める公益通報をしたことを理由として前条第一項第一号に定める事業者(当該労働者を自ら使用するものに限る。第九条において同じ。)が行った解雇は、無効とする。

一  通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると思料する場合 当該役務提供先等に対する公益通報

要旨勤め先(役務提供先等)への通報は、通報対象事実が生じていると思料するだけで保護の対象になります。行政機関や外部への通報は、2号・3号の要件が加わります。

令和7年の改正(令和7年法律第62号)は、e-Gov法令検索に令和8年12月1日施行として登録されており、このページの確認日(2026年10月24日)では未施行です。改正後の条文では、公益通報を理由とする解雇・懲戒(解雇等特定不利益取扱い)をした者に6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金(改正後21条1項)、法人に3,000万円以下の罰金(改正後23条1項1号)が定められています。あわせて改正後3条3項は、解雇等特定不利益取扱いが公益通報をした日(行政機関などへの通報の場合で、事業者が通報を知って取扱いをしたときは、事業者が通報を知った日)から1年以内にされたときは、無効を定める同条2項の適用について、その取扱いは公益通報をしたことを理由としてされたものと推定すると定めています。

確認できていないこと

消費者庁の改正の解説ページは確認できていません。また、警察・検察への通報や告発が、同法3条の外部通報・行政機関への通報として保護の対象になるかは、条文の3類型への当てはめが必要で、このページでは確認できていません。

まとめ

  • 労基署への申告(労基法104条)は是正を求める行政の手続、告訴・告発(刑訴法230条・239条)は処罰を求める刑事手続です。申告を理由とする解雇などは禁止されています(104条2項)。
  • 労働基準監督官は労基法違反の罪について司法警察官の職務を行い(102条)、重大・悪質な事案を捜査して送検します。労基署が告訴状を受け付けることを案内した公式ページは、調べた範囲では確認できていません。
  • 定期の賃金の不払いは30万円以下の罰金(120条1号)、残業代・解雇予告手当の不払いは6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金(119条1号)で、公訴時効は3年です。賃金を請求する権利の時効(当分の間3年)とは別のものです。
  • 労基法違反で司法警察員への告訴が端緒の既済人員は2025年に310人(2016年は220人)、告訴が端緒の割合は46.8%でした(検察統計 表37)。賃金不払事案は令和6年に22,354件で、96.2%が監督指導で解決したとされています。
  • 被害者でない人は告発ができ、告発人にも処分の通知があります(260条)。独占禁止法89条〜91条の罪は公正取引委員会の告発がなければ起訴できません(96条1項)。公益通報者保護法の通報は告発とは別の制度で、令和7年改正は令和8年12月1日施行(未施行)です。

このページの出典

  1. 法令労働基準法 第102条、第104条、第121条(e-Gov法令検索)確認日 2026-10-24
  2. 法令労働基準法 第117条〜第120条(e-Gov法令検索)確認日 2026-10-24
  3. 法令労働基準法 第20条、第24条、第26条、第37条、第114条、第115条、第143条(e-Gov法令検索)確認日 2026-10-24
  4. 法令最低賃金法 第4条、第40条(e-Gov法令検索)確認日 2026-10-24
  5. 法令刑事訴訟法 第230条、第235条、第239条、第241条、第250条、第260条、第261条(e-Gov法令検索)確認日 2026-10-24
  6. 法令私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律 第45条、第89条〜第91条、第96条(e-Gov法令検索)確認日 2026-10-24
  7. 法令金融商品取引法 第226条(e-Gov法令検索)確認日 2026-10-24
  8. 法令国税通則法 第155条(e-Gov法令検索)確認日 2026-10-24
  9. 法令公益通報者保護法 第2条、第3条(e-Gov法令検索)確認日 2026-10-24
  10. 法令公益通報者保護法(令和7年法律第62号による改正後・令和8年12月1日施行・未施行版)第3条3項、第21条、第23条(e-Gov法令API)確認日 2026-10-24
  11. 官公庁厚生労働省 労働基準情報FAQ「労働基準監督制度の概要」回答本文確認日 2026-10-24
  12. 官公庁厚生労働省「賃金不払が疑われる事業場に対する監督指導結果(令和6年)」報道発表(令和7年8月7日)【監督指導結果のポイント】1・2確認日 2026-10-24
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よくあるご質問

労基署に申告すれば、告訴したことになりますか?

なりません。労基署への申告(労基法104条1項)は違反の事実を知らせて是正を求める手続で、犯人の処罰を求める告訴(刑訴法230条)とは別です。処罰を求めるなら、告訴状・告発状を検察官または司法警察員に出します(刑訴法241条1項)。労働基準監督官は労基法違反について司法警察官の職務を行います(労基法102条)が、労基署が告訴状を受け付けることを案内した公式ページは、調べた範囲では確認できていません。

残業代の不払いと給料の不払いで、罰則は違いますか?

違います。定期の賃金の不払い(24条違反)は30万円以下の罰金(120条1号)、割増賃金(残業代)の不払い(37条違反)は6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金(119条1号)です。解雇予告手当(20条)も119条1号です。公訴時効はいずれも3年です(刑訴法250条2項6号)。

告訴すれば、未払いの給料は支払われますか?

刑事手続には、未払いの賃金を支払わせる仕組みはありません。告訴は処罰を求める手続です。厚生労働省の公表では、令和6年の賃金不払事案22,354件のうち96.2%が労基署の指導で支払われ解決したとされています(一部の支払いも含む)。倒産の場合は未払賃金立替払制度があります。賃金を請求する権利の時効は当分の間3年です(労基法115条・143条3項)。

自分は被害者ではありませんが、同僚の賃金不払いを告発できますか?

告発は誰でもできます(刑訴法239条1項)。告発人にも、検察官の処分の結果が通知され(260条)、不起訴の場合は請求により理由が告げられます(261条)。告発状では、事実を知った経緯と資料の出どころを区別して書くことが大切です。事実を確かめずに告発すると虚偽告訴罪(刑法172条)の問題になりえます。

談合を知りました。警察に告発状を出せば起訴されますか?

独占禁止法89条〜91条の罪は、公正取引委員会の告発を待って論ずる罪(専属告発)です(96条1項)。警察に告発状を出しても、公正取引委員会の告発がなければ起訴できません。一般の人は、公正取引委員会への申告(同法45条1項)で事実を報告し、措置を求めることができます。

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本ページは一般的な情報提供です。告訴・告発が受理されるか、どの罪が成立するか、起訴されるかは、事実関係と証拠をもとに警察・検察が判断することで、このページの説明で結論が決まるものではありません。条文は e-Gov法令検索(法令API)で2026年10月24日時点のものを、統計は政府統計の総合窓口(e-Stat)ほか各府省の公表資料を確認しています。参考: e-Gov法令検索 / e-Stat / 警察庁 / 検察庁 / 裁判所 / 法務省

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