このページの要点
- 不受理のあとの手段は、書き直して出し直す、検察官への告訴(刑訴法241条)、公安委員会への苦情申出(警察法79条)、裁判の四つで、どれも受理を強制できません。
- 検察官にも告訴できますが、要件を欠くとして受理されないときに受理を義務づける制度はないと、平成28年に法務省刑事局長が答弁しています。
- 苦情申出は文書で行い、公安委員会は誠実に処理して結果を文書で通知します。対応の是正を求める制度で、不受理を取り消す制度ではありません。
- 不受理の取消訴訟は却下され、捜査の不適正などを理由とする国家賠償も最高裁平成2年2月20日判決で否定されています。手段を選ぶ前に、告訴期間と公訴時効の残りを確かめます。
結論:手段ごとに「できること」が違い、受理を強制できる手段はありません
結論
- 警察で告訴が受理されなかったあとに取れる手段は、主に、書き直して出し直す(別の窓口を含む)、検察官に告訴する(刑事訴訟法241条)、都道府県公安委員会に苦情を申し出る(警察法79条)、裁判で争う、の四つです。
- どの手段にも、警察や検察官に告訴の受理を義務づける効果はありません。苦情申出は警察職員の職務執行についての苦情を処理して結果を文書で知らせる制度で、不受理を取り消す制度ではありません。
- 裁判で争う道は狭く、不受理の取消しを求めた行政訴訟は却下され(さいたま地裁平成23年5月18日判決)、捜査の不適正などを理由とする国家賠償も最高裁で否定されています(最高裁平成2年2月20日判決)。
- 検察審査会と付審判請求は、検察官が不起訴にしたあとの制度で、警察の不受理に対する手段ではありません。
告訴とは、犯罪の被害を受けた人などが、警察(司法警察員)や検察官に犯罪の事実を申し出て、犯人の処罰を求める意思を示すことです。告訴をする人を告訴人、処罰を求められる相手を被告訴人(捜査の段階では被疑者)といい、捜査機関が告訴として正式に受け付けることを受理、受け付けないことを不受理と呼びます。
窓口で断られたあと、苦情を出すべきか、検察庁に持ち込むべきか、裁判を起こせるのかと迷う場面があります。このページでは、それぞれの手段について、窓口・できること・できないこと・期間を条文と公式資料で確かめ、最後に選ぶときの考え方を整理します。
なぜ受理されなかったのかを確かめる段階の話(受理の義務、警察庁の通達、窓口で言われる言葉の読み解き)は、告訴状が受理されない理由と対処で扱っています。このページは、その先の手段の比較を担当します。
選択肢の全体像:窓口・できること・できないこと・期間
まず四つの手段を一つの表に並べます。「できること」は条文や公式資料に書かれている範囲にとどめ、「できないこと」は、その制度に含まれていない効果を挙げています。
不受理のあとに取れる手段の比較
| 手段 | 窓口 | できること | できないこと | 期間・期限 |
|---|---|---|---|---|
| 書き直して出し直す・別の窓口に出す | 警察署、警察本部などの告訴・告発センター | 断られた理由が書き方で補える要件なら、その部分を直して改めて告訴できる。管轄を問わず受理する定めがある(犯罪捜査規範63条1項) | 出し直したことで受理が約束されるわけではない | 親告罪は犯人を知った日から6か月(刑訴法235条)。どの罪も公訴時効は進む |
| 検察官に告訴する | 検察庁(検察官) | 刑訴法241条で、告訴の提出先として検察官が定められている | 検察官が受理しないとき、申立てで受理を義務づける制度はない(平成28年10月25日 法務省刑事局長答弁) | 告訴期間・公訴時効は警察に出す場合と同じ |
| 公安委員会に苦情を申し出る | 都道府県公安委員会(文書)。警察本部への申出もできる | 警察職員の職務執行への苦情を誠実に処理し、結果を文書で通知してもらえる(警察法79条3項) | 告訴の受理を命じる・不受理を取り消す制度ではない | 国家公安委員会規則(苦情の申出の手続に関する規則)に、申出や処理の期限の定めは見当たらない |
| 裁判で争う(取消訴訟・国家賠償) | 地方裁判所 | 訴えを起こすこと自体はできる | 不受理は取消訴訟の対象とならないとした判決、捜査の不適正等を理由とする国家賠償を否定した最高裁判決がある | 訴訟の間も告訴期間・公訴時効は進む |
出典:刑事訴訟法241条・235条、警察法79条、犯罪捜査規範63条、苦情の申出の手続に関する規則(平成13年国家公安委員会規則第11号)、国会会議録(平成28年10月25日 参議院法務委員会)、さいたま地裁平成23年5月18日判決、最高裁平成2年2月20日判決。どの手段を選んでも、受理の結果を左右できるものではありません。
表の右端の列は見落とされやすい点です。告訴期間とは、親告罪(告訴がなければ検察官が起訴できない罪)について告訴ができる期間で、刑訴法235条により犯人を知った日から6か月です。公訴時効とは、一定の期間が過ぎると起訴できなくなる制度です。刑訴法が公訴時効の停止として定める場面は、公訴の提起(254条)と、犯人が国外にいる場合や、逃げ隠れているため起訴状の謄本の送達などができなかった場合(255条)で、苦情申出や国家賠償訴訟はこれに含まれていません。
期間の数え方は告訴期間6か月と親告罪の一覧、罪名ごとの時効の年数は公訴時効の早見表で確かめられます。苦情や訴訟に時間をかけている間に期間が過ぎることがないよう、告訴そのものの手段と、警察の対応を問う手段とを分けて考えることが出発点になります。
書き直して出し直す・別の窓口に出す
断られた理由が、処罰を求める意思がはっきりしない、犯罪事実が特定されていない、告訴権を示す書面が足りない、といった書き方で補える要件なら、まずその部分を直して出し直すことが考えられます。どの要件が理由かの確かめ方と、書き直すときに見直す点は告訴状が受理されない理由と対処で、告訴状の構成は告訴状の書き方と相手不明の場合の告訴で説明しています。
出し直す先は、最初の警察署に限られません。犯罪捜査規範63条1項は、司法警察員は管轄区域内の事件かどうかを問わず告訴を受理しなければならないと定めています。また、警察庁の通達(令和6年3月26日 警察庁丙刑企発第39号ほか)は、警視庁・道府県警察本部と警察署のそれぞれに、告訴の相談・申出に一括して対応する「告訴・告発センター」を置くよう求めています。
ただし、窓口を替えれば判断の基準が変わるとは限りません。福岡県情報公開審査会の答申では、福岡県警察が、受理体制に関する通達に基づいて県下統一の運用をしており、警察署ごとに別の内部規則は作っていないと説明し、審査会もこの説明に不合理な点はないとしています。これは福岡県の例で、他の県の扱いは各県の例規で確かめる必要があります。県ごとの定めの違いは県警ごとの告訴取扱要綱のちがいで比べています。
検察官に告訴する:刑事訴訟法241条
告訴の提出先は警察だけではありません。告訴の方式を定めた刑訴法241条は、提出先として検察官と司法警察員の両方を挙げています。
告訴又は告発は、書面又は口頭で検察官又は司法警察員にこれをしなければならない。
2 検察官又は司法警察員は、口頭による告訴又は告発を受けたときは調書を作らなければならない。
要旨告訴は書面でも口頭でもよく、出す相手は検察官か司法警察員(警察)です。口頭で告訴を受けたときは、受けた側が調書を作ります。条文上、警察を通さずに検察官に告訴することもできます。
では、検察官なら受理してくれるのか。この点について、平成28年10月25日の参議院法務委員会で法務省刑事局長は、内容自体から犯罪を構成しないことが明白な場合、公訴時効の完成が明白な場合、趣旨がまったく不明で補正も難しい場合など、明らかに要件を欠く告訴は受理しないことも許されると答えています。そのうえで、刑事訴訟法上、検察当局が要件を欠くとして受理しないときに、提出した人の申立てで受理を義務づける制度はないと述べ、疑義があるときは事実上その検察官に再考を求めることが考えられる、としています。
つまり、提出先を検察官に替えても、告訴の要件(告訴権、告訴期間、犯罪の成否、処罰意思など)が問われることは変わりません。警察で告訴期間の経過や公訴時効の完成を理由に断られた場合、その判断が正しければ、検察官に出しても同じ理由で受理されないと考えられます。逆に、警察が挙げた理由に疑問があり、要件を満たしていると説明できるなら、別の提出先として意味を持ちます。
検察官に告訴して受理されれば、その後の処分(起訴・不起訴)は刑訴法260条により告訴人に通知されます。この通知の仕組みは、警察に告訴した場合と同じです。
なお、書類の作成について、司法書士法3条1項4号は「裁判所若しくは検察庁に提出する書類」の作成を司法書士の業務として定めています。検察庁に提出する告訴状は、条文の文言上、この「検察庁に提出する書類」に当たると読めます。
公安委員会への苦情申出:警察法79条
警察の窓口での対応そのものに納得できないときに使える制度が、警察法79条の苦情申出です。都道府県公安委員会は、都道府県警察を管理する機関です(警察法38条3項)。79条は、都道府県警察の職員の職務執行について苦情がある人が、この公安委員会に文書で申し出られることと、公安委員会が申出を処理して結果を文書で知らせることを定めています。
都道府県警察の職員(第六十一条の三第四項に規定する都道府県警察の警察官を除く。)の職務執行について苦情がある者は、都道府県公安委員会に対し、国家公安委員会規則で定める手続に従い、文書により苦情の申出をすることができる。
(略)
3 都道府県公安委員会又は国家公安委員会は、前二項の申出があつたときは、法令又は条例の規定に基づきこれを誠実に処理し、処理の結果を文書により申出者に通知しなければならない。ただし、次に掲げる場合は、この限りでない。
一 申出が警察の事務の適正な遂行を妨げる目的で行われたと認められるとき。
二 申出者の所在が不明であるとき。
三 申出者が他の者と共同で苦情の申出を行つたと認められる場合において、当該他の者に当該苦情に係る処理の結果を通知したとき。
要旨都道府県警察の職員の職務執行に苦情がある人は、都道府県公安委員会に文書で苦情を申し出ることができます。公安委員会は法令や条例に基づいて誠実に処理し、結果を文書で申出者に通知しなければなりません。通知しなくてよいのは、警察の事務を妨げる目的の申出、申出者の所在が分からない場合、共同で申し出た他の人に通知した場合です(2項は警察庁の警察官などについて国家公安委員会に申し出る定めで、ここでは省略しています)。
警察庁のウェブサイトも、都道府県警察の職員の職務執行についての苦情は都道府県警察本部に申し出ること、また警察法79条により都道府県公安委員会に文書で苦情を申し出ることもできることを案内しています。つまり、苦情の宛先は警察本部と公安委員会の二つがあり、79条の手続(処理結果の文書通知)が定められているのは公安委員会への申出です。
告訴の扱いへの不満が、この「職務執行についての苦情」に入るかについて、神奈川県警察の苦情取扱要綱を定めた通達(解釈及び運用上の留意事項)は、捜査や告訴告発の取扱いなどについて、日時・場所・内容と被った不利益の内容を個別具体的に示した申出は、職員の職務執行についての苦情になるとしています。窓口で告訴を受け付けてもらえなかった経緯を、具体的に書いて申し出ることが想定されている例です。ほかの県の扱いは、その県の公安委員会の案内で確かめます。
苦情申出書に書くことと出し方
79条1項がいう「国家公安委員会規則で定める手続」は、苦情の申出の手続に関する規則(平成13年国家公安委員会規則第11号)です。この規則は4条からなる短いもので、苦情申出書に書く事項(2条)、作成の援助(3条)、補正(4条)を定めています。
苦情申出書に書く事項(苦情の申出の手続に関する規則2条1項)
| 号 | 書く事項 | 告訴の不受理の場面での例 |
|---|---|---|
| 1号 | 申出者の氏名、住所及び電話番号 | 申し出る本人の連絡先 |
| 2号 | 住所以外の連絡先への通知を求めるときは、その連絡先の名称・住所・電話番号 | 結果の通知を別の住所で受け取りたいとき |
| 3号 | 職務執行の日時・場所、警察職員の執務の態様その他の事案の概要 | 告訴状を持参した日時、警察署名と担当部署、窓口で言われた内容 |
| 4号 | 職務執行により受けた具体的な不利益の内容、または執務の態様に対する不満の内容 | 受理されなかったことで生じた不利益、対応への不満の具体的な中身 |
「書く事項」の列は規則の条文の要約、右の列は当事務所が告訴の場面に当てはめた例です。申出者が複数のときは、代表して通知を受ける人を決めて書きます(同条2項)。
申出者が自分で苦情申出書を作るのが難しいときは、受理の事務を担当する警察職員が口頭で話を聴いて代書し、読み聞かせなどで誤りがないことを確かめる、と規則3条が定めています。記載に不備があれば、公安委員会は相当の期間を定めて補正を求めることができます(4条)。規則には、申出の期限や処理の期限を定めた規定は見当たりません。
提出の方法は県ごとに案内があります。神奈川県公安委員会の案内では、様式の定めはなく、郵送か県内の警察署への提出で受け付け、2025年12月15日からはe-Govによる電子申請もできるとしています。一方で、ファクシミリと電子メールは「文書」とはみなされないとしています。79条が「文書により」と定めているため、電話や窓口で口頭で伝えただけでは、この手続の苦情申出にはなりません(口頭で述べた内容を警察職員が苦情申出書に代書する規則3条の援助は、これとは別です)。
窓口で断られた日時、対応した部署、言われた言葉は、規則2条1項3号・4号の記載に直結します。断られたその日のうちに書き留めておくと、苦情申出書にも、書き直した告訴状にも使えます。
統計苦情の申出の件数(公安委員会の会議資料で公表されている例)
| 県・年 | 公安委員会宛て | 警察宛て | 合計 | 対応に問題が認められたもの |
|---|---|---|---|---|
| 鳥取県・2024年 | 7件 | 5件(警察本部長宛て) | 12件 | 3件(指摘事実のあるもの) |
| 岡山県・2025年 | 25件 | 9件 | 34件 | 5件 |
出典:鳥取県公安委員会 令和7年第4回定例会議録(2025年2月6日開催)/岡山県公安委員会 第5回定例会(2026年2月26日)の開催状況
どちらも1つの県の1年分で、全国の数字ではありません。岡山県の34件の内訳は、言葉遣い・態度16件、職務行為12件などとされています。問題が認められた割合は、岡山県の資料では34件中5件(14.7%)とされています。どちらの資料からも、告訴の不受理についての苦情が何件あったかは分かりません。全国の集計は、調べた範囲では確認できていません。岡山県の資料は、岡山県公安委員会のウェブサイトの「公安委員会定例会の会議録」のページに掲載されたもので、文書の中には県名の記載が見当たりません。
苦情申出でできないこと:受理を命じる制度ではない
苦情申出について最も誤解されやすいのは、申し出れば告訴が受理されるようになる、という期待です。79条3項が公安委員会に義務づけているのは、苦情を誠実に処理し、その結果を文書で通知することです。条文には、公安委員会が警察に告訴の受理を命じることや、不受理を取り消すことは書かれていません。
公安委員会と警察の関係を定めた警察法38条3項も、公安委員会は都道府県警察を「管理する」と定めています。個々の事件について、公安委員会が捜査を指揮して告訴の受理を命じることは、この苦情の制度には含まれていない、というのが条文の構造からの読みです。
告訴状そのものを公安委員会に出す使い方もできません。静岡県警察のウェブサイトにある静岡県公安委員会の苦情申出制度の案内には、「告訴・告発等の犯罪捜査にかかる文書は受理できません」と書かれています。苦情申出書は「警察職員の対応」についての申出で、「犯人の処罰を求める申出」である告訴とは、宛先も目的も別のものです。
このように見ると、苦情申出は、告訴を通すための手段というより、窓口の対応の問題点を記録に残し、改善を求める手段と位置づけられます。鳥取県や岡山県の資料のように、対応に問題があったと判断される苦情もあります。結果として対応が見直されることはありえますが、それは苦情を処理した結果であり、制度として受理が約束されるものではありません。
確認できていないこと
警察の告訴の不受理に対して、法令で定められた不服申立ての制度(不受理を見直させる手続)があるかは、調べた範囲では確認できませんでした。各県の公安委員会が苦情をどのような流れで処理するか(警察本部への調査の指示など)は県ごとの規程によるとみられますが、本文を確認できた県は限られています。申出の前に、その県の公安委員会の案内を確かめてください。
国家賠償・取消訴訟が難しい理由
裁判で不受理を争う方法としては、不受理を行政処分とみてその取消しを求める行政訴訟(取消訴訟)と、違法な職務執行で損害を受けたとして国や都道府県に賠償を求める国家賠償請求が考えられます。どちらについても、公開されている裁判例は被害者側に厳しい判断をしています。
最高裁判所第三小法廷 平成2年2月20日判決
平成1年(オ)第825号・集民159号161頁裁判所サイトの判示事項・裁判要旨と判決PDF(1頁)で確認。警察が告訴を受理しなかったこと自体を扱った判決ではない
- 事案
- 犯罪の被害者・告訴人が、捜査が適正を欠いたこと、また検察官の不起訴処分が違法であることを理由に、国家賠償法に基づく損害賠償を求めた事件です。
- 判断の要点
- 捜査や公訴の提起は公益のために行われるもので、被害者や告訴人が受ける利益は、その反射として生じる事実上の利益にすぎず、法律上保護された利益ではない、と判断しました。そのため、捜査の不適正や不起訴処分の違法を理由とする国家賠償請求はできないとして、上告を棄却しています。
確認した場所:裁判所 裁判例検索
さいたま地方裁判所 平成23年5月18日判決
平成23年(行ウ)第8号裁判所サイトの詳細ページと判決PDF(画像の機械読取)で確認。第一審判決で、控訴の有無は未確認
- 事案
- 成年後見人が被後見人を被害者とする準詐欺罪の告訴状を警察署に持参したところ、公訴時効の経過を理由に受理されず、その不受理の取消しを求めた行政訴訟です。
- 判断の要点
- 上の最高裁判決を参照し、告訴人が捜査や起訴によって受ける利益は法律上保護された利益ではないから、告訴状を受理しない行為は国民の権利義務を直接に形づくる行政処分に当たらないとして、訴えを却下しました。
確認した場所:裁判所 裁判例検索
二つの判決に共通するのは、「告訴人が捜査から受ける利益は、法律で守られた個人の利益ではない」という考え方です。取消訴訟は、法律で守られた権利や利益に直接影響する行政の行為を対象にする制度なので、この考え方に立つと、不受理は取消しの対象になりません。国家賠償でも、侵害されたのが法律上保護された利益でなければ、賠償の根拠になりません。
ただし、それぞれの判決が扱った範囲には限りがあります。最高裁判決が直接判断したのは、捜査の不適正と不起訴処分の違法を理由とする請求で、警察が告訴を受理しなかったこと自体ではありません。さいたま地裁の判決は、処分に当たるかという入口の点で訴えを退けており、時効を理由とした不受理が正しかったかどうかには踏み込んでいません。また、第一審の判決1件です。
それでも、裁判で不受理を覆したり賠償を得たりする見込みは、これらの判決からみて大きくないといえます。訴訟には費用と時間がかかり、その間も告訴期間と公訴時効は進みます。裁判を考えるときは、告訴そのものを進める手段と並行させるかどうかを、期間との関係で考える必要があります。訴訟の代理は弁護士の業務です。
確認できていないこと
警察が告訴を受理しなかったこと自体を理由とする国家賠償請求について、最高裁が判断した公開の判例は、調べた範囲では確認できませんでした。
検察審査会と付審判請求は「不起訴のあと」の制度
不受理のあとの手段として、検察審査会や付審判請求の名前が挙がることがありますが、どちらも検察官が事件を起訴しない処分(不起訴処分)をしたあとに使う制度です。検察審査会法2条1項1号は審査の対象を「検察官の公訴を提起しない処分の当否」とし、付審判請求(刑訴法262条)も、公務員職権濫用などの限られた罪について、不起訴処分に不服がある告訴人などが、処分の通知を受けた日から7日以内に請求する制度です。警察で告訴が受理されず、事件が検察官の処分に至っていない段階では、審査や請求の対象になる処分がまだありません。これらの制度の手続は不起訴になったら:検察審査会と付審判で説明しています。
どれを選ぶか:判断の枠組み(当事務所の整理)
ここまでの手段のうち、どれを選ぶべきかを定めた公的な基準はありません。法令・通達・判例は、それぞれの手段で何ができ、何ができないかを示しているだけです。以下は、その範囲から当事務所が組み立てた考え方の順序で、公的な基準ではなく、個々の事案でどの手段がうまくいくかを示すものでもありません。
中心になる考え方は二つです。一つは、告訴そのものを進める手段(書き直し、別の窓口、検察官への告訴)と、警察の対応を問う手段(苦情申出、訴訟)を分けることです。もう一つは、期間が迫っているかを最初に確かめることです。
不受理のあとの手段を考える順序(当事務所の整理)
親告罪で、犯人を知った日から6か月が近づいている、または公訴時効が近い。
はい告訴そのものを進める手段を先にします。苦情申出や訴訟は告訴期間・公訴時効を止めません。
いいえ次の問いへ進みます。
断られた理由が、処罰意思・犯罪事実の特定・告訴権を示す書面など、書き方で補える要件ですか。
はいその部分を直して出し直します(別の警察署や本部の告訴・告発センターも提出先になります)。
いいえ次の問いへ進みます。
理由が告訴期間の経過や公訴時効の完成など、書き方では変えられないものですか。
はいその判断が条文に照らして正しいかを確かめます。正しければ、検察官に出しても同じ理由で受理されないと考えられます。
いいえ理由がはっきりしないときは、どの要件が問題なのかを改めて尋ねます。
窓口の対応そのもの(説明がない、態度、手続の扱い)に問題があったと考えますか。
はい公安委員会への苦情申出を検討します。受理を求める手段ではなく、対応の是正を求める手段として使います。
いいえ告訴そのものを進める手段に戻ります。
このフローは当事務所の整理で、公的な基準ではありません。どの順序で進めても、受理の結果を左右するものではありません。
目的からみた手段の向き・不向き(当事務所の整理)
| 目的 | 向いている手段 | 向いていない手段 |
|---|---|---|
| 犯人の処罰を求めたい | 書き直して出し直す、別の窓口、検察官への告訴 | 苦情申出(受理を命じる制度ではない) |
| 窓口の対応を記録に残し、改善を求めたい | 公安委員会への苦情申出(結果は文書で通知) | 告訴の出し直し(対応の是非は判断されない) |
| 受けた損害の賠償を求めたい | 加害者に対する民事上の請求(刑事の手続とは別) | 捜査機関を相手にした国家賠償(捜査の不適正等を理由とする請求は最高裁平成2年2月20日判決で否定) |
| 不起訴の判断に不服がある | 検察審査会への申立て、対象の罪なら付審判請求 | 不受理の段階では使えない |
当事務所の整理です。損害賠償の請求や示談の交渉、捜査機関との折衝を代理人として行うことは弁護士の領域です。
手段ごとに関わる専門職も分かれます。警察に提出する告訴状の作成は行政書士の業務(行政書士法1条の3の官公署に提出する書類の作成)に含まれますが、検察庁に提出する書類の作成は司法書士法3条1項4号で司法書士の業務と定められ、訴訟の代理や代理人としての捜査機関との折衝は弁護士の領域です。どこまでを行政書士が扱えるかは行政書士に頼めること・頼めないこと・費用で整理しています。
まとめ
- 不受理のあとの手段は、書き直して出し直す(別の窓口を含む)、検察官への告訴(刑訴法241条)、公安委員会への苦情申出(警察法79条)、裁判の四つです。どれも受理を強制するものではありません。
- 検察官にも告訴できますが、要件を欠くとして受理されないときに受理を義務づける制度はないと、法務省刑事局長が答弁しています。
- 苦情申出は文書で行い、公安委員会は誠実に処理して結果を文書で通知します。対応の是正を求める制度で、不受理を取り消す制度ではありません。
- 不受理の取消訴訟は却下され(さいたま地裁平成23年5月18日判決)、捜査の不適正などを理由とする国家賠償は最高裁平成2年2月20日判決で否定されています。
- 検察審査会と付審判請求は不起訴処分のあとの制度です。手段を選ぶときは、告訴期間・公訴時効の残りを最初に確かめます(選び方は当事務所の整理です)。
このページの出典
- 法令刑事訴訟法 第235条・第241条・第254条・第255条・第260条・第262条(e-Gov法令検索)確認日 2026-10-24
- 法令警察法 第38条・第79条(e-Gov法令検索)確認日 2026-10-24
- 法令苦情の申出の手続に関する規則(平成13年国家公安委員会規則第11号)第1条〜第4条(e-Gov法令検索)確認日 2026-10-24
- 法令犯罪捜査規範 第63条(e-Gov法令検索)確認日 2026-10-24
- 法令検察審査会法 第2条(e-Gov法令検索)確認日 2026-10-24
- 法令司法書士法 第3条第1項第4号(e-Gov法令検索)確認日 2026-10-24
- 官公庁国会会議録 第192回国会 参議院法務委員会第3号(平成28年10月25日)法務省刑事局長の答弁(発言154・162)確認日 2026-10-24
- 官公庁警察庁「告訴・告発への適切な対応及び指導・管理の徹底について(通達)」(令和6年3月26日 警察庁丙刑企発第39号ほか)第2の1確認日 2026-10-24
- 官公庁警察庁「ご意見、各種相談・情報提供等」警察への苦情の項確認日 2026-10-24
- 官公庁神奈川県警察「神奈川県警察職員の職務執行についての苦情取扱要綱の制定について」(平成13年5月24日例規第42号)第2の1(1)確認日 2026-10-24
- 官公庁神奈川県公安委員会 苦情の申出の案内確認日 2026-10-24
- 官公庁静岡県警察ウェブサイト 公安委員会「苦情申出制度」確認日 2026-10-24
- 官公庁鳥取県公安委員会 令和7年第4回定例会議録(令和7年2月6日開催)確認日 2026-10-24
- 官公庁岡山県公安委員会 第5回定例会(令和8年2月26日)の開催状況確認日 2026-10-24
- 官公庁岡山県公安委員会「公安委員会定例会の会議録」(上記資料の掲載ページ)確認日 2026-10-24
- 官公庁福岡県情報公開審査会 答申(告訴・告発の受理(不受理)に関する通達等の開示請求)第5・第6の(3)確認日 2026-10-24
- 判例最高裁第三小法廷 平成2年2月20日判決(平成1年(オ)第825号 損害賠償)判示事項・裁判要旨確認日 2026-10-24
- 判例さいたま地裁 平成23年5月18日判決(平成23年(行ウ)第8号 告訴状不受理処分取消請求事件)確認日 2026-10-24
よくあるご質問
警察を通さずに、最初から検察庁に告訴状を出してもよいですか。
出すことはできます。刑事訴訟法241条は告訴の提出先を「検察官又は司法警察員」と定めており、警察を先に通す決まりはありません。ただし、検察官も告訴権・告訴期間・犯罪の成否などの要件を確かめ、平成28年の法務省刑事局長答弁によれば、要件を欠くとして受理しないときに受理を義務づける制度はありません。検察庁に提出する書類の作成は、司法書士法3条1項4号で司法書士の業務として定められています。
公安委員会への苦情申出は、メールや電話でもできますか。
警察法79条1項は「文書により」と定めているため、電話での訴えはこの手続の苦情申出になりません。神奈川県公安委員会は、ファクシミリと電子メールは文書とみなさない一方、2025年12月15日からe-Govの電子申請を受け付けると案内しています。自分で書くのが難しいときは、苦情の申出の手続に関する規則3条により、警察職員が話を聴いて代書します。
苦情申出の結果は、いつごろ届きますか。
法令上の期限の定めは見当たりません。警察法79条3項は処理の結果を文書で通知することを定めていますが、苦情の申出の手続に関する規則(1〜4条)にも処理の期限の定めは見当たりません。結果を待つ間も告訴期間や公訴時効は進むので、告訴そのものの手続は別に考えます。
告訴を受理しなかった警察を相手に、損害賠償を請求できますか。
認められる見込みは低いと考えられます。最高裁平成2年2月20日判決は、被害者や告訴人が捜査から受ける利益は法律上保護された利益ではないとして、捜査の不適正や不起訴処分の違法を理由とする国家賠償請求を認めませんでした。不受理そのものを理由とする請求について最高裁が判断した公開の判例は、調べた範囲では確認できていません。訴訟の代理は弁護士の業務です。
告訴が受理されていなくても、検察審査会に申し立てられますか。
検察審査会が審査するのは「検察官の公訴を提起しない処分の当否」です(検察審査会法2条1項1号)。警察で受理されず、検察官の不起訴処分がまだない段階では、審査の対象となる処分がありません。申立てができる人や手続は「不起訴になったら:検察審査会と付審判」のページで説明しています。
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本ページは一般的な情報提供です。告訴・告発が受理されるか、どの罪が成立するか、起訴されるかは、事実関係と証拠をもとに警察・検察が判断することで、このページの説明で結論が決まるものではありません。条文は e-Gov法令検索(法令API)で2026年10月24日時点のものを、統計は政府統計の総合窓口(e-Stat)ほか各府省の公表資料を確認しています。参考: e-Gov法令検索 / e-Stat / 警察庁 / 検察庁 / 裁判所 / 法務省