ネット中傷:発信者情報の開示と告訴の順序

匿名の書き込みに対して、投稿者の特定(発信者情報の開示)と告訴(被害者が捜査機関に犯罪を申告して処罰を求めること)をどう組み合わせるかを、条文と官公庁の資料から整理します。

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このページの要点

  • 告訴は投稿者が分からなくてもできます。刑訴法241条は相手の氏名を条件にしておらず、被告訴人を「氏名不詳」として、アカウント名やURLで絞り込む形がとれます。
  • 発信者情報の開示は、賠償の請求などのための民事の手続です。権利侵害の明白性が条件で、裁判所での手続の代理や交渉は弁護士の業務の領域です。
  • 事業者にログの保存義務はないと総務省は説明しています。開示を考えるなら早めの着手が必要で、手続の中に消去禁止命令・提供命令があります。
  • 告訴と開示の順序に決まりはなく、処罰か賠償か、どの期限が先かで考えます。どの道でも最初に、URL・日時・書き込み者を印字して記録します。

結論:投稿者が分からなくても告訴はでき、発信者情報の開示は別の民事の手続です

結論

  • 告訴(被害者などが捜査機関に犯罪の事実を申告し、処罰を求める意思を示すこと)は、投稿者の氏名が分からないままでも書面で行えます。刑事訴訟法(以下「刑訴法」)241条は、告訴の方式として書面か口頭かと提出先を定めるだけで、相手の氏名を書くことを条文上の条件にしていません。
  • 発信者情報の開示は、情報流通プラットフォーム対処法に基づき、被害者が事業者や裁判所に求める民事の手続です。犯人の処罰を求める告訴とは目的も相手も違い、裁判所での手続の代理や事業者・投稿者との交渉は弁護士の業務の領域です。
  • 事業者には通信の記録(ログ)を保存する法律上の義務がないと総務省の解説は説明しており、開示を考えるなら時間が問題になります。告訴を先にするか開示を先にするかに一つの正解はなく、どちらの場合も最初にするのは画面の記録です。
  • 名誉毀損・侮辱は親告罪で、告訴は犯人を知った日から6か月以内です。匿名の投稿でいつが「犯人を知った日」になるかは判例で扱いが分かれる論点です。

ネット上で中傷されたとき、被害者がとれる道は、犯人の処罰を求める刑事の道(告訴)、書き込みを消してもらう道(削除の依頼)、投稿者を特定して損害賠償を求める民事の道(発信者情報の開示と賠償の請求)に分かれ、使う法律も窓口も別々です。

このページは「先に投稿者を特定するのか、先に告訴するのか」という疑問を中心に、条文と官公庁の資料から整理します。どの書き込みが名誉毀損や侮辱に当たるかという要件そのものは、名誉毀損・侮辱罪で告訴するにはのページで扱っています。

刑事(告訴)と民事(開示・削除・賠償)は目的も手続も別です

告訴する側を告訴人、処罰を求める相手方を被告訴人(捜査段階の呼び方は被疑者)といいます。告訴状は、警察(法律上の名前は司法警察員)か検察官に出します。相手を調べるのは捜査機関で、起訴されれば刑罰(罰金や拘禁刑など)が科されますが、被害者にお金が支払われる仕組みではありません。

民事の道では、被害者自身が請求する側に立ちます。民法709条・710条は、故意または過失によって他人の権利を侵害した者に、慰謝料を含めて賠償する責任を負わせています。名誉を傷つけられた場合には、裁判所が名誉を回復するための処分を命じることもできます(民法723条)。相手の氏名や住所が分からなければ請求できないため、その前提として発信者情報の開示の手続があります。

期限も別々に進みます。刑事では、名誉毀損罪・侮辱罪は親告罪(検察官が起訴するのに告訴が必要な罪。刑法232条1項)で、告訴期間(犯人を知った日から6か月。刑訴法235条)と公訴時効(起訴できる期間。どちらの罪も3年)があります。民事の損害賠償の請求権は、損害と加害者を知った時から3年、不法行為の時から20年で時効により消滅します(民法724条)。

ネット上の中傷に対する刑事と民事の比較(条文と官公庁の資料から)

項目刑事(告訴)民事(開示・削除・賠償)
目的犯人の処罰被害の回復(賠償・名誉回復)、書き込みの削除、投稿者の特定
主な根拠刑法230条(名誉毀損)・231条(侮辱)、刑訴法241条(告訴の方式)民法709条・710条・723条、情報流通プラットフォーム対処法5条・8条
誰に求めるか警察(司法警察員)または検察官サイトの運営者・通信事業者、裁判所
相手を調べるのは捜査機関被害者の側(開示の請求・申立て)
期限告訴期間:犯人を知った日から6か月(親告罪)/公訴時効:3年損害と加害者を知った時から3年、不法行為の時から20年(民法724条)
かかる費用告訴に手数料はかからない開示命令などの申立てに1件1,000円の手数料(東京地裁民事第9部の案内)のほか、手続の費用
結果起訴・不起訴、刑罰開示、削除、賠償の判決・和解
担い手告訴状は本人が書いて出せる。警察宛ての告訴状の作成は行政書士法1条の3の書類作成に当たるというのが条文の読み裁判所での手続の代理や相手との交渉は弁護士の業務(弁護士法72条)

刑事と民事は並行して使えます。費用の欄の1,000円は、東京地方裁判所民事第9部の「発信者情報開示命令事件」のページが、開示命令・提供命令・消去禁止命令の申立てごとに必要と案内している手数料です(収入印紙)。

SNSや動画での攻撃的な発言は、内容によっては名誉毀損だけでなく脅迫として検討されることもあります。次の高裁判決は、その一例です。

東京高裁 令和4年10月24日判決

令和4年(う)第276号裁判所サイトの詳細ページと判決文PDF(OCR)の第1・第2の範囲で確認

事案
ある人に対し、ショートメールや動画投稿で、本人や親族に危害を加えるような攻撃的な言葉を繰り返し告げた行為などが、脅迫などの罪に問われた事件です(控訴棄却)。
判断の要点
原判決は、攻撃的な表現が怒気を含んだ口調で執拗に繰り返され、本人と父母の身体・自由・名誉が害される恐怖を感じさせる内容だとして脅迫を認め、控訴審もこれを維持しました。

確認した場所:裁判所 裁判例検索

脅迫罪は親告罪ではなく、告訴期間の制限もありません。害を加えると告げる書き込みやメッセージを受けている場合は、脅迫・恐喝・ストーカーの告訴のページで扱っています。

投稿者が分からなくても告訴はできる(氏名不詳の告訴)

告訴の方式を定めた刑訴法241条は、次のとおり、書面か口頭で、検察官か司法警察員に告訴をすることを求めています。

刑事訴訟法 第二百四十一条

告訴又は告発は、書面又は口頭で検察官又は司法警察員にこれをしなければならない。

2 検察官又は司法警察員は、口頭による告訴又は告発を受けたときは調書を作らなければならない。

要旨告訴は書面でも口頭でもでき、提出先は検察官か警察(司法警察員)です。口頭で告訴を受けたときは、受けた側が調書を作ります。

この条文には、被告訴人の氏名や住所を書かなければならないという定めはありません。告訴で特定するのは「どのような犯罪の事実があったか」であり、犯人が誰かを調べるのは捜査機関の仕事です。そのため、告訴状では被告訴人を「氏名不詳」とし、アカウント名・表示名・投稿のURLなど、相手を絞り込める情報を書いておく形がとられます。告訴状の具体的な構成や、氏名不詳とするときの書き方は、告訴状の書き方と相手不明の場合の告訴のページで説明しています。

実際の捜査でも、被害者が先に投稿者を特定していることは前提になっていません。法務省の「侮辱罪の施行状況に関する刑事検討会」に警察庁の委員が提出した資料では、インターネットを利用した侮辱罪の検挙295件(2022年7月7日以降に発生し、2025年6月30日までに検挙した事件の調査)のうち、被害者が事前に被疑者を特定する手続をとっていたのは46件(16%)で、とっていなかったのが249件(84%)でした。同じ検討会の第1回議事録で、警察庁の委員は、警察から被害者側に民事訴訟や投稿者の特定の手続をとるよう求めることがないようにしていると説明しています。

確認できていないこと

警察庁の委員が議事録で触れた通達(2022年6月に発出したと説明)の本文は、調べた範囲では確認できていません。

一方、検討会の取りまとめ報告書には、プロバイダが警察の照会に回答しない場合があり、そのときは被害者が自費で開示命令の申立てなどをしなければならなくなるという意見と、これに対し、照会だけでなく差押えなどで捜査機関が通信記録を入手することもできるという意見が記されています。氏名不詳のまま告訴できることと、捜査で相手がすぐに分かることは別の問題です。

発信者情報開示の仕組み:情報流通プラットフォーム対処法

投稿者の特定の根拠は「特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律」(以下「情報流通プラットフォーム対処法」)です。総務省のページによると、旧プロバイダ責任制限法が令和6年法律第25号で改正され、2025年4月の施行と同時に今の名称になりました。

開示の請求ができる場面は、5条1項が定めています。

特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律 第五条第一項(一部)

特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者は、当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者に対し、当該特定電気通信役務提供者が保有する当該権利の侵害に係る発信者情報のうち、(略)それぞれその開示を請求することができる。

 一 当該開示の請求に係る侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき。

 二 当該発信者情報が当該開示の請求をする者の損害賠償請求権の行使のために必要である場合その他当該発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるとき。

 三 (略)

要旨権利を侵害されたとする人は、事業者に投稿者を特定するための情報の開示を求められます。権利侵害が明らかであること(1号)と、賠償請求に必要であるなど正当な理由(2号)が条件で、ログイン時の記録など一部の情報には3号の追加の条件があります。

開示の条件は「権利が侵害されたことが明らか」であることです。中傷の書き込みであれば何でも開示されるわけではなく、名誉の侵害などが明らかといえるかが問われます。5条2項は、ログイン・ログアウトなどの際の通信(侵害関連通信)を担った別の事業者に対しても開示を求められるとしています。

事業者が任意に応じない場合などには、裁判所に申し立てる手続があります。

特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律 第八条(発信者情報開示命令)

裁判所は、特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者の申立てにより、決定で、当該権利の侵害に係る開示関係役務提供者に対し、第五条第一項又は第二項の規定による請求に基づく発信者情報の開示を命ずることができる。

要旨権利を侵害されたとする人の申立てを受けて、裁判所が決定で事業者に開示を命じる手続です。

開示命令の決定に不服がある当事者は、告知を受けた日から1か月以内に異議の訴えを起こすことができ、期間内に起こされなければ決定は確定判決と同じ効力を持ちます(14条1項・5項)。東京地方裁判所民事第9部のページは、この手続では投稿の削除は求められず、削除は別の申立てによると案内しています。

開示を受けた人にも義務があります。7条は、開示された情報をみだりに用いて、投稿者の名誉や生活の平穏を不当に害する行為をしてはならないと定めています。

これらは裁判所での手続で、申立てや異議の訴えの代理、事業者・投稿者との交渉は弁護士の業務の領域です(弁護士法72条は、弁護士でない者が報酬を得る目的で法律事件の代理などを業とすることを禁じています)。総務省の案内は開示請求について最終的には弁護士への相談を、法務省の手引きも弁護士への相談を案内しています。行政書士が扱えるのは、警察に出す告訴状の作成の側です。その範囲は行政書士に頼めること・頼めないこと・費用のページで整理しています。

ログは消える:消去禁止命令と提供命令

開示の手続で求めるのは、事業者が「現に保有している」情報です。総務省の逐条解説(令和5年3月)は、開示請求権は事業者に発信者情報の保存を義務づけるものではなく、事業者にはログなどの通信履歴の保存義務はなく、むしろ個人情報保護の観点から不要なログは遅滞なく削除する責務を負っていると説明しています。手続に時間がかかっている間にログが消えれば、開示が認められても投稿者にたどり着けません。

同じ逐条解説は、接続認証のログについて一般に6か月程度の保存は認められるとする一方、記録の目的を達したら速やかに消去しなければならないこと、一般的な経由プロバイダのアクセスログの保存期間は比較的短期間であることにも触れています。総務省の「プロバイダ責任制限法Q&A」も、時間が経つほど特定が難しくなるとして早めの相談を勧めています。

この問題に対応するため、法律は開示命令の手続の中に二つの命令を置いています。

特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律 第十六条第一項(消去禁止命令)

本案の発信者情報開示命令事件が係属する裁判所は、発信者情報開示命令の申立てに係る侵害情報の発信者を特定することができなくなることを防止するため必要があると認めるときは、当該発信者情報開示命令の申立てをした者の申立てにより、決定で、当該発信者情報開示命令の申立ての相手方である開示関係役務提供者に対し、当該発信者情報開示命令事件(略)が終了するまでの間、当該開示関係役務提供者が保有する発信者情報(当該発信者情報開示命令の申立てに係るものに限る。)を消去してはならない旨を命ずることができる。

要旨開示命令の手続が続いている裁判所は、投稿者を特定できなくなるのを防ぐ必要があるとき、申立てにより、事件が終わるまで事業者に発信者情報を消さないよう命じることができます。

もう一つが提供命令(15条)です。SNSの運営者が持つ投稿時の通信の記録から、通信を中継した接続事業者(経由プロバイダ)の名称・住所を申立人に知らせることなどを運営者に命じ、二つの事業者への手続をつなげる仕組みです。どちらの命令も開示命令の申立てが係属していることが前提です。

開示を考えるかどうかは、告訴期間とは別の時計で急ぐ必要があります。検討会の取りまとめ報告書にも、申立てをしても通信記録が残っておらず空振りになる場合があるとして、保存期間を長くすべきだという意見が記載されています。

確認できていないこと

個々の事業者(SNS運営者・接続事業者)がログを実際に何か月保存しているかは、各社の公開資料を含め、調べた範囲では確認できていません。上の「6か月程度」は、総務省の逐条解説がガイドラインの解説として紹介する許容の目安で、各社の保存期間を示すものではありません。

削除は開示とは別の手続:大規模プラットフォームの通知義務

書き込みを消してほしいという希望は、開示とも告訴とも別の手続で扱われます。総務省の「プロバイダ責任制限法Q&A」(旧名称のときのもの)は、この法律は情報の削除を求める権利を定めたものではなく、削除を義務づける法律でもないと説明しています。削除は、まず各サイトの削除依頼の窓口(フォームや管理者への連絡)を使い、それで解決しない場合に、法務局への相談や、裁判所での手続(仮処分など)が検討されます。

2025年4月に施行された改正(令和6年法律第25号)では、利用者の多い大規模なプラットフォーム事業者に、削除の申出への対応を速く、透明にする義務が課されました。総務省のページによると、2025年4月に5社、同年5月にさらに4社が指定されています。指定された事業者は、被害者からの削除の申出を調べて判断し、申出を受けた日から14日以内で総務省令が定める期間内に、削除した旨か、削除しなかった旨とその理由を通知しなければなりません(25条1項。例外はただし書と2項)。

同法の施行規則16条は、この期間を7日と定めています。削除されると画面を後から示しにくくなります。削除を依頼する前に、次の章のとおり記録を残しておくことが前提です。

確認できていないこと

令和8年法律第58号による情報流通プラットフォーム対処法の改正について、e-Govの改正履歴には2027年3月1日施行の版が未施行として登録されています。内容は選挙に関するインターネット上の情報への対応の改正と一体のものと記述する資料がありますが、二次情報で、名誉毀損などの一般の開示・削除の手続に変更があるかどうかは、このページでは確認できていません。

告訴と開示はどちらが先か:順序の考え方

法律上、告訴と開示のどちらかを先に済ませなければならないという決まりはありません。考えるときの軸は、①何を求めたいか(処罰か、賠償か、削除か)、②どの期限が先に問題になるか、の二つです。

処罰を求めるだけなら、開示を経ずに氏名不詳で告訴し、相手の特定を捜査に委ねる道があります。賠償も求めたいなら、相手の氏名・住所が必要になるため開示の手続が欠かせず、ログが消える前に始める必要があります。開示で氏名が分かってから告訴すれば、告訴状に被告訴人を具体的に書けますが、その間にも告訴期間の問題が残ります。

名誉毀損・侮辱の告訴期間は「犯人を知った日」から数えます。匿名の投稿者について、開示で氏名が分かった日がこの日に当たるのかを直接判断した判例は、調べた範囲では確認できていません。書き込みが閲覧できる間は犯罪が終わっておらず告訴期間は進まないとした高裁判決(大阪高裁平成16年4月22日判決)もありますが、終わりの時点は事案ごとの認定です。起算点は判例で扱いが分かれる論点なので、数え方は告訴期間6か月と親告罪の一覧のページで確かめ、期限の解釈に頼らず早めに動くことが安全です。

告訴と開示の順序を考えるための問い

  1. 書き込みの画面を、URL・日時が分かる形で記録しましたか

    はい次の問いへ進みます。

    いいえ削除の依頼や告訴より前に、まず記録を残します(警察庁のページの案内。次の章)。

  2. 投稿者が誰かを、少なくとも特定し得る程度に分かっていますか

    はい名誉毀損・侮辱では、その頃から告訴期間(6か月)が問題になりえます。数え方は告訴期間のページへ。

    いいえ被告訴人を氏名不詳として告訴する道があります(刑訴法241条は相手の氏名を条件にしていません)。

  3. 処罰だけでなく、損害賠償も求めたいですか

    はい相手の氏名・住所が必要になるため、開示の手続(民事。代理は弁護士の業務の領域)が前提になり、ログの保存期間との関係で早めの着手が必要です。

    いいえ開示を経ずに告訴し、相手の特定を捜査に委ねることも考えられます。

  4. 書き込みに、本人や家族に害を加えるという内容が含まれていますか

    はい脅迫罪(非親告罪)として検討する余地があります。脅迫のページへ。

    いいえ名誉毀損・侮辱の要件を確かめます。名誉毀損・侮辱のページへ。

判断の枠組みを示したもので、個々の事件で何罪に当たるか、捜査で相手が特定できるかは捜査機関が判断します。

どの道を選ぶ場合でも、書き込みの内容が真実かどうかは後で争点になりえます。ネット上の個人の投稿でも、投稿者が真実と信じたことに確実な資料・根拠に照らした相当の理由がなければ名誉毀損罪の成立は否定されないとした最高裁の決定(最高裁第一小法廷 平成22年3月15日決定)があり、詳しくは名誉毀損・侮辱罪で告訴するにはのページで扱っています。

ネット上の証拠の残し方:URL・日時・書き込み者を印字して記録する

ネット上の書き込みは、投稿者自身や運営者の判断でいつでも消えたり編集されたりします。告訴でも、削除の依頼でも、開示の請求でも、出発点になるのは「何が、どこに、いつ書かれていたか」を示す記録です。警察庁のページ「インターネット上の誹謗中傷等への対応」は、自分を中傷する内容が掲載されているのを把握したときの対応として、次のように案内しています。

警察庁の案内(要旨)

掲載されたサイトやSNSのページを印字し、サイトの名称、URL、書き込み者、書き込み日時、内容などを記録する。警察署に相談するときは、表示画面を印字し、これらを記録して持参する。事前に電話で担当者と日時を調整すると、相談の対応がスムーズに進む。

記録しておく項目(警察庁・法務省の資料に書かれているもの)

項目具体的に残すもの資料
サイトの名称SNS・掲示板・動画サイトなどの名前警察庁
URL個々の投稿のURL。掲示板ではレス番号も警察庁、法務省の手引き
書き込み者アカウント名・ID・表示名警察庁
書き込み日時投稿の日時警察庁
内容問題の投稿の全文。動画では問題の場面の開始・終了時間警察庁、法務省の手引き
自分を指していることの根拠プロフィール画面や前後の投稿など、書き込みが自分のことだと分かる部分法務省の手引き

「法務省の手引き」は、法務省人権擁護局「インターネット上の誹謗中傷 書き込み削除依頼の手引き」(令和7年度法務省委託)の各社向けの手順の記載です。

印字した紙とあわせて、保存した画像やデータそのものも残しておくと、後で同じ画面を示すときの裏づけになります。法務省の手引きは、削除の依頼文には自分の氏名などの個人情報を書かないよう注意しています。依頼の内容がサイト上で公開される場合があるためです。

公的な証明力の高い記録として、公証人が自ら見聞きした事実を書面にする「事実実験公正証書」という制度があります(日本公証人連合会)。手数料は公証人手数料令26条により、事実の実験などに要した時間1時間までごとに1万3,000円です。

証拠全般の役割と整理のしかた、告訴状と一緒に出す証拠の目録の考え方は、証拠の整理と提出先・郵送・オンライン提出のページで扱っています。

確認できていないこと

事実実験公正証書でネット上の画面やSNSの投稿を扱えるか、公証役場ごとの取扱いは、日本公証人連合会のページに例の記載がなく、確認できていません。画面の録画、ハッシュ値の記録、いわゆるウェブ魚拓について、警察庁・法務省・総務省などの公的機関の公開ページで方法を説明した記載も、調べた範囲では確認できていません。

公的な窓口:警察・総務省・法務省の案内

警察庁のページは、警察への通報・相談の前に、官民の相談機関の利用も検討するよう案内しています。次の図は、各窓口が何をするところかを、公式ページの記載に沿って並べたものです(いずれも確認日2026年10月24日)。

目的別の窓口(公式ページの記載から)

  1. 最寄りの警察署(相手の処罰を望むとき)

    告訴・相談の窓口。表示画面を印字して、サイト名・URL・書き込み者・日時・内容を記録して持参するよう案内されています。

    警察庁「インターネット上の誹謗中傷等への対応」

  2. 違法・有害情報相談センター(総務省の委託事業)

    削除依頼の方法などの相談に応じます。手続が分からない場合の相談先として総務省が案内しています。センター自身は、本人に代わって削除請求をするのではなく、本人の請求を支援する機関と説明しています。

    総務省「インターネット上の違法・有害情報に関してお困りの方へ」、法務省の検討会第2回配布資料(センターの資料)

  3. 法務局(インターネット人権相談受付窓口)

    削除依頼の方法の助言や、人権擁護機関が違法性を判断したうえでの事業者への削除の要請を行います。

    法務省「インターネット人権相談受付窓口」、同「令和7年における『人権侵犯事件』の状況について(概要)」資料1

  4. 誹謗中傷ホットライン(一般社団法人セーファーインターネット協会)

    国内外の事業者に、利用規約に沿った削除などの対応を促す通知をします。相談対応は行っていないとされています。

    警察庁のページの案内

  5. 弁護士

    発信者情報の開示請求・開示命令の申立て、削除の仮処分、損害賠償の請求など、裁判所での手続や相手との交渉を扱います。

    弁護士法72条

窓口の名称と役割は公式ページの記載によります。受付方法や受付時間は各ページで確かめてください。このページには電話番号を載せていません。

法務省の公表資料では、2025年のインターネット上の人権侵害情報に関する人権侵犯事件の新規の救済手続の開始は1,569件で、2024年の1,707件から138件減っています。この件数は事業者への削除要請の件数を単位に数えたもので、書き込みの数ではないと資料に注記されています。

統計でみるネット中傷:開示命令の申立てと警察の検挙

2022年10月1日に始まった発信者情報開示命令の手続は、件数が年々増えています。法務省の検討会(第5回)で、事務当局が最高裁判所事務総局の数字として報告したものが次の表です。

統計発信者情報開示命令の申立件数と発令数(2022年10月〜2024年)

期間申立件数発令数
2022年10〜12月58179
2023年3,9591,379
2024年6,7792,789

出典:侮辱罪の施行状況に関する刑事検討会 第5回議事録(事務当局の報告。最高裁判所事務総局による数値)(法務省)

2023年から2024年の申立件数の伸び:6,779÷3,959=約1.71倍。これは民事の手続の件数で、刑事告訴の件数ではありません。発令数は各年に出された命令の数で、その年の申立てに対する割合(認容率)は資料に示されていないため、計算していません。2025年の件数は資料にありません。

刑事の側では、警察庁の「令和7年の犯罪情勢」(令和8年2月)が、2025年中にインターネット上での名誉毀損罪・侮辱罪で555件を検挙し、前年比14.0%増加したと記載しています。相談の側では、法務省の検討会(第2回)の配布資料に、違法・有害情報相談センターの2024年度の相談件数が前年度に続いて6,000件を超え、高止まりの傾向が続いているという記載があります。

開示命令・検挙・相談は数え方が違う数字で、互いに比べたり、告訴の件数に読み替えたりはできません。警察経由の名誉毀損の告訴の人員の推移(検察統計)は、名誉毀損・侮辱罪で告訴するにはのページに載せています。

まとめ

  • 告訴は処罰を求める刑事の手続、発信者情報の開示・削除・賠償は民事の手続で、目的・相手・期限が違います。両方を並行して使うこともできます。
  • 刑訴法241条は相手の氏名を告訴の条件にしておらず、投稿者が分からなくても氏名不詳として告訴できます。警察庁の資料では、ネットの侮辱罪の検挙295件のうち249件は、被害者が事前に特定の手続をとっていない事件でした。
  • 開示の請求には権利侵害の明白性などの条件があり(情報流通プラットフォーム対処法5条)、裁判所での手続(8条・15条・16条)の代理は弁護士の業務の領域です。事業者にログの保存義務はないとされ、時間が経つほど特定は難しくなります。
  • 告訴と開示の順序に決まりはありません。処罰か賠償か、どの期限が先に来るかで考えます。匿名の投稿の告訴期間の起算点は判例で扱いが分かれるため、早めに動くことが安全です。
  • どの道でも最初にするのは、サイト名・URL・書き込み者・日時・内容を印字して記録することです(警察庁の案内)。

このページの出典

  1. 法令特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律 第5条・第7条・第8条・第14条・第15条・第16条・第25条(e-Gov法令検索)確認日 2026-10-24
  2. 法令同法の改正履歴 令和6年法律第25号(2025年4月1日施行)・令和8年法律第58号(e-Gov)確認日 2026-10-24
  3. 法令特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律施行規則 第16条(e-Gov)確認日 2026-10-24
  4. 法令刑事訴訟法 第235条・第241条(e-Gov法令検索)確認日 2026-10-24
  5. 法令刑法 第230条・第231条・第232条(e-Gov法令検索)確認日 2026-10-24
  6. 法令民法 第709条・第710条・第723条・第724条(e-Gov法令検索)確認日 2026-10-24
  7. 法令弁護士法 第72条(e-Gov法令検索)確認日 2026-10-24
  8. 法令公証人手数料令 第26条(e-Gov)確認日 2026-10-24
  9. 判例東京高裁 令和4年10月24日判決(令和4年(う)第276号)詳細ページ・判決文確認日 2026-10-24
  10. 判例大阪高裁 平成16年4月22日判決(平成15年(う)第1995号)判示事項・裁判要旨確認日 2026-10-24
  11. 判例最高裁第一小法廷 平成22年3月15日決定(平成21年(あ)第360号、刑集64巻2号1頁)判示事項・裁判要旨確認日 2026-10-24
  12. 官公庁警察庁「インターネット上の誹謗中傷等への対応」掲載された内容の記録、相手方の処罰を望む場合確認日 2026-10-24
  13. 官公庁総務省「インターネット上の違法・有害情報に対する対応(情報流通プラットフォーム対処法)」NEWS欄・制度概要確認日 2026-10-24
  14. 官公庁総務省「インターネット上の違法・有害情報に関してお困りの方へ」削除依頼・違法・有害情報相談センター確認日 2026-10-24
  15. 官公庁総務省「プロバイダ責任制限法Q&A」問2・問4・問6確認日 2026-10-24
  16. 官公庁総務省「プロバイダ責任制限法 逐条解説」(令和5年3月)第5条の解説・提供命令の解説の注確認日 2026-10-24
  17. 官公庁東京地方裁判所 民事第9部「発信者情報開示命令事件」申立手数料・削除の可否確認日 2026-10-24
  18. 官公庁法務省人権擁護局「インターネット上の誹謗中傷 書き込み削除依頼の手引き」(令和7年度法務省委託)確認日 2026-10-24
  19. 官公庁法務省「インターネット人権相談受付窓口」確認日 2026-10-24
  20. 官公庁法務省「令和7年における『人権侵犯事件』の状況について(概要)」資料1確認日 2026-10-24
  21. 官公庁侮辱罪の施行状況に関する刑事検討会 取りまとめ報告書 第3の3(1)確認日 2026-10-24
  22. 官公庁同検討会 第1回配布資料 警察における取組状況 2(被疑者特定のための手続の有無・調査の対象期間)確認日 2026-10-24
  23. 官公庁同検討会 第1回議事録(警察庁委員の説明)確認日 2026-10-24
  24. 官公庁同検討会 第2回配布資料 違法・有害情報相談センター 相談実績と事例紹介 p.5確認日 2026-10-24
  25. 統計同検討会 第5回議事録(発信者情報開示命令の申立件数・発令数)確認日 2026-10-24
  26. 統計警察庁「令和7年の犯罪情勢」(令和8年2月)サイバー空間の情勢の記述確認日 2026-10-24
  27. その他日本公証人連合会「事実実験公正証書」Q1確認日 2026-10-24

よくあるご質問

相手のアカウント名しか分かりません。警察に告訴状を出せますか。

出せます。刑訴法241条は告訴を書面または口頭で検察官・司法警察員にすることを定めるだけで、相手の氏名を条件にしていないため、被告訴人を「氏名不詳」とし、アカウント名・ID・投稿のURLなど相手を絞り込める情報を書く形がとれます。法務省の検討会に警察庁が出した資料でも、ネットの侮辱罪の検挙295件のうち249件は被害者が事前に特定の手続をとっていない事件でした。書き方は「告訴状の書き方と相手不明の場合の告訴」のページで扱っています。

発信者情報の開示請求も、告訴状と同じように行政書士に頼めますか。

開示の手続は行政書士の業務には含まれず、当事務所も扱っていません。開示命令の申立て(情報流通プラットフォーム対処法8条)は裁判所での手続で、その代理や事業者・投稿者との交渉は弁護士の業務の領域です(弁護士法72条)。行政書士が扱えるのは警察に出す告訴状の作成の側で、範囲は「行政書士に頼めること・頼めないこと・費用」のページで整理しています。

告訴して相手が処罰されれば、慰謝料も受け取れますか。

告訴の結果として慰謝料が支払われる仕組みではありません。刑事の手続は犯人の処罰を求めるもので、損害の賠償は民法709条・710条に基づく民事の請求として別に行います。賠償の請求権は損害と加害者を知った時から3年、不法行為の時から20年で時効により消滅します(民法724条)。

投稿から時間が経っています。投稿者の特定はもうできませんか。

できないとは限りませんが、時間が経つほど難しくなります。総務省の逐条解説は事業者にログの保存義務はないと説明し、同省のQ&Aも早めの相談を勧めています。開示命令の手続では、ログが消えるのを防ぐ消去禁止命令(情報流通プラットフォーム対処法16条)を申し立てる仕組みがあります。告訴は特定ができなくても氏名不詳で行えます。

大手SNSに削除を申し出ましたが、どうなったか分かりません。

指定を受けた大規模な事業者は、申出を受けた日から14日以内で総務省令が定める期間内に、削除したか、しなかった旨とその理由を通知しなければなりません(情報流通プラットフォーム対処法25条1項)。同法の施行規則16条はこの期間を7日と定めています。削除されると画面を後から示しにくくなるため、申出の前にURL・日時入りの記録を残しておくことが前提です。

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本ページは一般的な情報提供です。告訴・告発が受理されるか、どの罪が成立するか、起訴されるかは、事実関係と証拠をもとに警察・検察が判断することで、このページの説明で結論が決まるものではありません。条文は e-Gov法令検索(法令API)で2026年10月24日時点のものを、統計は政府統計の総合窓口(e-Stat)ほか各府省の公表資料を確認しています。参考: e-Gov法令検索 / e-Stat / 警察庁 / 検察庁 / 裁判所 / 法務省

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