詐欺・金銭トラブルの告訴と民事不介入

お金をだまし取られたとき、詐欺罪として告訴(警察や検察官に犯罪を申告して処罰を求めること)をするために確かめる要件、「民事」との線引き、告訴とは別にお金を取り戻す制度を、条文・判例・統計から整理します。

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このページの要点

  • 詐欺罪は欺く行為→誤信→処分行為→財産の移転のつながりが要件です。だまされた人が誤信して財産を処分することが必要です(最高裁昭和45年3月26日判決)。
  • お金を返さないだけでは「欺く行為」が示されず、民事の問題とされやすくなります。交付の時点で偽りの説明があったかを、やりとりの記録で示すことが中心です。
  • 詐欺は非親告罪で公訴時効は7年。民事の損害賠償請求権は知った時から3年です。警察経由の詐欺の告訴の人員は2025年に821人でした(検察統計表37)。
  • 告訴と返金は別の道です。振り込め詐欺救済法の分配金、被害回復給付金(代理は弁護士に限る)、民事の手続を、告訴とは別に考える必要があります。

結論:詐欺罪は「だまして渡させた」ことが要件で、返さないことだけでは足りません

結論

  • 詐欺罪(刑法246条)は、人を欺いて、その人が誤信したまま財物を渡す・財産上の利益を移す、という流れがそろって成り立つ罪です。最高裁は、だまされた人が誤信によって財産を処分する行為が必要だとしています。
  • お金を返さない、約束を守らないという事実だけでは、この流れのうち「欺く行為」が示されていません。警察で「民事」と言われる場面は、この要件をどう示すかの問題として整理できます(個別の事件が詐欺に当たるかは事実関係しだいです)。
  • 詐欺罪は親告罪ではなく、公訴時効は7年です。一方、民事の損害賠償請求権は損害と加害者を知った時から3年で時効にかかります。
  • 告訴は処罰を求める手続で、お金を取り戻す手続ではありません。振り込め詐欺救済法の分配金、被害回復給付金、民事の請求は、告訴とは別に動かす必要があります。

告訴とは、犯罪の被害を受けた人などが、警察(司法警察員)や検察官に犯罪の事実を申し出て、犯人の処罰を求める意思を示すことです。この意思を書面にしたものを告訴状といい、告訴をする人を告訴人、処罰を求められる相手を被告訴人(捜査の段階では被疑者)と呼びます。警察が告訴を正式に受け付けることを受理、受け付けないことを不受理といいます。

警察に相談して「それは民事ですね」と言われた、という形の質問は、Q&Aサイトの質問を要約した二次的な資料にも挙がっているとされています。弁護士ドットコムの相談検索では「告訴状 詐欺」を含む相談が1,015件表示されました(2026年10月24日確認。他の語との重複を含む件数)。

このページでは、被害を受けた側の目線で、詐欺罪の要件を判例で確かめ、「民事」との線引きの考え方、告訴状で示す事実、手口別の統計、告訴の人員の推移、時効、そしてお金を取り戻すための制度を順に整理します。

詐欺罪の条文と要件:欺く→誤信→処分→財産の移転

詐欺罪の条文は短く、「人を欺いて財物を交付させた」と定めるだけです。1項はお金や物(財物)を渡させる場合、2項は債務を免れる、サービスを受けるなど、物以外の財産上の利益を得る場合です。法定刑はどちらも10年以下の拘禁刑で、罰金刑の定めはありません。未遂も処罰されます(刑法250条)。

条文の「欺いて…交付させた」という書き方と判例から、要件は次のように分けて考えられます。①人を欺く行為(欺罔行為)、②相手がそれを信じて事実を誤認すること(錯誤)、③誤認したまま財産を渡す・処分すること(処分行為・交付)、④財物や利益が相手方に移ること、⑤①から④が原因と結果の関係でつながっていること(因果関係)、そして⑥これらを分かったうえで行う故意です。

③の処分行為が必要なことは、次の章の最高裁昭和45年3月26日判決が示しています。①から④の順番があることが、後で説明する「民事」との線引きの出発点になります。

刑法 第二百四十六条(詐欺)

人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の拘禁刑に処する。

2 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。

要旨人をだましてお金や物を渡させると10年以下の拘禁刑です。物ではなく、支払を免れるなどの財産上の利益を得た場合(自分が得た場合も、他人に得させた場合も)も同じ扱いです。

詐欺罪の要件に沿って事実を並べるための確認

  1. 相手は、お金を渡すかどうかの判断の前提になる事柄について、事実と違うことを述べましたか(確認されたのに偽った場合を含む)。

    はいその発言の日時・手段・内容が、告訴状の犯罪事実の中心になります。

    いいえ約束どおりに払わない・返さないという事実だけでは「欺く行為」が示されていません。次の章の判例と、「民事」と言われる理由の章を確かめてください。

  2. その話を信じたから、お金を振り込んだ・渡した(または支払を免除した)と言えますか。

    はい信じた理由と、渡した日時・金額・方法(振込先など)を結びつけて書きます。

    いいえ話を信じずに渡した場合や渡す前に気づいた場合は、未遂(刑法250条)が問題になりえます。

  3. お金を渡したのは、あなた自身、またはその財産を処分できる立場の人ですか。

    はいお金を渡した人が誰か(あなた自身か)を明記します。

    いいえ最高裁昭和45年3月26日判決のとおり、だまされた人に被害者の財産を処分できる権能・地位があったかが問題になります。

  4. 偽りの説明は、お金を受け取る時点(またはそれより前)にありましたか。

    はい偽りと交付の時間の順序を、やりとりの記録で示します。

    いいえ渡した後に生じた事情(後から返せなくなった等)だけでは、条文の「欺いて…交付させた」という順序に当たるかが問題になります。

この確認は、告訴状に書く事実を要件ごとに整理するためのもので、犯罪が成立するかどうかを判定するものではありません。成否は捜査機関と裁判所が判断します。

判例でみる「欺く行為」と「処分行為」の範囲

詐欺罪の要件のうち、争いになりやすいのは「何が欺く行為に当たるか」と「だまされた人がお金を渡したと言えるか」です。資料で確認できた最高裁の判例を、要件ごとに並べます。どれも裁判所サイトの判示事項・裁判要旨で確認した範囲で、判決文の全文は確認していません。

最高裁第一小法廷 昭和45年3月26日判決

昭和42年(あ)第1235号・刑集24巻3号55頁裁判所サイトの判示事項・裁判要旨で確認

事案
失効した和解調書を使って執行文の付与を受け、家屋を取り戻そうとした、いわゆる訴訟詐欺の事案です。
判断の要点
詐欺罪には、だまされた人が錯誤によって財産的処分行為をすることが必要で、だまされた人と被害者が別人のときは、だまされた人に被害者の財産を処分できる権能または地位が必要だとし、この事案では詐欺罪の成立を否定しました。

確認した場所:裁判所 裁判例検索

最高裁第一小法廷 平成13年7月19日判決

平成10年(あ)第806号・刑集55巻5号371頁裁判所サイトの判示事項・裁判要旨で確認

事案
請負人が、本来受け取る権利のある請負代金を、だます手段を使って早く受け取ったとされた事案です(破棄差戻し)。
判断の要点
代金全額について詐欺罪が成立するには、だます手段を使わなかった場合の支払とは社会通念上別個の支払といえる程度に、支払時期を早めたことが必要だとしました。もともと受け取れるお金でも、受け取り方しだいで詐欺罪が問題になる一方、どこからが詐欺かには基準があることを示しています。

確認した場所:裁判所 裁判例検索

「黙っていた」ことが欺く行為に当たるかについては、同じ日の二つの最高裁判断が対照的です。下のカードの判決では欺く行為に当たらないとされた一方、入会時に暴力団関係者を同伴しないと誓約していた会員が、同伴者の素性を申告せずに利用させた事案では、刑法246条2項の詐欺罪に当たるとされました(最高裁平成26年3月28日決定)。

他人に搭乗させる意図を隠して搭乗券の交付を受けた事案でも、乗客本人であることの確認が厳重に行われていたという事実関係が前提になっています(最高裁平成22年7月29日決定)。どの判断も、相手が何を確認し、何を約束させていたかという個別の事実関係を前提にしています。この点は、被害を受けた側がやりとりの記録を残す意味にもつながります。

最高裁第二小法廷 平成26年3月28日判決

平成25年(あ)第3号・刑集68巻3号582頁裁判所サイトの判示事項・裁判要旨(抜粋)で確認

事案
暴力団関係者の利用を拒んでいるゴルフ場で、暴力団関係者であるビジター客が、そのことを申告せず、氏名等は偽りなく記入して施設利用を申し込んだ事案です。
判断の要点
従業員から暴力団関係者でないことを確認されなかったなどの事実関係の下では、申込者が当然に暴力団関係者でないことまで表しているとは認められず、詐欺罪の「人を欺く行為」に当たらないとしました(反対意見あり)。

確認した場所:裁判所 裁判例検索

最高裁第一小法廷 平成30年3月22日判決

平成29年(あ)第322号・刑集72巻1号82頁裁判所サイトの判示事項・裁判要旨(抜粋)で確認

事案
警察官を装って被害者に現金を交付させる計画の一環として、被害者に嘘を述べた事案です(破棄自判、補足意見あり)。
判断の要点
嘘が現金を交付するかどうかの判断の前提となる重要な事項に関わり、交付の求めに直接つながるなどの事実関係の下では、現金の交付を求める言葉を述べていなくても、その嘘を一連のものとして述べた段階で詐欺罪の実行の着手があるとしました。お金を渡す前でも未遂が問題になりうることを示す判断です。

確認した場所:裁判所 裁判例検索

「民事」と言われる理由:お金を返さない場面との線引き

貸したお金が返ってこない、代金を払ったのに商品やサービスが提供されない、という場面は、民事の側から見れば契約上の義務を果たさない債務不履行の問題です。民事の問題としての支払の請求は、相手方への請求や裁判所の手続で行うものです。刑事の問題になるのは、同じ出来事が詐欺罪の要件に当たる事実を含む場合です。

前の章までの条文と判例から読むと、詐欺罪では、欺く行為が先にあり、それを信じてお金を渡したという順序が必要です。そのため、借りる時点や代金を受け取る時点で、返す意思や提供する意思、またはその前提となる事情について偽りがあったかどうかが、線引きの中心になります。後から事情が変わって払えなくなっただけなら、この順序は示されません。これは条文と判例の構造からの整理で、個別の事件の結論を示すものではありません。

確認できていないこと

借りたお金を返さない場面で、借りた時点の返済意思・返済能力をめぐって詐欺罪の成否を直接判断した最高裁判例は、調べた範囲では原文を確認できていません。このページでは、条文と、上で挙げた処分行為・欺く行為に関する判例の範囲で線引きの考え方を説明しています。

「民事不介入」という言葉は、警察法の条文にはありません。警察法2条は、警察の責務を個人の生命・身体・財産の保護や犯罪の捜査などと定め、その活動は責務の範囲に厳格に限られるとしています。この条文と受理義務の関係は、告訴状が受理されない理由と対処のページで扱っています。警察庁が「民事不介入」を公式に定義した文書は、調べた範囲では確認できていません。

国会では、2014年11月18日の参議院内閣委員会で、国家公安委員会委員長が、闇金融事犯の相談について、民事不介入を口実に対応をおろそかにして刑事上の被害が見過ごされることがあってはならないという趣旨を答弁しています。これは闇金融の分野についての答弁で、詐欺の相談一般の運用を示したものではありませんが、「民事」という言葉が犯罪の見逃しの理由にならないという考え方は示されています。

警察で「民事」と言われたときは、詐欺罪のどの要件に当たる事実が足りないと見られているのかを確かめることが、次の手を考える手がかりになります。

告訴状で示す事実:要件ごとに何を書き、何を添えるか

告訴状には決まった書式はありませんが、犯罪事実を特定して書く必要があります。詐欺の場合、前の章の要件をそのまま柱にすると、何を書けばよいかがはっきりします。書き方の全体は告訴状の書き方と相手不明の場合の告訴のページで扱っています。

下の表は、要件ごとに告訴状で示す事実と、それを裏づける資料の例を並べたものです。資料の例は、要件の文言から何が問題になるかを考えて並べたもので、警察が特定の資料を求めるという公式の基準を示すものではありません。

詐欺の告訴状で要件ごとに示す事実(条文と判例から)

要件告訴状で示す事実裏づけになりうる資料の例
欺く行為誰が、いつ、どの手段で、どんな事実と違う説明をしたか(使い道、返済の原資、肩書き、運用実績など)メッセージ・メールの画面、録音、契約書・借用書、勧誘資料、広告の画面
錯誤その説明を信じたこと、信じた理由当時のやりとりの記録、相談した記録
処分行為・交付いつ、いくらを、どの方法で渡したか(振込先の口座、受け取った人)振込明細、通帳、領収書、送金の記録
因果関係その説明がなければ渡さなかったこと(説明と交付の時間の順序)説明を受けた日と振込日の対照表
故意など交付の時点で偽りを分かっていたことをうかがわせる事情(説明が当初から事実と違っていた等)説明と実際の食い違いを示す資料

相手から確認されたかどうか、事前に誓約していたかどうかという事実関係の下で結論が分かれた判例(最高裁平成26年3月28日の判決・決定)があるため、相手に何を尋ね、何を約束させたかの記録も事実として書いておく意味があります。

同じ相手に何回もお金を渡した場合の書き方には、起訴状の訴因の特定に関する次の判例が参考になります。告訴の特定の基準を定めたものではありませんが、繰り返しの被害を整理するときの考え方として使えます。

最高裁第一小法廷 昭和39年4月23日決定

昭和38年(あ)第2437号・集刑151号71頁裁判所サイトの判示事項・裁判要旨で確認(起訴状の訴因の特定の判断)

事案
8名の被害者に対する詐欺について、被害者ごとに期間・場所・被害の総額等を示した公訴事実の特定が争われた事案です。
判断の要点
同一被害者に対し一定期間繰り返された単一の意思による同種の詐欺は包括して一個の詐欺罪とでき、被害者・期間の始期と終期・場所・被害の総額等が示されていれば、個々の行為の日時・場所等による特定までは要しないとした原審の判断を是認しました。

確認した場所:裁判所 裁判例検索

手口別にみる詐欺:投資・ロマンス・特殊詐欺・ネット決済

警察庁は、電話などで被害者をだます特殊詐欺と、SNSを入り口にしたSNS型投資詐欺・SNS型ロマンス詐欺の件数と被害額を発表しています。令和7年(2025年)の確定値では、両者を合わせた認知件数(警察が事件の発生を把握した件数)は43,000件、被害額は3,257.4億円で、前年からそれぞれ37.5%、63.6%増えています。

特殊詐欺とSNS型投資・ロマンス詐欺の認知件数・被害額(警察庁)

区分令和6年(2024年)令和7年(2025年)
合計(特殊詐欺+SNS型投資・ロマンス詐欺)31,280件/1,990.7億円43,000件/3,257.4億円
特殊詐欺21,043件/718.8億円27,832件/1,423.1億円
SNS型投資・ロマンス詐欺10,237件/1,271.9億円15,168件/1,834.3億円
SNS型投資・ロマンス詐欺の検挙検挙人員129人検挙630件/検挙人員397人

出典:警察庁「令和7年における特殊詐欺及びSNS型投資・ロマンス詐欺の認知・検挙状況等について(確定値)」2頁(全体概況のグラフ。令和6年の値もここに表示)・20頁(令和7年の検挙状況。令和6年の検挙人員129人もグラフに表示)、令和8年版警察白書 図表Ⅰ-8。前年差との整合も確かめています(43,000−11,720=31,280件、3,257.4−1,266.7=1,990.7億円、397−268=129人)。SNS型の検挙件数・検挙人員の計上は令和6年からです。いずれも警察が把握した件数で、告訴の件数ではありません。

詐欺全体では、警察庁の統計で令和7年の認知件数が72,532件、検挙件数が17,448件、詐欺の被害額が4,029.5億円です。

投資の勧誘については、警察庁の令和7年5月7日の通達(警察庁丁生経発第65号)の概要に、生活経済事犯の取組の項目として「利殖勧誘事犯への対応」が挙がっています。公表されているのは項目名だけで、具体的な内容は読めません。

振込先の口座にも詐欺罪が関わります。他人に成り済まして口座を開設し通帳を受け取る行為(最高裁平成14年10月21日決定)や、第三者に譲り渡す意図を隠して自分名義の口座を開設し通帳等を受け取る行為は、刑法246条1項の詐欺罪に当たるとされています。

最高裁第三小法廷 平成19年7月17日決定

平成18年(あ)第2319号・刑集61巻5号521頁裁判所サイトの判示事項・裁判要旨で確認

事案
預金通帳等を第三者に譲り渡す意図であるのに、それを隠して銀行員に自己名義の口座開設等を申し込み、通帳等の交付を受けた事案です。
判断の要点
このような行為は刑法246条1項の詐欺罪に当たるとしました。口座を売る・貸す目的で口座を作ることが、銀行に対する詐欺になりうることを示しています。

確認した場所:裁判所 裁判例検索

ネットバンキングの不正送金のように、人ではなく機械に虚偽の情報を入力して財産上の利益を得る場合は、人を欺く行為がないため、刑法246条の2の電子計算機使用詐欺罪の問題になります。法定刑は詐欺罪と同じ10年以下の拘禁刑です。また、受け子のように後から加わった人についても、だまされたふり作戦が始まったことを知らずに荷物の受け取りに関与した者が、加わる前の欺く行為を含めて詐欺未遂の共同正犯の責任を負うとした判断があります(最高裁平成29年12月11日決定)。

刑法 第二百四十六条の二(電子計算機使用詐欺)

前条に規定するもののほか、人の事務処理に使用する電子計算機に虚偽の情報若しくは不正な指令を与えて財産権の得喪若しくは変更に係る不実の電磁的記録を作り、又は財産権の得喪若しくは変更に係る虚偽の電磁的記録を人の事務処理の用に供して、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者は、十年以下の拘禁刑に処する。

要旨人ではなくコンピュータに虚偽の情報や不正な指令を与え、財産の移動に関する記録を不正に作るなどして利益を得ると、詐欺罪と同じ10年以下の拘禁刑です。

確認できていないこと

架空請求、フリマ・オークションの取引、結婚をほのめかしての送金、リフォームなどの手口別の件数・被害額は、調べた範囲では官公庁の統計の本文で確認できていません。これらの手口も、要件の考え方は上の章と同じです。

統計:警察に詐欺で告訴した事件の人員の推移

警察が受理した告訴の件数は、令和期には定期的に公表されていません。それに代わる手がかりが、検察統計の「司法警察員に告訴」の人員です。これは、警察に告訴があった事件のうち、検察で処理が済んだ被疑者の人数で、警察が受理した件数ではなく、氏名不詳のままの事件も含みません。数字の読み方は検察統計でみる告訴事件の起訴率と期間のページで詳しく扱っています。

統計詐欺(準詐欺・電子計算機使用詐欺を含む)の「司法警察員に告訴」の人員

年人員(参考)総数
2016年6475,500
2017年6335,087
2018年6434,611
2019年6844,338
2020年7874,660
2021年7175,397
2022年7165,277
2023年6975,178
2024年8085,857
2025年8216,891

出典:検察統計(e-Stat)表37「罪名別 既済となった被疑事件の捜査の端緒別人員」の「司法警察員に告訴」列、2016〜2025年

2016年から2025年の増加は821÷647=約1.27倍です。単位は既済となった被疑者の人員です。

警察経由の詐欺の告訴の人員は、10年間おおむね600〜800人台で推移し、2025年は821人でした。検察官に直接告訴したものを加えた告訴の合計では、2025年の詐欺は898人で、告訴の合計8,318人の10.8%を占めます。

一方、警察が把握した詐欺の認知件数は、令和2年の30,468件から令和7年の72,532件へ約2.38倍(72,532÷30,468)になっています。これに対し、詐欺の告訴の合計は2020年910人、2025年898人でほぼ横ばいです。認知は警察の「件数」、告訴は検察の「人員」で単位も対象も違うため直接は比べられず、被害の増え方が告訴の数字に表れていない理由も資料からは分かりません。

検察庁の処理では、令和6年の詐欺(告訴に限らないすべての事件)は起訴7,826人、不起訴7,393人で、起訴率は51.4%でした(令和7年版犯罪白書 資料2-2)。告訴事件に限った詐欺の起訴率は、資料の表からは分かりません。

時効と期限:詐欺は公訴時効7年、不法行為の損害賠償請求は3年

公訴時効とは、犯罪が終わってから一定の期間が過ぎると検察官が起訴できなくなる制度です。詐欺罪・電子計算機使用詐欺罪・準詐欺罪の法定刑の長期は10年なので、刑事訴訟法(以下「刑訴法」)250条2項4号の「長期十五年未満の拘禁刑に当たる罪」に当たり、時効は7年です。時効は犯罪行為が終わった時から進みます(刑訴法253条1項)。罪名ごとの年数や停止の仕組みは公訴時効の早見表のページで扱っています。

親告罪(告訴がなければ起訴できない罪)には、犯人を知った日から6か月という告訴期間があります。詐欺罪は親告罪ではない非親告罪なので、この6か月の期限はかかりません。ただし刑法251条が親族間の特例(244条)を準用するため、配偶者・直系血族・同居の親族の間では刑が免除され、それ以外の親族との間では親告罪になります。詳しくは横領・背任の告訴のページ(255条の準用)と、告訴期間6か月と親告罪の一覧のページで扱っています。

注意したいのは民事の期限です。不法行為による損害賠償請求権は、損害と加害者を知った時から3年、または不法行為の時から20年で時効により消滅します(民法724条)。刑事の7年と比べて短いため、告訴と並行して民事の請求をどうするかは、早めに考えておく必要があります。

お金を取り戻すための制度:振り込め詐欺救済法・被害回復給付金・民事の手続

告訴をして相手が処罰されても、だまし取られたお金が自動的に戻る仕組みはありません。代表的な制度が、振込みに使われた口座の残高から分配する振り込め詐欺救済法(正式名称「犯罪利用預金口座等に係る資金による被害回復分配金の支払等に関する法律」)と、刑事裁判で没収・追徴された財産から支給する被害回復給付金支給法(正式名称「犯罪被害財産等による被害回復給付金の支給に関する法律」)です。

振り込め詐欺救済法の対象は、詐欺に限らず「人の財産を害する罪」で、被害者からの口座への振込みが使われたものです。金融機関は、捜査機関等からの情報提供などから犯罪に使われた口座と疑う相当な理由があるときは、取引の停止等の措置をとり、預金保険機構に債権消滅手続の公告を求めます(同法4条1項)。口座名義人などの権利行使の届出期間は、この公告の翌日から60日以上です(同法5条2項)。預金の債権が消滅した後、分配金の支払手続を始める別の公告があり、被害者の支払申請期間はその公告の翌日から30日以上です(同法11条2項)。申請は振込先の金融機関に対して行い(同法12条1項)、消滅した預金の額が千円未満のときは分配されません(同法8条3項)。現金の手渡しや暗号資産の送金だけで完結した被害は、振込みを要件とする条文の文言からは対象外と読めますが、運用は官公庁の資料で確認していません。

犯罪利用預金口座等に係る資金による被害回復分配金の支払等に関する法律 第二条(第3項)

3 この法律において「振込利用犯罪行為」とは、詐欺その他の人の財産を害する罪の犯罪行為であって、財産を得る方法としてその被害を受けた者からの預金口座等への振込みが利用されたものをいう。

要旨詐欺などの財産犯で、被害者から口座への振込みが使われたものが制度の対象です。

預金保険機構の振り込め詐欺救済法に基づく公告のQ&Aでは、被害にあったらすぐに警察や振込先の金融機関に連絡し、口座の取引の停止を依頼すること、分配される額は振込先口座が凍結された時の残高が上限で、同じ口座に複数の被害者がいれば被害額に応じて按分されること、支払申請期間の後はこの法律による分配金を受けられないことなどが説明されています(2026年10月24日確認。運用の説明で、個別の結果を示すものではありません)。

被害回復給付金は、検察官が支給手続の開始を官報で公告し(同法7条1項)、被害者が申請書に疎明資料を添えて検察官に申請する制度です(同法9条1項)。申請を代理人に頼むときは、法定代理人による場合を除き、弁護士を代理人にしなければならないと定められています(同条3項)。法務省のページは、手続開始の公告や申請書を装った偽の書面に注意するよう呼びかけ、検察庁が申請者に手数料を請求することはないとしています。

犯罪被害財産等による被害回復給付金の支給に関する法律 第九条(第3項)

3 前二項の規定による申請その他この法律に基づく手続を代理人によりしようとする者は、法定代理人により手続をしようとする場合を除き、弁護士(弁護士法人及び弁護士・外国法事務弁護士共同法人を含む。)を代理人としなければならない。

要旨被害回復給付金の申請などを代理人に任せる場合、代理人は弁護士(弁護士法人等を含む)に限られます。親権者などの法定代理人は別です。

お金を取り戻すための主な制度(条文と官公庁ページから)

制度お金の出どころ申請・申立ての先根拠
振り込め詐欺救済法の分配金犯罪に使われた口座に残っていた預金振込先の金融機関同法1条・2条3項・4条・8条・12条
被害回復給付金刑事裁判で没収・追徴された犯罪被害財産検察官(代理人は弁護士に限る)同法1条・3条・7条・9条
民事の請求(不当利得の返還・損害賠償)相手方の財産相手方への請求、裁判所への訴え民法703条・704条・709条
仮差押え(民事保全)相手方の財産を判決前に確保する裁判所民事保全法20条1項
少額訴訟60万円以下の金銭の請求簡易裁判所民事訴訟法368条1項
支払督促金銭等の一定数量の給付の請求裁判所書記官(相手方に公示送達によらず送達できる場合に限る)民事訴訟法382条

被害回復給付金の手続を除き、各手続の代理を誰が担えるかはこのページでは扱っていません。どの請求をどう立てるかは事案ごとの判断になります。

刑事告訴と返金は別の道:並べて考えること

告訴は処罰を求める意思表示で、警察・検察が捜査し、起訴するかどうかを決める手続につながります。返金は、上の章の制度か、相手方との話し合い(示談)や民事の手続によるもので、告訴をしたからといって進むものではありません。逆に、相手から返金を受けたことで、成立した犯罪が消えるわけでもありません。示談や刑事裁判の中での和解との関係は、受理後の流れと取下げ・示談・虚偽告訴の注意のページで扱っています。

知能犯罪の告訴・告発については、警察庁の令和6年1月5日の別の通達(警察庁丁捜二発第2号)の概要が、特別な事情がある場合を除き、最初の相談日から3か月以内に受理・不受理を判断するよう努めるとしています。これは知能犯罪についての努力目標で、対象の範囲は公表された概要からは特定できず、すべての告訴の期限ではありません。県警ごとの違いは県警ごとの告訴取扱要綱のちがいのページで扱っています。

契約や取引の被害の相談先としては、消費者庁の消費者ホットライン「188」があり、近くの市区町村や都道府県の消費生活センター等の窓口を案内しています(相談は無料ですが通話料がかかります。2026年10月24日確認)。警察の相談窓口としては、警察相談専用電話「#9110」の都道府県別の番号一覧が警察庁のページにあり、受付時間は都道府県ごとに確かめる必要があります(2026年10月24日確認)。

まとめ

  • 詐欺罪(刑法246条)は、欺く行為→誤信→処分行為→財産の移転が因果関係でつながることが要件です。だまされた人が誤信によって財産を処分することが必要です(最高裁昭和45年3月26日判決)。
  • お金を返さない・約束を守らないだけでは「欺く行為」が示されません。交付の時点で偽りがあったかが線引きの中心で、借金型の個別判例の原文は確認できていません。
  • 告訴状は要件ごとに事実を並べ、やりとりの記録・振込明細などで裏づけます。何を確認され、何を約束していたかも判断材料になった判例があります。
  • 警察経由の詐欺の告訴の人員は2025年に821人(表37)。令和7年の特殊詐欺とSNS型投資・ロマンス詐欺の認知件数は43,000件、被害額は3,257.4億円です。
  • 公訴時効は7年、民事の損害賠償請求権は知った時から3年。告訴と返金は別の道で、振り込め詐欺救済法、被害回復給付金(代理は弁護士に限る)、民事の手続を別に考えます。

このページの出典

  1. 法令刑法 第246条・第246条の2・第248条・第250条確認日 2026-10-24
  2. 法令刑法 第242条・第244条・第251条・第255条確認日 2026-10-24
  3. 法令刑事訴訟法 第250条・第253条確認日 2026-10-24
  4. 法令警察法 第2条確認日 2026-10-24
  5. 法令民法 第703条・第704条・第709条・第724条確認日 2026-10-24
  6. 法令犯罪利用預金口座等に係る資金による被害回復分配金の支払等に関する法律 第1条・第2条・第4条・第5条・第7条・第8条・第11条・第12条確認日 2026-10-24
  7. 法令犯罪被害財産等による被害回復給付金の支給に関する法律 第1条・第3条・第7条・第9条確認日 2026-10-24
  8. 法令民事保全法 第20条確認日 2026-10-24
  9. 法令民事訴訟法 第368条・第382条確認日 2026-10-24
  10. 判例最高裁第一小法廷 昭和45年3月26日判決(昭和42年(あ)第1235号、刑集24巻3号55頁)判示事項・裁判要旨確認日 2026-10-24
  11. 判例最高裁第一小法廷 平成13年7月19日判決(平成10年(あ)第806号、刑集55巻5号371頁)判示事項・裁判要旨確認日 2026-10-24
  12. 判例最高裁第二小法廷 平成14年10月21日決定(平成13年(あ)第1277号、刑集56巻8号670頁)裁判要旨確認日 2026-10-24
  13. 判例最高裁第三小法廷 平成19年7月17日決定(平成18年(あ)第2319号、刑集61巻5号521頁)裁判要旨確認日 2026-10-24
  14. 判例最高裁第一小法廷 平成22年7月29日決定(平成20年(あ)第720号、刑集64巻5号829頁)裁判要旨確認日 2026-10-24
  15. 判例最高裁第二小法廷 平成26年3月28日判決(平成25年(あ)第3号、刑集68巻3号582頁)裁判要旨確認日 2026-10-24
  16. 判例最高裁第二小法廷 平成26年3月28日決定(平成25年(あ)第725号、刑集68巻3号646頁)判示事項・裁判要旨確認日 2026-10-24
  17. 判例最高裁第三小法廷 平成29年12月11日決定(平成29年(あ)第1079号、刑集71巻10号535頁)裁判要旨確認日 2026-10-24
  18. 判例最高裁第一小法廷 平成30年3月22日判決(平成29年(あ)第322号、刑集72巻1号82頁)裁判要旨確認日 2026-10-24
  19. 判例最高裁第一小法廷 昭和39年4月23日決定(昭和38年(あ)第2437号、集刑151号71頁)裁判要旨確認日 2026-10-24
  20. 統計検察統計(e-Stat)表37 罪名別 既済となった被疑事件の捜査の端緒別人員(2016〜2025年)詐欺・総数の行確認日 2026-10-24
  21. 統計警察庁 令和7年の刑法犯に関する統計資料(図表1-2-5 知能犯、1-4-1 財産犯被害額)確認日 2026-10-24
  22. 統計警察庁 令和7年における特殊詐欺及びSNS型投資・ロマンス詐欺の認知・検挙状況等について(確定値)2頁・20頁確認日 2026-10-24
  23. 統計警察庁 令和8年版警察白書 トピックス 図表Ⅰ-8(特殊詐欺の認知・検挙状況の推移)確認日 2026-10-24
  24. 統計令和7年版犯罪白書 資料2-2 検察庁終局処理人員(罪名別、令和6年)確認日 2026-10-24
  25. 官公庁警察庁 令和6年1月5日 警察庁丁捜二発第2号「知能犯罪に関する告訴・告発の適正かつ合理的な取扱いの推進について」概要確認日 2026-10-24
  26. 官公庁警察庁 令和7年5月7日 警察庁丁生経発第65号「令和7年度の生活経済事犯に係る具体的取組指針の改正について」概要確認日 2026-10-24
  27. 官公庁国会会議録 参議院内閣委員会(2014年11月18日)国家公安委員会委員長の答弁(発言145)確認日 2026-10-24
  28. 官公庁法務省「被害回復給付金支給制度」確認日 2026-10-24
  29. 官公庁預金保険機構「振り込め詐欺救済法に基づく公告」Q&A確認日 2026-10-24
  30. 官公庁消費者庁「消費者ホットライン188」確認日 2026-10-24
  31. 官公庁警察庁 警察相談専用電話「#9110」番号一覧確認日 2026-10-24
  32. その他弁護士ドットコム 相談検索の件数表示(検索語「告訴状 詐欺」)確認日 2026-10-24

よくあるご質問

貸したお金を返してもらえません。詐欺で告訴できますか。

告訴の意思を示すことはできますが、詐欺罪として扱われるかは、お金を渡した時点で相手に偽りの説明があり、それを信じて渡したという事実を示せるかによります。刑法246条は「人を欺いて財物を交付させた」と定め、最高裁昭和45年3月26日判決は、だまされた人が錯誤によって財産を処分することが必要だとしています。返済が滞っていることだけでは欺く行為が示されないため、借りるときに何と説明されたかの記録が重要になります。

警察に「民事ですね」と言われました。もう告訴はできないのでしょうか。

その言葉だけで告訴ができなくなるわけではありません。犯罪捜査規範63条1項は、司法警察員が告訴を受理しなければならないと定めています。言われたときは、詐欺罪のどの要件に当たる事実が足りないと見られているのかを確かめると、書き直すべき点が分かります。窓口の言葉ごとの確かめ方は「告訴状が受理されない理由と対処」のページで扱っています。

告訴をすれば、だまし取られたお金は戻ってきますか。

告訴だけでお金が戻る仕組みはありません。振込みに使われた口座の残高から分配する振り込め詐欺救済法、刑事裁判で没収・追徴された財産から支給する被害回復給付金、相手方への民事の請求(民法703条・709条など)は、告訴とは別の手続です。被害回復給付金の申請を代理人に任せる場合、代理人は弁護士に限られます(同法9条3項)。

詐欺の時効は何年ですか。数年前の被害でも告訴できますか。

詐欺罪の公訴時効は7年で(刑訴法250条2項4号)、犯罪行為が終わった時から進みます(同法253条1項)。親告罪ではないので、6か月の告訴期間はかかりません(配偶者・直系血族・同居の親族以外の親族との間の事件で、刑法251条が準用する244条2項により親告罪になる場合を除く)。民事の損害賠償請求権は、損害と加害者を知った時から3年で時効にかかります(民法724条)。

お金を振り込んだ口座が分かっています。まず何をすればよいですか。

預金保険機構のQ&Aでは、すぐに警察や振込先の金融機関に連絡し、口座の取引の停止を依頼するよう説明されています(2026年10月24日確認)。振り込め詐欺救済法4条1項は、捜査機関等からの情報提供などから犯罪に使われた口座と疑う相当な理由があるとき、金融機関が取引停止等の措置をとると定めています。分配は口座に残っていた額が原資で、申請は支払手続の公告で示される支払申請期間(公告の翌日から30日以上。同法11条2項)内に振込先の金融機関へ行います。同機構のQ&Aでは、期間の後はこの法律による分配金は受けられないとされています。

あわせて読みたいページ

本ページは一般的な情報提供です。告訴・告発が受理されるか、どの罪が成立するか、起訴されるかは、事実関係と証拠をもとに警察・検察が判断することで、このページの説明で結論が決まるものではありません。条文は e-Gov法令検索(法令API)で2026年10月24日時点のものを、統計は政府統計の総合窓口(e-Stat)ほか各府省の公表資料を確認しています。参考: e-Gov法令検索 / e-Stat / 警察庁 / 検察庁 / 裁判所 / 法務省

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