横領・背任の告訴:会社・親族・共有財産

従業員による会社の資金の使い込み、家族による預金の使い込み、共有財産の処分を念頭に、横領・業務上横領・背任の違い、親族の場合の特例、会社が被害者のときの告訴(被害者が捜査機関に犯罪を申告して処罰を求めること)を、条文と最高裁の判例から整理します。

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このページの要点

  • 自分が預かっている他人の物を横領すれば横領罪、仕事として預かった物なら業務上横領罪です。背任罪は任された事務に背いて財産上の損害を与える罪で、物の占有を要件にしません。
  • 「後で返すつもりだった」だけでは横領罪の成立は妨げられません。最高裁昭和24年3月8日判決は、後から埋め合わせる意思があっても成立するとしています。
  • 犯人が親族なら刑法255条・251条で244条が準用され、刑の免除か親告罪になります。家庭裁判所が選任した後見人には244条1項は準用されないとした最高裁決定があります。
  • 公訴時効は横領5年、業務上横領7年、背任5年です。2025年の横領の告訴は424人で、既済人員の5.4%でした。返金の請求は民事として別に考えます。

結論:預かった他人の物を勝手に処分すれば横領、任された事務に背いて損害を与えれば背任です

結論

  • 横領罪(刑法252条)は、自分が預かって管理している(占有している)他人の物を横領する罪です。仕事として預かった物であれば業務上横領罪(刑法253条)になり、法定刑の上限は10年の拘禁刑に上がります。
  • 背任罪(刑法247条)は、他人の事務を任された人が、自分や第三者の利益を図るなどの目的で任務に背き、本人に財産上の損害を与える罪です。物を預かっていることは要件になっていません。
  • 横領・背任はどちらも親告罪(告訴がなければ検察官が起訴できない罪)ではありませんが、犯人が被害者の親族のときは、刑法255条・251条が親族間の特例(刑法244条)を準用します。家庭裁判所が選任した後見人の横領には244条1項が準用されないとした最高裁の決定があります。
  • 公訴時効(犯罪が終わってから一定の期間が過ぎると起訴できなくなる制度)は、横領が5年、業務上横領が7年、背任が5年です(刑事訴訟法(以下「刑訴法」)250条2項)。

告訴とは、犯罪の被害を受けた人などが、警察(司法警察員)や検察官に犯罪の事実を申し出て、犯人の処罰を求める意思を示すことです。告訴をする人を告訴人、処罰を求められる相手を被告訴人(捜査の段階では被疑者)といい、告訴の内容を書面にしたものを告訴状といいます。

このページでは、会社のお金や家族の預金の使い込み、共有財産の処分を念頭に、問題になる罪、親族の場合の扱い、会社が被害者のときの告訴人、時効を、条文・判例・統計から整理します。個別の事件がどの罪に当たるかは、事実関係によって変わります。

告訴と被害届・告発の違いや、告訴できる人の一般的な範囲は、告訴・告発・被害届の違いと告訴できる人のページで扱っています。

横領・業務上横領・遺失物等横領・背任の違い

刑法は、他人の物を自分の物のように扱う罪として、横領(252条)、業務上横領(253条)、遺失物等横領(254条)を定めています。三つに共通するのは「他人の物」を「横領」することで、違いは、犯人がその物をどういう立場で手にしていたかです。背任(247条)は別の章(詐欺及び恐喝の罪)に置かれた罪で、物ではなく「任された事務」に着目します。

横領と業務上横領の差は「業務上」かどうかです。業務上横領には罰金刑がなく、法定刑は10年以下の拘禁刑です。最高裁の判例では、市役所の職員が滞納者から徴収して保管していた税金、農業会の会長が預かっていた供出米、家庭裁判所に選任された後見人が管理していた被後見人の財産が、業務上横領の対象として扱われています(いずれも後の章の判例カードを参照)。

横領の罪と背任の比較(刑法の条文と刑訴法250条2項による)

罪名条文誰が・何を法定刑公訴時効親族の間の扱い
横領刑法252条1項自分が占有する他人の物を横領する5年以下の拘禁刑5年(刑訴法250条2項5号)255条により244条を準用
業務上横領刑法253条業務上自分が占有する他人の物を横領する10年以下の拘禁刑7年(同項4号)255条により244条を準用
遺失物等横領刑法254条遺失物・漂流物など占有を離れた他人の物を横領する1年以下の拘禁刑又は10万円以下の罰金若しくは科料3年(同項6号)255条により244条を準用
背任刑法247条他人のために事務を処理する者が、任務に背いて本人に財産上の損害を加える5年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金5年(同項5号)251条により244条を準用

法定刑は e-Gov の刑法の条文、公訴時効は法定刑の長期を刑訴法250条2項に当てはめた年数(資料集の一覧表 L-151 と一致)。罪数・共犯・改正前の行為など個別の事情は表の対象外です。

刑法 第二百五十二条(横領)

自己の占有する他人の物を横領した者は、五年以下の拘禁刑に処する。

2 自己の物であっても、公務所から保管を命ぜられた場合において、これを横領した者も、前項と同様とする。

要旨自分が預かって管理している他人の物を横領すると、5年以下の拘禁刑です。2項は、自分の物でも役所から保管を命じられた物を横領した場合を同じに扱います。

刑法 第二百五十三条(業務上横領)

業務上自己の占有する他人の物を横領した者は、十年以下の拘禁刑に処する。

要旨仕事として預かっている他人の物を横領すると、10年以下の拘禁刑です。罰金刑の定めはありません。

刑法 第二百四十七条(背任)

他人のためにその事務を処理する者が、自己若しくは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、本人に財産上の損害を加えたときは、五年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。

要旨他人の事務を任された人が、自分や第三者の利益を図る目的か、本人に損害を与える目的で任務に背き、本人に財産上の損害を与えると、5年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金です。目的・任務違背・財産上の損害の三つがそろうことが条文の要件です。

横領罪が成り立つための要素:他人の物・占有・横領行為・不法領得の意思

刑法252条の文言から、横領罪には少なくとも、①その物が他人の物であること、②犯人が自分で占有していること、③それを横領したこと、が必要です。③の「横領」の中身について、最高裁は「不法領得の意思」という考え方で説明しています。

①の「他人の物」には金銭も含まれます。市役所の職員が徴収して保管していた税金の着服が業務上横領とされた判例(後掲の昭和30年判決)がその例です。また、違法な目的で預けられたお金でも、横領罪の対象になりうるとした判例があります。

②の「占有」は、預かる、管理を任されるなどして、犯人がその物を手元で支配していることです。占有が犯人にない物を取れば、横領ではなく窃盗の問題になります(次の章)。

最高裁第三小法廷 昭和24年3月8日判決

昭和23年(れ)第1412号・刑集3巻3号276頁裁判所サイトの判示事項・裁判要旨で確認

事案
農業会が寄託を受けて保管していた供出米を、会長が不法に処分した業務上横領の事件です。
判断の要点
横領罪に必要な不法領得の意思とは、他人の物を占有する人が、委託の任務に背いて、権限がないのに所有者でなければできないような処分をする意思をいうとしました。自分の利益を得るつもりがなくてもよく、処分の時点で後から埋め合わせるつもりがあっても、横領罪の成立は妨げられないとしています。

確認した場所:裁判所 裁判例検索

この判決から、「後で返すつもりだった」「会社のために使った」という説明があっても、それだけで横領罪が成り立たなくなるわけではないことが分かります。ただし、問題になるのは「権限がないのに」所有者でなければできない処分をしたかどうかです。預かった人にどこまでの権限が与えられていたか(使ってよい範囲、立て替えの扱いなど)は、告訴状でも確かめておきたい点です。

最高裁第二小法廷 昭和23年6月5日判決

昭和23年(れ)第89号・刑集2巻7号641頁裁判所サイトの判示事項・裁判要旨で確認

事案
贈賄のための資金として預かったお金を、預かった人が自分のものにした事件です。
判断の要点
民法708条により、不法な原因のために給付した人はその返還を請求できませんが、横領罪の対象は「犯人の占有する他人の物」であればよく、給付した人が民法上返還を請求できる物であることまでは必要ないとしました。

確認した場所:裁判所 裁判例検索

窃盗・詐欺・背任との区別:誰が占有していたか、だまされて渡したか

財産を失った場面では、横領のほかに窃盗(刑法235条)、詐欺(刑法246条)、背任(刑法247条)が問題になることがあります。条文の構造から見た分かれ目は次のとおりです。

窃盗は「他人の財物を窃取」する罪で、他人が占有している物を、その人の意思に反して自分の支配下に移すことです。横領は、すでに自分が占有している物を処分する点で異なります。持ち主が置き忘れた物は、占有を離れた物として遺失物等横領になる場合がありますが、持ち主がまだ近くにいた事実関係のもとで窃盗に当たるとした決定があります。

最高裁第三小法廷 平成16年8月25日決定

平成16年(あ)第882号・刑集58巻6号515頁裁判所サイトの判示事項・裁判要旨で確認

事案
公園のベンチに置き忘れられたポシェットを、被害者がベンチから約27メートル離れた時点で持ち去った事件です。
判断の要点
被害者がベンチから約27メートルしか離れていない場所まで歩いて行った時点で行われたことなど、判示の事実関係のもとでは、この持ち去りは窃盗罪に当たるとしました。事例判断で、置き忘れた物一般の基準を示したものではありません。

確認した場所:裁判所 裁判例検索

詐欺は「人を欺いて財物を交付させ」る罪で、最高裁昭和45年3月26日判決は、だまされた人が錯誤によって何らかの財産的な処分行為をすることが必要だとしています。条文の構造からは、物を渡す段階でだまされていたのか(詐欺の問題)、正当に預けた後で処分されたのか(横領の問題)が、分かれ目の一つになります。詐欺の要件と民事との線引きは詐欺・金銭トラブルの告訴と民事不介入のページ、窃盗は傷害・器物損壊・窃盗の告訴のページで扱っています。

背任は、物の占有を要件にしていません。他人のために事務を処理する立場にある人が、任務に背いて本人に財産上の損害を与えたことが中心です。資料にある背任の最高裁判例は、いずれも銀行の取締役の融資をめぐる特別背任(当時の商法)の事件です。

最高裁第三小法廷 平成21年11月9日決定

平成18年(あ)第2057号・刑集63巻9号1117頁裁判所サイトの判示事項・裁判要旨で確認

事案
銀行の代表取締役頭取が、実質的に倒産状態にある融資先の企業グループに、実質無担保で追加の融資をした事件です(当時の商法の特別背任罪)。
判断の要点
客観性のある再建・整理計画もないまま赤字補てんの資金などを実質無担保で追加融資したことは、判断が著しく合理性を欠き、取締役に求められる債権保全の義務に違反するとして、特別背任罪の任務違背に当たるとしました(補足意見があります)。

確認した場所:裁判所 裁判例検索

最高裁平成20年5月19日決定は、融資先の実質的経営者が、担保価値を水増しした鑑定書を作らせるなどして融資の実現に積極的に加わった場合に、特別背任の共同正犯が成り立つとしています。

確認できていないこと

従業員による会社の資金の使い込みのような場面で、横領と背任のどちらに当たるかの境目を一般的な基準として示した最高裁判例、会社法の特別背任罪の現行条文は、このページの資料では確認できていません。上の区別は、刑法の条文の文言と、資料にある判例の範囲での整理です。

親族が犯人のとき:刑法255条による親族間の特例の準用

刑法244条は、窃盗について親族の間の特例を定めています。この規定を、横領の罪(252条〜254条)には刑法255条が、背任を含む詐欺・恐喝の罪には刑法251条が準用しています。255条の原文は「第二百四十四条の規定は、この章の罪について準用する。」です。

刑法 第二百四十四条(親族間の犯罪に関する特例)

配偶者、直系血族又は同居の親族との間で第二百三十五条の罪、第二百三十五条の二の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯した者は、その刑を免除する。

2 前項に規定する親族以外の親族との間で犯した同項に規定する罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。

3 前二項の規定は、親族でない共犯については、適用しない。

要旨配偶者・直系血族・同居の親族との間なら刑を免除し(1項)、それ以外の親族との間なら告訴がなければ起訴できない(2項)。親族でない共犯にはどちらも適用しません(3項)。横領・背任には255条・251条で準用されます。

1項の「刑を免除する」は、条文上、罪が成り立たないという書き方ではありません。2項の場合は親告罪になり、告訴は犯人を知った日から6か月以内にしなければなりません(刑訴法235条。この期間を告訴期間といいます)。横領・背任のように、本来は親告罪でないのに、親族の間でだけ親告罪になるものを相対的親告罪と呼びます。

「親族」の範囲は民法725条が、6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族と定めています。たとえば親の財産を子が使い込んだ場合、子は親の直系血族なので、同居かどうかにかかわらず1項の対象になります。別居している兄弟姉妹やおじ・おばとの間であれば2項の対象です。

窃盗について、最高裁平成6年7月19日決定は、犯人が所有者以外の人が管理する物を盗んだ場合、244条1項が適用されるには、管理していた人だけでなく所有者との間にも親族関係が必要だとしました。ただし窃盗の事件の決定で、横領で同じ考え方がとられるかを示した判例は、このページの資料では確認できていません。244条そのものの説明は傷害・器物損壊・窃盗の告訴のページ、相対的親告罪と6か月の数え方は告訴期間6か月と親告罪の一覧のページにあります。

犯人が親族のときの整理(刑法244条・255条と最高裁の決定による)

  1. 犯人は、被害者(財産の持ち主)の親族(民法725条:6親等内の血族・配偶者・3親等内の姻族)ですか

    はい次の問いへ進みます。

    いいえ親族間の特例は関係しません。横領・背任は親告罪ではないので、6か月の告訴期間はなく、期限は公訴時効です。

  2. 犯人は、家庭裁判所から選任された成年後見人・未成年後見人として、その財産を管理していましたか

    はい最高裁の決定(平成20年2月18日・平成24年10月9日)は、親族関係があっても244条1項は準用されないとしています(次の章)。

    いいえ次の問いへ進みます。

  3. 犯人は、被害者の配偶者・直系血族・同居の親族ですか

    はい244条1項の準用により、刑が免除される扱いです。

    いいえ244条2項の準用により親告罪となり、犯人を知った日から6か月以内の告訴が必要です(刑訴法235条)。

親族でない共犯には特例が適用されません(244条3項)。2問目の「はい」の場合に244条2項(親告罪)がどう扱われるかを直接示した判例は、このページの資料では確認できていません。

成年後見人・未成年後見人による横領:親族でも特例は準用されません

高齢の親が成年被後見人になり、子が家庭裁判所から成年後見人に選任されて財産を管理している、という場面があります。このとき後見人が親の財産を使い込んだ場合について、最高裁は、親族関係があっても刑法244条1項は準用されないと判断しています。未成年後見人についても同じ判断があります。

最高裁第一小法廷 平成20年2月18日決定

平成19年(あ)第1230号・刑集62巻2号37頁裁判所サイトの判示事項・裁判要旨で確認

事案
家庭裁判所から選任された未成年後見人が、業務上占有していた未成年被後見人の財物を横領した業務上横領の事件です。
判断の要点
未成年後見人と未成年被後見人の間に244条1項の親族関係があっても、後見の事務は公的な性格を持つものであるから、同項は準用されないとしました。

確認した場所:裁判所 裁判例検索

最高裁第二小法廷 平成24年10月9日決定

平成24年(あ)第878号・刑集66巻10号981頁裁判所サイトの判示事項・裁判要旨で確認

事案
家庭裁判所から選任された成年後見人が、業務上占有していた成年被後見人の財物を横領した業務上横領の事件です。
判断の要点
成年後見人と成年被後見人の間に244条1項の親族関係があっても同項は準用されないとし、さらに、その親族関係を刑を決めるうえで有利に酌むべき事情として考慮することも相当でないとしました。

確認した場所:裁判所 裁判例検索

二つの決定は、どちらも「家庭裁判所から選任された」後見人が業務上占有する財物を横領した業務上横領の事件についての判断です。準用しない理由として、平成20年の決定の裁判要旨は後見の事務が公的な性格を持つことを挙げています(平成24年の決定の裁判要旨には理由の記載はありません)。

確認できていないこと

任意後見人、家族信託の受託者、家庭裁判所の選任を受けずに親の財産を管理している子などについて、244条が準用されるかを判断した判例は、このページの資料では確認できていません。また、最高裁判所は「後見人等による不正事例」を公表していますが、その件数・被害額は資料で確認できていません。

会社や共有の財産が被害を受けたとき:告訴人は誰か

従業員が会社の資金を使い込んだ場合、お金の持ち主、つまり被害を受けたのは会社(法人)です。刑訴法230条は告訴できる人を「犯罪により害を被つた者」とだけ定め、人(自然人)に限るとは書いていないので、条文の文言の上では法人が告訴人になることは排除されていないと読めます。ただし、法人の告訴を正面から示した判例や公式の解説は、このページの資料では確認できていません。

横領・背任は、親族間の特例が働く場合を除いて親告罪ではないため、刑訴法235条の6か月の告訴期間はありません。会社について「犯人を知った日」をいつと見るか(代表者が知った日か、担当の従業員が知った日か)という問題は、親告罪でなければ生じず、期限は公訴時効になります。

代理人が告訴する場合、警察は委任状を、被害者以外の告訴権者が告訴する場合は、その資格を証する書面を出させることになっています(犯罪捜査規範66条1項・2項)。会社の告訴の名義や添える書面の考え方は、告訴・告発・被害届の違いと告訴できる人のページで詳しく扱っています。

確認できていないこと

会社が告訴するときに警察が代表者の資格を示す書面として何を求めるか、代表者自身が横領・背任の犯人であるときに誰が会社として告訴の手続をとるかを示した判例・公式の説明は、このページの資料では確認できていません。

複数の人で共有している財産(共同で持つ預金や物など)を、共有者の一人や預かった人が処分した場合については、告訴の効力の範囲を示した最高裁の決定があります。

最高裁第二小法廷 昭和35年12月22日決定

昭和32年(あ)第2717号・刑集14巻14号2204頁裁判所サイトの判示事項・裁判要旨で確認

事案
共有物についての横領の事件で、共有者の一人だけが告訴した場合に、その告訴の効力がどこまで及ぶかが問題になりました。
判断の要点
共有者の一人が共有物に関する犯罪について告訴したときは、その人の持分の多少にかかわらず、被害を受けた共有物全部に関する犯罪の訴追に効力が及ぶとしました。

確認した場所:裁判所 裁判例検索

この決定は共有物についての1件の判断で、法人の財産や、相続によって共同相続人が持つことになった財産などに、そのまま広げられるかは決定の文言からは言えません。

確認できていないこと

亡くなった方の預金を相続人の一人が使い込んだ場合に、被害者を誰と見るか(亡くなる前の本人か、相続後の共同相続人か)、遺産分割との関係をどう考えるかを示した一次資料は、このページの資料では確認できていません。

告訴状に書く事実と、それを示す資料

告訴状には、どの罪に当たると考えるかと、その罪の要件に当たる具体的な事実(告訴事実)を書きます。横領であれば、前の章の要素ごとに「何を示すか」を考えると整理しやすくなります。下の表は、要素と、示す事実、手がかりになる資料の例を並べたものです。

横領の要素ごとに示す事実と資料の例

要素告訴状で示すこと手がかりになる資料の例
他人の物その金銭・物が誰のものか(会社の資金、親の預金など)名義が分かる預金通帳・口座の記録、帳簿
占有(預かっていたこと)犯人がどういう立場で、いつから管理していたか。業務として預かっていたか職務分掌・権限規程、担当者の指名書、届出印・代表者印の管理記録
横領行為いつ・いくら・どのように処分したか(行為ごとに)総勘定元帳・現金出納帳、入出金の明細、私的な口座への振込の記録
不法領得の意思与えられた権限の範囲を超えた処分であること使ってよい範囲を示す定め、処分の態様が分かる記録(虚偽の経費申請、帳簿の書換えなど)

要件は刑法252条・253条と最高裁昭和24年3月8日判決による。資料の例は条文の要素に対応させた整理で、警察がどの資料を求めるかを定めた公式の基準は、このページの資料では確認できていません。

着服が何回も続いた場合の扱いについては、次の判例があります。

最高裁第二小法廷 昭和30年10月14日判決

昭和28年(あ)第2816号・刑集9巻11号2192頁裁判所サイトの判示事項・裁判要旨で確認

事案
市役所の税務課の職員が、滞納者から徴収して保管していた税金を、2年余りの間に50回余り着服した業務上横領の事件です。
判断の要点
各回の犯行がさほど近接しておらず、行為の態様も一様ではなく、当初から一括して着服しようとする包括的な犯意も認められないときは、着服行為ごとに一罪が成立し、併合罪になるとしました。

確認した場所:裁判所 裁判例検索

着服が行為ごとに別の罪として扱われうる以上、告訴状でも、分かる範囲で「いつ・いくら・どの方法で」を一回ずつ時系列で書き出しておくことに意味があります。

告訴状全体の構成や、告訴事実の特定の考え方は、告訴状の書き方と相手不明の場合の告訴のページで説明しています。なお、社内での処分や雇用上の扱いは労働法の問題で、刑事の告訴とは別の手続です。

公訴時効と、民事の請求(不当利得・損害賠償)との関係

公訴時効の年数は、法定刑の長期を刑訴法250条2項に当てはめて決まります。横領は5年(5号)、業務上横領は7年(4号)、遺失物等横領は3年(6号)、背任は5年(5号)です。時効は犯罪行為が終わった時から進みます(刑訴法253条1項)。

着服が行為ごとに別の罪になる場合は、罪ごとに数えることになるため、古い行為から先に期限が来る可能性があります。年数の出し方と時効の停止は公訴時効の早見表のページで扱っています。

お金を取り戻すことは、刑事の告訴とは別に、民法上の請求として考えます。法律上の原因なく他人の財産で利益を受けた人は、その利益を返す義務を負い(民法703条。不当利得)、故意または過失で他人の権利を侵害した人は、生じた損害を賠償する責任を負います(民法709条。不法行為)。不法行為による損害賠償の請求権は、損害と加害者を知った時から3年、不法行為の時から20年で時効により消滅します(民法724条)。刑事の公訴時効とは別に進む期間です。

告訴は処罰を求める意思表示で、返金を求める手続ではありません。逆に、返金や示談があっても、それで犯罪が成り立たなくなるわけではありません。示談が告訴や処分とどう関係するかは受理後の流れと取下げ・示談・虚偽告訴の注意のページにあります。

統計:横領・背任の告訴はどのくらいあるか

統計横領・背任の警察経由の告訴の人員(2016〜2025年)

年横領(業務上・遺失物等を含む)背任
2016年35325
2017年41137
2018年37824
2019年31135
2020年37945
2021年41231
2022年33962
2023年40061
2024年36950
2025年40888

出典:検察統計調査(e-Stat)年次 表37「罪名別 既済となった被疑事件の捜査の端緒別人員」の「司法警察員に告訴」列、2016〜2025年(2025年の表)

人員は検察で処理が済んだ被疑者の数で、警察が告訴を受理した件数ではありません。警察が受理しなかった告訴、送致前の告訴、氏名不詳のままの告訴は含まれません。2025年の既済人員に占める告訴(警察経由+検察官への告訴)の割合:横領 (408+16)÷7,880=5.4%、背任 (88+2)÷254=35.4%(いずれも同じ表37の値)。

横領の告訴は、2016年から2025年まで毎年300〜400人台で推移しています。この区分には業務上横領と遺失物等横領も含まれます。2025年の告訴(警察経由と検察官への告訴の合計)424人は、告訴全体8,318人の5.1%でした。

罪名ごとに見ると、横領は既済人員の5.4%だけが告訴から始まっており、事件の多くは被害届や警察の認知など、告訴以外のきっかけから捜査されています。これに対し、背任は既済人員が2025年で254人と少ないものの、その35.4%が告訴を端緒としています。

警察の統計(警察庁「令和7年の刑法犯に関する統計資料」)では、遺失物等横領(占有離脱物横領)を除いた横領の認知件数は2025年に2,518件、検挙件数は1,608件、背任は認知149件、検挙97件でした。警察の「件数」と検察の「人員」は直接比べられません。

検察庁の処理では、2024年の横領(遺失物等横領を含む)は起訴1,417人、不起訴4,960人(うち起訴猶予4,258人)で、起訴率は22.2%でした(令和7年版犯罪白書 資料2-2)。告訴事件に限らない全体の数字です。起訴率の読み方は検察統計でみる告訴事件の起訴率と期間のページで扱っています。

まとめ

  • 自分が預かっている他人の物を横領すれば横領罪(5年以下の拘禁刑)、仕事として預かった物なら業務上横領罪(10年以下の拘禁刑)、他人の事務を任された人が任務に背いて財産上の損害を与えれば背任罪です。
  • 不法領得の意思は、権限がないのに所有者でなければできない処分をする意思で、後で埋め合わせるつもりがあっても横領罪の成立は妨げられません(最高裁昭和24年3月8日判決)。
  • 犯人が親族なら刑法255条・251条で244条が準用され、配偶者・直系血族・同居の親族は刑の免除、その他の親族は親告罪(6か月の告訴期間)になります。家庭裁判所が選任した後見人には244条1項は準用されません。
  • 告訴状では、着服を行為ごとに「いつ・いくら・どの方法で」と特定しておくことに意味があります。
  • 公訴時効は横領5年、業務上横領7年、背任5年です。返金を求める民事の請求(民法703条・709条)は刑事の告訴とは別に考えます。

このページの出典

  1. 法令刑法 第235条・第244条・第246条・第247条・第251条・第252条・第253条・第254条・第255条(e-Gov法令検索)確認日 2026-10-24
  2. 法令刑事訴訟法 第230条・第235条・第250条・第253条(e-Gov法令検索)確認日 2026-10-24
  3. 法令犯罪捜査規範 第66条(e-Gov法令検索)確認日 2026-10-24
  4. 法令民法 第703条・第709条・第724条・第725条(e-Gov法令検索)確認日 2026-10-24
  5. 判例最高裁第三小法廷 昭和24年3月8日判決(昭和23年(れ)第1412号、刑集3巻3号276頁)判示事項・裁判要旨確認日 2026-10-24
  6. 判例最高裁第二小法廷 昭和23年6月5日判決(昭和23年(れ)第89号、刑集2巻7号641頁)判示事項・裁判要旨確認日 2026-10-24
  7. 判例最高裁第三小法廷 平成16年8月25日決定(平成16年(あ)第882号、刑集58巻6号515頁)判示事項・裁判要旨確認日 2026-10-24
  8. 判例最高裁第一小法廷 昭和45年3月26日判決(昭和42年(あ)第1235号、刑集24巻3号55頁)判示事項・裁判要旨確認日 2026-10-24
  9. 判例最高裁第三小法廷 平成21年11月9日決定(平成18年(あ)第2057号、刑集63巻9号1117頁)判示事項・裁判要旨確認日 2026-10-24
  10. 判例最高裁第一小法廷 平成20年5月19日決定(平成18年(あ)第2030号、刑集62巻6号1623頁)判示事項・裁判要旨確認日 2026-10-24
  11. 判例最高裁第二小法廷 平成6年7月19日決定(平成6年(あ)第234号、刑集48巻5号190頁)判示事項・裁判要旨確認日 2026-10-24
  12. 判例最高裁第一小法廷 平成20年2月18日決定(平成19年(あ)第1230号、刑集62巻2号37頁)判示事項・裁判要旨確認日 2026-10-24
  13. 判例最高裁第二小法廷 平成24年10月9日決定(平成24年(あ)第878号、刑集66巻10号981頁)判示事項・裁判要旨確認日 2026-10-24
  14. 判例最高裁第二小法廷 昭和35年12月22日決定(昭和32年(あ)第2717号、刑集14巻14号2204頁)判示事項・裁判要旨確認日 2026-10-24
  15. 判例最高裁第二小法廷 昭和30年10月14日判決(昭和28年(あ)第2816号、刑集9巻11号2192頁)判示事項・裁判要旨確認日 2026-10-24
  16. 統計検察統計調査(e-Stat)年次 表37 罪名別 既済となった被疑事件の捜査の端緒別人員(2016〜2025年)確認日 2026-10-24
  17. 統計警察庁 令和7年の刑法犯に関する統計資料(図表1-2-5 知能犯)確認日 2026-10-24
  18. 統計法務総合研究所 令和7年版犯罪白書 資料2-2 検察庁終局処理人員(令和6年)確認日 2026-10-24
  19. 官公庁最高裁判所「後見人等による不正事例」(ページの存在のみ確認)確認日 2026-10-24

よくあるご質問

経理担当の従業員が会社の預金を使い込みました。何罪になりますか。

仕事として管理を任されていた会社の資金を自分のために処分したのであれば、業務上横領罪(刑法253条、10年以下の拘禁刑)が問題になります。最高裁昭和30年10月14日判決は、職員が保管していた税金の着服を業務上横領とし、判示の事情のもとで包括的な犯意が認められないとして、着服ごとに一罪(併合罪)としています。預金の管理を任されていたのではなく、他人が管理する現金を持ち出したのなら窃盗の問題になるなど、どの罪に当たるかは事実関係によって変わります。

「後で返すつもりだった」と言われました。それでも横領になりますか。

その説明だけで横領罪が成り立たなくなるわけではありません。最高裁昭和24年3月8日判決は、処分の時点で後から埋め合わせるつもりがあっても横領罪の成立は妨げられないとしています。問題になるのは、権限がないのに所有者でなければできない処分をしたかどうかで、預けた側がどこまで使うことを認めていたかは確かめる必要があります。返金や示談と処分との関係は「受理後の流れと取下げ・示談・虚偽告訴の注意」のページで扱っています。

同居していない兄が、親から預かったお金を使い込みました。家族なので罪にならないのですか。

罪にならないとは定められていません。被害者が親の場合、兄は親の直系血族なので、刑法255条が準用する244条1項により、同居かどうかにかかわらず「刑を免除する」扱いになります。ただし、兄が家庭裁判所から親の成年後見人に選任されていた場合は、最高裁平成24年10月9日決定は、244条1項は準用されないとしています。同居していないおじ・おばなど他の親族の場合は親告罪になり、犯人を知った日から6か月以内の告訴が必要です(刑訴法235条)。

会社が被害者のとき、告訴は誰の名前でするのですか。

刑訴法230条は告訴できる人を「犯罪により害を被つた者」と定め、人に限るとは書いていないため、条文の文言上は会社(法人)が告訴人になることは排除されていないと読めます。ただし、法人の告訴を正面から示した判例・公式の解説は確認できていません。代理人が告訴するときは、警察は委任状を出させることになっています(犯罪捜査規範66条1項)。詳しくは「告訴・告発・被害届の違いと告訴できる人」のページで説明しています。

横領の公訴時効は何年ですか。民事で返金を求める場合の期限は別ですか。

公訴時効は、横領が5年、業務上横領が7年、遺失物等横領が3年、背任が5年です(刑訴法250条2項)。犯罪行為が終わった時から進みます(刑訴法253条1項)。民事の不法行為による損害賠償の請求権は、損害と加害者を知った時から3年、不法行為の時から20年で時効により消滅し(民法724条)、刑事の時効とは別に進みます。不当利得の返還請求(民法703条)の期限は、このページの資料では扱っていません。

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本ページは一般的な情報提供です。告訴・告発が受理されるか、どの罪が成立するか、起訴されるかは、事実関係と証拠をもとに警察・検察が判断することで、このページの説明で結論が決まるものではありません。条文は e-Gov法令検索(法令API)で2026年10月24日時点のものを、統計は政府統計の総合窓口(e-Stat)ほか各府省の公表資料を確認しています。参考: e-Gov法令検索 / e-Stat / 警察庁 / 検察庁 / 裁判所 / 法務省

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