このページの要点
- 告訴を受けた警察は書類と証拠物を速やかに検察官へ送付します(刑訴法242条)。起訴するかは検察官が決め、告訴があっても起訴が義務になるわけではありません。
- 検察庁での処理期間は、告訴・告発事件で2025年に3月以内74.0%、6月以内89.5%(検察統計 表30)。警察にある間の期間は含まれていません。
- 告訴は起訴まで取り消せますが、取り消すと同じ事件で告訴し直せません(刑訴法237条)。親告罪では取消しで起訴できなくなり、示談交渉の代理は弁護士の領域です。
- 虚偽の告訴は3月以上10年以下の拘禁刑(刑法172条)。判例は虚偽かもしれないという認識でも足りうるとしており、事実と推測を分けて書くことが大切です。
結論:受理された告訴は警察から検察官へ送られ、検察官が起訴するかどうかを決めます
結論
- 警察(司法警察員)が告訴を受けると、関係する書類と証拠物を速やかに検察官へ送付しなければなりません(刑訴法242条)。起訴するかどうかを決めるのは、原則として検察官です(同247条)。
- 検察庁に事件が届いてから処理が済むまでの期間は、告訴・告発事件で2025年は3月以内が74.0%、6月以内が89.5%でした(検察統計 表30)。警察にある間の期間は、この数字に含まれていません。
- 告訴は起訴されるまでなら取り消せますが、一度取り消すと同じ事件で告訴し直すことはできません(刑訴法237条)。示談をきっかけに取り消すときは、この点を先に確かめる必要があります。
- 事実と違うと分かっていながら、人に処罰を受けさせる目的で告訴すると、虚偽告訴の罪(刑法172条、3月以上10年以下の拘禁刑)に問われます。
告訴とは、犯罪の被害を受けた人などが、警察や検察官に犯罪の事実を申し出て、犯人の処罰を求める意思を示すことです。告訴をした人を告訴人、処罰を求められた相手を被告訴人(捜査の段階では被疑者)と呼びます。警察が告訴を正式に受け付けることを受理といいます。
このページは、告訴が受理された後に何が起きるのかを、刑事訴訟法(以下「刑訴法」)と犯罪捜査規範(警察官が捜査で守るべき事項を定めた国家公安委員会規則)の条文、検察統計、法務省(検察庁)の説明から整理し、取消し・示談・虚偽告訴の罪も扱います。
受理される前の段階で止まっている場合は、告訴状が受理されない理由と対処のページを先にご覧ください。
受理後の流れ:警察の捜査から検察官の処分まで
告訴は書面または口頭で、検察官または司法警察員(告訴を受理する立場にある警察官。犯罪捜査規範63条1項)にします(刑訴法241条1項)。口頭で告訴したときは、受けた側が調書を作ります(同条2項、犯罪捜査規範64条1項)。警察で告訴人から話を聴いて作る告訴調書と、告訴人が自分で出す告訴状との違いは、告訴状の書き方と相手不明の場合の告訴のページで説明しています。
受理された後の主な段階を、根拠となる条文とともに並べると次のとおりです。ここで挙げた条文には、警察段階の各手続に何日かけるかの定めはなく、「速やかに」「すみやかに」という言葉で定められています。
告訴が受理されてから処分の通知まで
警察署(司法警察員)
告訴を受理する。口頭の告訴は告訴調書にする
刑訴法241条、犯罪捜査規範64条
警察署
特にすみやかに捜査するよう努める。管轄外で処理できないときは関係する警察へ移送し、移送先を告訴人に知らせる
犯罪捜査規範67条・69条
警察 → 検察官
犯罪の事実と情状についての意見を付けた送付書に、関係書類と証拠物を添えて送る
刑訴法242条、犯罪捜査規範195条
検察官
必要と認めるときは自ら捜査し、起訴(公訴の提起)するか、しないかを決める
刑訴法191条・247条・248条
検察官 → 告訴人
起訴・不起訴の処分を通知する。不起訴の理由は告訴人の請求があれば告げる
刑訴法260条・261条
不起訴の処分に不服があるときの検察審査会などの手続は、処分の後の段階として別のページで扱います。
司法警察員は、告訴又は告発を受けたときは、速やかにこれに関する書類及び証拠物を検察官に送付しなければならない。
(略)
司法警察員は、犯罪の捜査をしたときは、この法律に特別の定のある場合を除いては、速やかに書類及び証拠物とともに事件を検察官に送致しなければならない。但し、検察官が指定した事件については、この限りでない。
要旨前半が242条、後半が246条です。被害届(被害の申告にとどまり、処罰を求める意思表示を含まない届出)による事件は、警察が捜査をしたうえで246条により「送致」され、検察官が指定した事件はその例外になりえます。告訴・告発があった事件は、242条で「告訴又は告発を受けたとき」に書類と証拠物を「送付」すると定められている点が違います。
検察官は自ら捜査することもでき(刑訴法191条1項)、そのうえで公訴を提起する(起訴する)かどうかを決めます。法務省(検察庁)の説明では、不起訴には証拠が足りない「嫌疑不十分」や、証拠は十分でも事情により訴追の必要がない「起訴猶予」などがあります。起訴猶予の根拠は刑訴法248条で、告訴があっても起訴が義務になるわけではありません。
警察での捜査:犯罪捜査規範が定める注意点
犯罪捜査規範は、告訴・告発のあった事件について、特にすみやかに捜査を行うよう努めることを定めています(67条)。同じ条文は、捜査にあたって二つの点に注意するよう求めています。一つは、誣告(ぶこく。人を陥れるための虚偽の申告)や中傷を目的とする虚偽・著しい誇張ではないか、もう一つは、告訴された犯罪事実のほかに犯罪がないかです。
警察は、告訴の内容に事実と違う部分や大げさな部分がないかを確かめながら捜査を進める立場にあります。後の章で扱う虚偽告訴の罪とも関わる条文です。
告訴または告発があつた事件については、特にすみやかに捜査を行うように努めるとともに、次に掲げる事項に注意しなければならない。
(1) ぶ告、中傷を目的とする虚偽または著しい誇張によるものでないかどうか。
(2) 当該事件の犯罪事実以外の犯罪がないかどうか。
要旨「努める」とされているため、捜査を終えるまでの日数を定めたものではありません。虚偽・誇張の有無と、ほかの犯罪の有無に注意することが求められています。
告訴を受けた警察の管轄区域の外で起きた犯罪のために処理できない、または処理が適当でないときは、警察本部長・警察署長が関係する警察へ移送し、移送先を告訴人に通知します(犯罪捜査規範69条)。受理した警察署と実際に捜査する警察署が変わることがあるため、移送の通知を受けたときは、以後の問い合わせ先が変わったことになります。
また、告訴がなければ起訴できない罪(親告罪)であっても、すぐに捜査しないと証拠の収集が著しく難しくなるおそれがあるときは、告訴の前でも警察は捜査しなければならないとされています(同70条)。親告罪の範囲は告訴期間6か月と親告罪の一覧のページにまとめています。
どのくらいかかるか:検察庁での処理期間の統計
告訴状を出してから結論までの全国の統計は、調べた範囲では確認できませんでした。数字で確かめられるのは、検察庁が事件を受け取ってから処理が済む(既済となる)までの期間で、検察統計の表30が告訴・告発事件の期間別の人員を公表しています。2025年は13,347人のうち、3月以内に9,873人(74.0%)の処理が済み、1年を超えたのは217人(1.6%)でした。
統計告訴・告発事件の検察庁での処理期間(2025年)
| 期間(検察庁が受理した日から既済まで) | 人員 | 累積の割合 |
|---|---|---|
| 15日以内 | 4,030人 | 30.2% |
| 1月以内 | 2,406人 | 48.2% |
| 2月以内 | 2,202人 | 64.7% |
| 3月以内 | 1,235人 | 74.0% |
| 6月以内 | 2,072人 | 89.5% |
| 1年以内 | 1,185人 | 98.4% |
| 2年以内 | 210人 | 99.9% |
| 2年を超える | 7人 | 100.0% |
| 計 | 13,347人 | — |
出典:検察統計(e-Stat)表30「最高検、高検及び地検管内別 被疑事件の総数及び告訴、告発事件の処理期間別人員」(自動車による過失致死傷等及び道路交通法等違反被疑事件を除く)、2025年、総数行の告訴・告発事件(刑法犯と特別法犯の合計)
累積の割合は当該期間までの人員の合計÷13,347。例:3月以内=(4,030+2,406+2,202+1,235)÷13,347=9,873÷13,347=74.0%。1年超=(210+7)÷13,347=1.6%。
10年間を並べると、3月以内に処理が済んだ割合は71.5〜79.9%、6月以内は88.3〜92.8%の範囲で動いており、はっきりした増減の傾向は見られません。一方、告訴・告発に限らない全事件では、(自動車による過失致死傷等・道路交通法等違反を除く)、2025年の3月以内が90.4%、6月以内が97.6%で、告訴・告発事件は検察庁での処理に時間がかかる側にあります。
統計告訴・告発事件の処理期間の割合(2016〜2025年)
| 年 | 3月以内 | 6月以内 | 1年超 | (参考)全事件の3月以内 |
|---|---|---|---|---|
| 2016 | 71.5% | 88.3% | 2.2% | 92.8% |
| 2017 | 79.9% | 91.9% | 1.5% | 93.1% |
| 2018 | 76.7% | 90.7% | 1.4% | 93.0% |
| 2019 | 76.7% | 92.8% | 1.2% | 92.9% |
| 2020 | 79.4% | 92.2% | 1.2% | 92.0% |
| 2021 | 74.7% | 88.9% | 1.9% | 92.1% |
| 2022 | 74.6% | 89.4% | 1.2% | 91.4% |
| 2023 | 76.0% | 92.4% | 1.4% | 91.2% |
| 2024 | 77.3% | 92.0% | 1.0% | 90.8% |
| 2025 | 74.0% | 89.5% | 1.6% | 90.4% |
出典:検察統計(e-Stat)表30、2016〜2025年、総数行(全事件は自動車による過失致死傷等及び道路交通法等違反被疑事件を除く)
各年の割合は、3月以内=(15日以内+1月以内+2月以内+3月以内)÷告訴・告発事件の計、6月以内=それに6月以内を加えて÷計、1年超=(2年以内+2年を超える)÷計。元の人員は表30の各年の総数行。
この数字を読むときは、三つの限界に注意が必要です。第一に、起算点は検察庁が事件を受理した日で、警察が告訴を受けてから検察官へ送るまでの期間は入っていません。第二に、告訴だけでなく告発の事件も含みます。第三に、表30は他の検察庁へ送った事件も含むため、起訴・不起訴の内訳を示す表37・38とは人員が合いません(2025年の総数の差46,699人は、表8の「他の検察庁に送致」の人員と一致します)。起訴率や不起訴の内訳など検察統計の全体は、検察統計でみる告訴事件の起訴率と期間のページで扱っています。
なお、受理するかどうかの判断までの期間については、知能犯罪(範囲は概要からは特定できません)の告訴・告発に限って、特別な事情がある場合を除き、最初の相談日から3か月以内に受理・不受理を判断するよう努めるとした警察庁の通達(令和6年1月5日 警察庁丁捜二発第2号。公表されているのは概要のみ)があります。受理後の捜査期間の目安ではなく、すべての告訴に当てはまるものでもありません。県警ごとの扱いは県警ごとの告訴取扱要綱のちがいのページで比べています。
確認できていないこと
警察が告訴を受理してから検察官へ送付するまでの期間について、全国の統計は調べた範囲では確認できませんでした。上の数字は検察庁に事件が届いた後の期間だけを示しています。
被害者への通知と、情報を得るための制度
受理後の経過を知る手段は、条文と公式の制度でいくつかに分かれています。検察官は、告訴のあった事件で起訴または不起訴の処分をしたときは、速やかに告訴人に通知しなければなりません(刑訴法260条)。この知らせを処分通知と呼びます。不起訴の理由は、告訴人が請求したときに告げられます(同261条)。処分通知と理由の告知の詳しい内容、その後の検察審査会への申立ては、不起訴になったら:検察審査会と付審判のページで説明しています。
警察の側では、犯罪捜査規範10条の3が、被害者やその親族(被害者等)に刑事手続の概要を説明し、捜査の経過など被害者等の救済や不安の解消に役立つ事項を通知するよう定めています。この条文の対象は告訴人に限られません。ただし、捜査や公判に支障がある場合や、関係者の名誉などを不当に害するおそれがある場合は除かれます。
捜査を行うに当たつては、被害者等に対し、刑事手続の概要を説明するとともに、当該事件の捜査の経過その他被害者等の救済又は不安の解消に資すると認められる事項を通知しなければならない。ただし、捜査その他の警察の事務若しくは公判に支障を及ぼし、又は関係者の名誉その他の権利を不当に侵害するおそれのある場合は、この限りでない。
要旨警察は、被害者等に手続の概要と捜査の経過などを知らせることが原則とされています。捜査への支障などがあれば通知されないことがあります。
受理後の経過や結果を知るための主な制度
| 制度 | 誰に・何が | 根拠・窓口 |
|---|---|---|
| 処分通知 | 告訴人に、起訴・不起訴の処分(公訴の取消し、他の検察庁への送致を含む) | 刑訴法260条 |
| 不起訴理由の告知 | 告訴人の請求があったとき、不起訴の理由 | 刑訴法261条 |
| 警察からの通知 | 被害者等に、刑事手続の概要と捜査の経過など(支障がある場合を除く) | 犯罪捜査規範10条の3 |
| 被害者等通知制度 | 被害者や親族等に、できる限り、事件の処分結果や刑事裁判の結果など(法務省の説明による) | 法務省(検察庁)の制度 |
| 被害者ホットライン | 検察庁への被害相談や事件に関する問い合わせ | 全国の地方検察庁等 |
| 公判記録の閲覧・謄写 | 起訴後、第1回公判期日の後から事件の終結までの間、被害者等の申出による | 犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律3条 |
被害者等通知制度の対象者・通知項目の細部は、法務省のページ(犯罪被害者の方々へ 2 被害者等通知制度)のQ&Aで確かめる必要があります。
法務省の説明では、被害者等通知制度は、検察庁が被害者や親族等に、できる限り、処分結果や刑事裁判の結果、加害者の受刑中の処遇状況などを通知する制度とされています。被害者ホットラインの番号は検察庁ごとに異なるため、法務省の一覧ページで確かめてください。起訴後の公判記録の閲覧・謄写は、犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律(以下「犯罪被害者保護法」)3条によるもので、理由が正当でない場合などは認められません。
確認できていないこと
警察が被害者等へ捜査の経過を通知する際の具体的な運用(通達で定める実施要領)の本文は、調べた範囲では確認できていません。
進んでいないと感じたときに確かめること
まず確かめたいのは「今、事件がどの段階にあるか」です。受理前か、警察で捜査中か、検察官に送られた後か、処分が済んだかで、問い合わせる先と使える手続が変わります。
事件が今どの段階にあるかを確かめる
警察から告訴を受理したと伝えられていますか。
はい次の問いへ。
いいえ受理前の段階です。告訴状が受理されない理由と対処のページへ。
別の警察へ移送したという通知を受けましたか。
はい移送先の警察が事件を扱っています(移送先の通知は犯罪捜査規範69条2項)。移送先に問い合わせます。
いいえ次の問いへ。
検察官から起訴・不起訴の通知(処分通知)が届いていますか。
はい処分の後の段階です。不起訴になったら:検察審査会と付審判のページへ。
いいえ警察で捜査中か、検察官の手元にあります。受理した警察署に経過を尋ねるか、送付後であれば担当の検察庁(被害者ホットライン)に問い合わせます。
警察には被害者等に捜査の経過を知らせる定めがあります(犯罪捜査規範10条の3)。ただし、捜査に支障がある場合などは通知されないことがあります。
尋ねるときは、受理した警察署、受理した日、担当の部署を手元に控えておくと、どの事件の話かが伝わりやすくなります。
検察官に送付された後は、警察ではなく検察庁が事件を持っています。刑訴法242条は送付を「速やかに」と定めています。送付されたかどうかが分からなければ、受理した警察署に尋ねることになります。
被害の相談や生活上の支援を受けられる公的な窓口・制度は、行政書士に頼めること・頼めないこと・費用のページで、業務の範囲とあわせて整理しています。
告訴の取消しと再告訴の禁止(刑訴法237条)
告訴は、起訴されるまでなら取り消すことができます(刑訴法237条1項)。一般に「告訴の取下げ」と呼ばれるものは、法律上はこの「取消し」です。取り消した人は、同じ事件で告訴をし直すことができません(同条2項)。法務省(検察庁)の被害者向けの説明も、「一旦告訴を取り消した場合は、再度告訴をすることはできません」と明記しています。起訴された後は、取り消すことはできません。
告訴は、公訴の提起があるまでこれを取り消すことができる。
2 告訴の取消をした者は、更に告訴をすることができない。
(略)
前二条の規定は、告訴又は告発の取消についてこれを準用する。
要旨(略)の前が237条1項・2項、後が243条です。237条は取消しができる時期(起訴まで)と、取り消した後は告訴し直せないことを定めます。243条により、取消しも告訴と同じく書面または口頭で検察官または司法警察員にし、司法警察員が受けたときは書類を検察官に送ります(241条・242条の準用)。
取消しの方式について、犯罪捜査規範は、口頭で告訴の取消しを受けたときは告訴取消調書を作ると定めています(64条2項)。親告罪の事件を検察官に送付した後に取消しを受けたときは、警察は直ちに検察官に通知し、必要な書類を追って送ります(同71条)。
取消しの効果は、親告罪かどうかで大きく違います。親告罪は告訴がなければ起訴できない罪なので、起訴前に告訴が取り消されれば、検察官は起訴できなくなります。検察統計の不起訴の区分にも「親告罪の告訴・告発・請求の欠如・無効・取消し」があり、警察(司法警察員)に告訴された事件で検察庁の処理が済んだ人員のうち、2025年は281人がこの区分でした(表38。ただし、このうち取消しが何人かは表からは分かりません)。親告罪でない罪(非親告罪)では、告訴は起訴の条件ではないため、条文の構造上、告訴を取り消しても起訴ができなくなるわけではありません。
また、親告罪で共犯者が複数いるとき、一人に対する告訴の取消しは他の共犯者にも効力が及びます(刑訴法238条1項)。告訴の不可分については告訴期間6か月と親告罪の一覧のページで扱っています。
告訴を取り消したときの効果(条文から整理)
| 親告罪(名誉毀損・侮辱・器物損壊など) | 非親告罪(傷害・暴行・脅迫など) | |
|---|---|---|
| 起訴前の取消し | できる(237条1項)。起訴の条件である告訴がなくなる | できる(237条1項) |
| 取消し後の起訴 | 告訴がないため起訴できない | 告訴は起訴の条件ではないため、取消しで起訴が妨げられるとする条文はない |
| 同じ事件での告訴のし直し | できない(237条2項) | できない(237条2項) |
| 起訴後の取消し | できない(237条1項) | できない(237条1項) |
非親告罪で取消しが検察官の判断にどう影響するかを示す公的資料・統計は、調べた範囲では確認できていません。
示談との関係:制度として知っておきたいこと
示談とは、被害者と加害者が、損害の賠償などについて話し合い、合意することをいいます。示談そのものは民事上の合意で、示談が成立したからといって、成立した犯罪が消えるわけではありません。刑事手続との関係で条文から言えるのは、次の点です。
- 示談の条件として告訴の取消しが話題になっても、取り消せば同じ事件で告訴し直せません(刑訴法237条2項)。約束が守られる前に取り消すと、守られなかったときに告訴で対応する手段がなくなります。
- 親告罪では、起訴前の取消しにより起訴ができなくなります。非親告罪では、取消しによって起訴が妨げられるわけではありません。
- 検察官が起訴しないことができる事情として、刑訴法248条は「犯罪後の情況」を挙げています。条文の文言からは、示談や被害の回復もこれに当たりうると読めますが、示談がどの程度処分に影響するかを示す統計は、調べた範囲では確認できていません。
- 犯罪捜査規範には、告訴の取消しについての定め(64条2項・71条)はありますが、被害届の取下げの手続を定めた規定は、資料の全文検索の範囲では見当たりませんでした。被害届を取り下げれば捜査が終わる、という根拠も同規範には見当たりません。
示談の相手方との交渉を代理することは、弁護士法72条(弁護士でない者が報酬目的で法律事件の代理・和解などを業とすることの禁止)が関わる弁護士の領域とされています。金額や条件、取消しを約束するかどうかは被害者本人が判断することで、当事務所は示談交渉の代理をしません。
民事上の損害賠償の請求には、別に期間の制限があります。民法724条は、損害と加害者を知った時から3年(生命・身体の侵害は5年。724条の2)、不法行為の時から20年で請求権が時効により消滅すると定めています。刑事の告訴期間(親告罪で犯人を知った日から6か月)とは別に進みます。
確認できていないこと
告訴の取消しの時期と示談の効果(示談の成立が起訴・不起訴にどう影響するか、取消しをどの段階で行う例が多いか)を直接示す公的資料・統計は、調べた範囲では確認できませんでした。このため、取消しの実務についての一般的な目安は示していません。
刑事裁判の中で使える被害回復の制度:刑事和解と損害賠償命令
起訴されて刑事裁判が始まると、犯罪被害者保護法による二つの制度が使える場合があります。いずれも起訴後の制度で、告訴の段階では使えません。
一つは刑事和解です。被告人と被害者等が、その事件の被害を含む民事上の争いについて合意したとき、共同で、合意を公判調書に記載するよう裁判所に申し立てられます(19条1項)。申立ては弁論の終結までに公判期日に出頭し、書面を出して行います(同条3項)。
刑事被告事件の被告人と被害者等は、両者の間における民事上の争い(当該被告事件に係る被害についての争いを含む場合に限る。)について合意が成立した場合には、当該被告事件の係属する第一審裁判所又は控訴裁判所に対し、共同して当該合意の公判調書への記載を求める申立てをすることができる。
(略)
4 第一項又は第二項の規定による申立てに係る合意を公判調書に記載したときは、その記載は、裁判上の和解と同一の効力を有する。
要旨刑事裁判の中で、被告人と被害者の民事上の合意を記録に残せる制度です。合意そのものは当事者が作るもので、裁判所が内容を決めるものではありません。
もう一つは損害賠償命令です。一定の罪の刑事裁判を担当する地方裁判所に対し、被害者またはその一般承継人(相続人など)が、弁論の終結までに、起訴された事実を原因とする損害賠償を被告人に命じるよう、書面で申し立てる制度です(24条1項・2項)。対象となる罪は条文で限られています。
損害賠償命令の対象となる罪(犯罪被害者保護法24条1項)
| 号 | 対象となる罪(未遂を含む) |
|---|---|
| 1号 | 故意の犯罪行為により人を死傷させた罪 |
| 2号イ | 不同意わいせつ・不同意性交等・監護者わいせつ及び監護者性交等(刑法176条・177条・179条) |
| 2号ロ | 逮捕及び監禁(刑法220条) |
| 2号ハ | 略取・誘拐・人身売買など(刑法224条〜227条) |
| 2号ニ | その犯罪行為にイ〜ハの罪の犯罪行為を含む罪(1号の罪を除く) |
名誉毀損・侮辱・詐欺・横領・脅迫・器物損壊は、この一覧に挙がっていません。これらの被害の賠償は、示談、刑事和解、民事の手続など別の方法によることになります。
虚偽告訴の罪:事実と推測を分けて書く理由
人に刑事または懲戒の処分を受けさせる目的で、虚偽の告訴・告発その他の申告をすると、虚偽告訴等の罪として3月以上10年以下の拘禁刑に処せられます(刑法172条)。かつては誣告罪と呼ばれていました。罰金刑がなく、刑の下限が定められている重い罪です。
条文が求めるのは、申告の内容が虚偽であることと、相手に処分を受けさせる目的です。告訴した結果が不起訴になったこと自体は、条文の要件に含まれていません。証拠が足りずに起訴されなかった(嫌疑不十分)ことと、申告が虚偽だったことは別の問題です。
人に刑事又は懲戒の処分を受けさせる目的で、虚偽の告訴、告発その他の申告をした者は、三月以上十年以下の拘禁刑に処する。
(略)
前条の罪を犯した者が、その申告をした事件について、その裁判が確定する前又は懲戒処分が行われる前に自白したときは、その刑を減軽し、又は免除することができる。
要旨前半が172条、後半が173条です。虚偽の申告をした者が、申告した事件の裁判の確定前などに自白したときは、刑が軽くなるか免除されることがあります。
最高裁第二小法廷 昭和28年1月23日判決
昭和25年(あ)第475号・刑集7巻1号46頁裁判所サイトの判示事項・裁判要旨で確認。判決当時は旧規定の誣告罪で、刑罰は改正前のもの。
- 事案
- 他人を告発した者が、誣告罪(現在の虚偽告訴等の罪)に問われた事件です。
- 判断の要点
- 罪が成立するには、申告した事実が虚偽だとはっきり知っている必要はなく、虚偽かもしれないと認識していれば足りるとしました。犯罪があると考えて告発した場合でも、虚偽かもしれないと認識し、しかも告発が極めて軽々しくされたもので適法とは認められないときは、罪の成立は妨げられないとしています。
確認した場所:裁判所 裁判例検索
この判決から読み取れるのは、「本当かどうか分からないが、疑わしいので断定して書いておく」という書き方に危うさがあることです。告訴状には、自分が直接見聞きした事実と、推測や評価を分けて書き、確かめられていないことは確かめられていないと書く必要があります。犯罪捜査規範67条が、警察に虚偽・著しい誇張の有無に注意するよう求めていることも、同じ方向を指しています。
虚偽の告訴の重さを示すものとして、仙台高裁平成16年1月29日判決(平成15年(う)第190号 虚偽告訴被告事件)があります。裁判所サイトで確認できたのは事件番号・日付・事件名と控訴棄却という結果までで、二次的な要約によれば、虚偽の告訴で無関係の男性が逮捕・勾留された事案で、懲役1年の実刑(拘禁刑への一本化前の判決)が維持されたとされています。
まとめ
- 告訴を受けた警察は、関係書類と証拠物を速やかに検察官へ送付します(刑訴法242条)。起訴するかどうかは検察官が決め、告訴があっても起訴が義務になるわけではありません(247条・248条)。
- 検察庁での処理期間は、告訴・告発事件で2025年に3月以内74.0%・6月以内89.5%です(表30)。警察段階の期間は含まれず、全国の統計は確認できていません。
- 経過を知る手段には、処分通知(260条)、不起訴理由の告知(261条)、警察からの通知(犯罪捜査規範10条の3)、被害者等通知制度、被害者ホットラインがあります。
- 告訴は起訴まで取り消せますが、取り消すと告訴し直せません(237条)。親告罪では取消しで起訴できなくなります。示談交渉の代理は弁護士の領域です。
- 起訴後は刑事和解(犯罪被害者保護法19条)と、対象の罪が限られた損害賠償命令(24条)が使えます。
- 虚偽かもしれないと思いながら軽々しく告訴しても虚偽告訴の罪(刑法172条)が問題になりえます。事実と推測を分けて書きます。
このページの出典
- 法令刑事訴訟法 第191条・第237条・第238条・第241条・第242条・第243条・第246条・第247条・第248条・第260条・第261条確認日 2026-10-24
- 法令犯罪捜査規範 第10条の3・第64条・第67条・第69条・第70条・第71条・第195条確認日 2026-10-24
- 法令刑法 第172条・第173条確認日 2026-10-24
- 法令犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律 第3条・第19条・第24条確認日 2026-10-24
- 法令民法 第724条・第724条の2確認日 2026-10-24
- 法令弁護士法 第72条確認日 2026-10-24
- 統計e-Stat 検察統計調査 年次 表30 最高検、高検及び地検管内別 被疑事件の総数及び告訴、告発事件の処理期間別人員(2016〜2025年)確認日 2026-10-24
- 統計e-Stat 検察統計調査 年次 表8 罪名別 被疑事件の既済及び未済の人員(2025年。総数行の「他の検察庁に送致」)確認日 2026-10-24
- 統計e-Stat 検察統計調査 年次 表38 既済事由別 既済となった被疑事件の捜査の端緒別人員(2025年、「司法警察員に告訴」列)確認日 2026-10-24
- 判例最高裁第二小法廷 昭和28年1月23日判決(昭和25年(あ)第475号 誣告、刑集7巻1号46頁)判示事項・裁判要旨確認日 2026-10-24
- 判例仙台高裁 平成16年1月29日判決(平成15年(う)第190号 虚偽告訴被告事件)詳細ページ確認日 2026-10-24
- 官公庁法務省(検察庁)「犯罪被害者の方々へ 1 検察庁と刑事手続の流れ」3 事件処理(起訴・不起訴)確認日 2026-10-24
- 官公庁法務省(検察庁)「犯罪被害者の方々へ 2 被害者等通知制度」確認日 2026-10-24
- 官公庁法務省(検察庁)「犯罪被害者の方々へ 4 捜査段階での被害者支援」1 被害届の提出、告訴、告発確認日 2026-10-24
- 官公庁法務省 被害者ホットライン連絡先(全国の検察庁)確認日 2026-10-24
- 官公庁警察庁通達「知能犯罪に関する告訴・告発の適正かつ合理的な取扱いの推進について」(令和6年1月5日 警察庁丁捜二発第2号)概要確認日 2026-10-24
よくあるご質問
告訴状が受理されてから、結果が出るまでどのくらいかかりますか。
告訴状を出してから処分までの全体の期間を示す全国の統計は、調べた範囲では確認できていません。分かるのは検察庁に事件が届いた後の期間で、検察統計の表30によると、2025年の告訴・告発事件は3月以内に74.0%、6月以内に89.5%の処理が済んでいます。警察で捜査している期間はこれに加わります。
示談で告訴を取り消した後、相手が約束のお金を払いませんでした。もう一度告訴できますか。
できません。刑訴法237条2項は、告訴を取り消した人は更に告訴をすることができないと定めており、法務省(検察庁)の被害者向けの説明も同じ趣旨です。支払いの時期と取消しの時期の順序は示談の内容の問題で、相手方との交渉の代理は弁護士法72条が関わる弁護士の領域とされています。
傷害のような親告罪でない罪で告訴を取り消すと、事件は終わりになりますか。
条文上、終わりになるとは限りません。告訴が起訴の条件になるのは親告罪で、非親告罪では告訴は起訴の条件ではないため、取り消しても検察官が起訴できなくなるという効果は条文から生じません。起訴するかどうかは、刑訴法248条の事情を踏まえて検察官が判断します。
被害届を取り下げるのと、告訴を取り消すのは同じですか。
同じではありません。告訴の取消しは刑訴法237条・243条に定めがあり、取り消すと告訴し直せません。犯罪捜査規範にも口頭の取消しの調書(64条2項)や送付後の取消しの扱い(71条)があります。これに対し、被害届の取下げの手続を定めた規定は、同規範の全文検索の範囲では見当たりませんでした。
告訴した事件が不起訴になったら、虚偽告訴になってしまいますか。
不起訴になったことだけで虚偽告訴の罪になるわけではありません。刑法172条の要件は、人に処分を受けさせる目的で虚偽の申告をしたことです。ただし最高裁昭和28年1月23日判決は、虚偽かもしれないと認識しながら極めて軽々しく申告した場合にも罪が成立しうるとしています。
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本ページは一般的な情報提供です。告訴・告発が受理されるか、どの罪が成立するか、起訴されるかは、事実関係と証拠をもとに警察・検察が判断することで、このページの説明で結論が決まるものではありません。条文は e-Gov法令検索(法令API)で2026年10月24日時点のものを、統計は政府統計の総合窓口(e-Stat)ほか各府省の公表資料を確認しています。参考: e-Gov法令検索 / e-Stat / 警察庁 / 検察庁 / 裁判所 / 法務省